第2話 来客
祐司君がうちにバイトに来るようになって早1か月が過ぎた。この1か月で祐司君についてわかったことがいくつかある。
1つ目は、持ち前の家事スキルは完全独学であるということ。2つ目は様々な資格を持っていること。そして3つ目は、初対面の女性が苦手であること。恐らく、初めてうちに来た時に緊張していたのは、そのためだろう。資格は、高校生の時に取っていたらしく、簿記2級に秘書検定2級、フードコーディネーターに心理カウンセラーまで持っていた。
そんな彼だが、1か月たつ頃には、だいぶ慣れてきたようで前より会話が弾むようになり、よく笑うようになった。今では、彼と一緒に夕食を食べるのが楽しみになっていた。今日の夕食について考えながら歩いていると、
「社長!」
後ろから声が聞こえ振り返るとそこには、大学の後輩の
「どうしたの?そんなに慌てて」
「社長、お昼まだですよね。一緒に食べに行きましょう。」
「ごめんなさい。今日はお弁当があるの。」
月乃は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、
「えっ?お弁当?...」
「家事が一切できない社長が弁当?まさか 彼氏ですか!」
彼女は、私の顔にグッと近づいた。
「ち、違うわよ。弟の友達を家事代行のアルバイトとして雇っただけ。」
そう否定したが、なぜか胸がもやもやする。
確かに、祐司君には、だいぶお世話になっている。毎日欠かさずうちに来てご飯は作ってくれるし、部屋も掃除してくれる。少し悩んだり、落ち込んだりすると話し相手になってくれる。最近では、私の健康を気にしてお弁当まで作ってくれるようになり、感謝しきれないくらいだ。
「でも年下だし、未成年だし、弟の友達 だし・・・。」
「社長?聞いてますか?」
月乃に声をかけられ、我に返った。
「あっごめん。なんだっけ?」
「も~聞いててくださいよ。今度の週末社長の家に行ってもいいですか?」
「そのアルバイトの子にも会いたいですし。」
「え?どうかな。その子にも聞かないと。今日聞いておくね。」
正直悩んだ。確かに、祐司君は、週末もうちに来てくれるが、初対面の女性が苦手だし、大学生とはいえ、一応未成年だし会社に変な噂が流れる可能性もある。そんなことも考えながら、今日の業務を終わらせ、自宅に帰った。
「ただいま。」
「おかえりなさい。お疲れ様でした。ご飯もう少しかかりますから先にお風呂入ってきてください。」
「ありがとう。」
お風呂を済ませ、リビングへ行くと温かいご飯が食卓に並んでいた。
「さぁ食べましょう。」
「美味しそう。いつもありがとうね。」
「いえ。食材費も出していただいていますし、広いキッチンで料理するのも楽しいですから。」
ご飯を食べながら今日あった出来事の話になったから月乃の話をしてみた。
「祐司君。今度の週末もうちに来るよね?」
「?はい。来ますよ。午前は奏多と勉強会しますが午後から行きます。」
「あのね、私の後輩で今は社員の子が祐司君に会いに家に来たいって言ってるんだけど。」
「判断は、祐司君に任せようと思う。初対面の人苦手でしょ。」
「いいですよ。俺は午後からになりますけど。」
断れるのを覚悟で聞いたが、了承されるとは思ってなかった。
「本当に大丈夫?無理してない?」
「無理なんてしてないですよ。俺もそろそろ初対面の人と話せるようになりたいですし早苗さんが呼んでもいいと思える人なら信用できますから。」
そう言ってほほ笑んだ。そんな彼を見て大丈夫だろうと判断し、月乃を呼ぶことにした。
翌日..
