第6話 告白とその後

祐司君に気持ちを伝える決心をし、何度も伝えようとした。しかし、いざ伝えようとすると緊張し、伝えられずにいた。伝えられないまま1週間がたち再び週末がやってきた。


 「せっかく相談に乗ってもらったのに、このままじゃだめだよね。」


そんなことを考えながらリビングへ向かうと、そこには祐司君の姿がなかった。驚きを隠せなかった私は、彼に連絡を試みようとした。すると、私のスマホに祐司君から1件のメッセージが来ていた。


 『すみません。風邪をひいてしまって、移すと悪いので今日は休みます。』


事故に会ってないかと心配していたので、ひとまず安心した。しかし、1人暮らしの風邪は何かと心配だ。お見舞いに行きたいが、彼の住んでいる住所がわからない。そこで、奏多に電話してみることにした。


 「もしもし、姉さんどうしたの?お昼前に。」


 「ごめんね。祐司君が風邪を引いたみたいでお見舞いに行きたいんだけど、住所がわからなくて教えてくれない?」


 「いいけど、祐司大丈夫なの?」


 「どうだろ。メールだけだったからよくはわからない。とりあえず、安否確認のためにも行ってくるわ。」


奏多に祐司君の家の住所を教えてもらい、彼の家に行こうとしたときに奏多からメッセージで


 『あいつの家、風邪薬とかなかったから買っていったほうがいいよ。』


本当にできた弟だ。道中で風邪薬やヨーグルトなどを買っていき、彼の家へと向かった。


祐司君の家へと付き、一息置き、インターホンを押した。少しの間応答がなく「寝てるのかな」と思い、念のためもう一度押してみると、顔が赤くほてり声が少ししゃがれた祐司君が出てきた。


 「はい。って早苗さんどうしてここにいるんですか?」


 「今日は仕事も休みだし、祐司君が心配だったから。奏多に聞いたけど風邪薬がないんでしょ。買って来たからこれ飲んでゆっくり休んで。」


 「ありがとうございます。でも、移したら悪いので来なくてもよかったんですよ。そんなにひどくもないですから。」


 「そんな具合の悪そうな顔をして何言ってるの。薬飲んでゆっくり寝てなさい。家事はできないけど、寝るまでは一緒にいるわ。何かと心配だし。」


そういうと、祐司君は渋々上げてくれた。


 「わかりました。どうぞ何もないですけど。」


彼の部屋はあまりものが多くなく、片付けられていけられていた。


 「今食欲ある?ないなら買ってきたヨーグルトとか冷やしておくけど。」


 「お願いします。今あまり食欲がないので。」


 「わかったわ。冷蔵庫開けるわね。」


買ってきたものを冷蔵庫へ入れ、寝室へと向かった。


 「ありがとうございます。お手を煩わせてすみません。」


 「何言ってるの。いつもお世話になっているもの、これくらいはさせて。薬は飲んだ?」


 「はい飲みました。」


返答もいつもより弱々しく感じた。かなりきつかったのだろう。


 「ならよかった。じゃあゆっくり寝てなさい。」


 「はい、おやすみなさい。」


 「はいおやすみ。」


祐司君はすぐに眠りについた。私は眠ったのを確認し、奏多に連絡するために少し寝室から離れた。


 「もしもし姉さん。祐司はどう?大丈夫?」


 「ええ大丈夫よ。さっき眠りについたわ。薬も飲んだし、明日には元気になっていると思う。」


 「よかった。」


奏多はかなり心配していたのだろう。報告を聞いて安堵していた。


 「じゃあ後はお願いね姉さん。変なことしたらだめだよ。」


 「しないわよ!」


そう言って奏多は電話を切った。奏多との電話を終わらせ、寝室に戻ると祐司君はひどくうなされていた。何かあったのかと思い近くに行ってみると何か小声で言っていた。


 「ごめんなさい。ごめんなさい。風邪なんか引いてごめんなさい。働きます。働きますから、もう見捨ないで。」


これを聞き、奏多の話していた祐司君の過去を思い出した。ここまで追い込まれていたとは正直思っていなかった。そして、私は彼の手を握り、


 「大丈夫、見捨てないよ。安心しておやすみ。」


すると、彼の顔は少し柔らかくなった。