昼休みになり、自分の机で昼食をとっていた月乃を呼び、自分の家に来ていい旨を伝えた。
「本当ですか?お酒たくさん持っていきますね。」
「それじゃあまた週末にね。今ある仕事ちゃんと終わらせるのよ。」
「はい。もちろんです。」
月乃は、満面の笑みを浮かべて自分の机へと戻っていた。
週末--
約束の日になり、お昼ごろに大量のお酒を持って月乃がうちの来た。
「お邪魔します。お部屋きれいですね。」
「ありがとう。バイトの子様様だよ。」
そんな会話をしつつ、リビングへと向かった。
「そういえば、バイトの子は今日いないんですか?」
「今日は、弟と勉強会してるわ。午後から来るわよ。」
「そうなんですね。では、飲みましょ。」
月乃は自分で持ってきたビニールから大量のお酒を取り出した。
「ちょっと、まだお昼よ。」
「いいじゃないですか。明日も休みですし。」
月乃の圧に負けて、二人で乾杯し、飲み始めた。
2時間後..
月乃と世間話をしながら、飲み続けていると、「ガチャ」と玄関の鍵が開く音がした
「あっ、祐司君が来たかも。」
「お邪魔します。...だいぶ仕上がってますね。」
リビングの扉を開け、入ってきた祐司君の顔はとても驚いていた。何本も空いたビールの缶やワインの瓶が机の上に並んでいたからだ。
「あれ?この子がバイトの子ですか?」
顔を真っ赤にした月乃が言った。
「そうよ。うちの家事全般をやってもらっている門野祐司君よ。」
「そうなんですね。初めまして社長の後輩の天川月乃です。よろしく。」
「門野祐司です。よろしくお願いします。」
軽い挨拶を交わしすと、
「何も食べずに飲んでいたんですか?体に悪いですよ。」
「ごめん、私も月乃も料理苦手で。」
彼は、キッチンへ行き、
「何か作りますけど、まだ入りますか?」
「入るよ。月乃は?」
「私も入る。」
「では、軽く何か作るのでベランダで外の空気でも吸ってきてください。換気もしないといけないですし。」
少しよろけながらもベランダに出ようとしたとき、
「あっ、そうだ。天川さん。」
彼は月乃を呼び止め、
「何かアレルギーや嫌いなものってありますか?」
「何もないよ。強いて言うなら生のゴーヤくらいかな。」
「わかりました。30分くらいでできるので、できたら呼びますね。」
彼は、調理をはじめ、私たちはベランダへ出て風に当たっていた。しばらく風に当たり、だいぶ酔いがさめてきたところで月乃が、
「祐司君でしたっけ?いい子過ぎませんか。いくつですか?」
「えっと・・弟と同い年だから今年で19だね。」
「未成年じゃないですか。手出したらだめですよ。」
月乃の言葉に、飲んでいた水を吹いてしまった。
「出さないわよ。付き合ってもないのに。」
「えっ、付き合ってないんですか。てっきり付き合ってるものかと。」
「あの子は、あくまでバイト。感謝はしてるけど、それ以外でも以下でもないわ。」
なぜだろう。自分でそう言ったのにもやもやする。最近彼のことを考えることも増えたし、家に帰るのも楽しみになった。彼に感謝していることには違いないはずだ。でも、なぜかすっきりしない。そんなことを考えていると、
「早苗さん、天川さんご飯できましたよ。」
「どうかしました?」
「なんでもないわ。月乃食べましょ。」
「そうですね。今日はまだ飲みますよ。」
「程々にしてくださいね。」
みんなでご飯を食べながら雑談をしていると、すっかり夜が更けてきた。私はすっかり寝てしまった。
「早苗さん寝てしまいましたね。天川さんは、泊まりますか?」
「いいの?」
「大丈夫ですよ。もう夜も遅いですし、今から帰るのは危ないですから。」
「客室に布団を敷いてきますね。早苗さんを着替えさせてもらってもいいですか?」
「わかった。ありがとう。」
二人が寝たのを確認した祐司は、片づけと次の日の朝食の仕込みを済ませ、自分の家へと帰っていった。
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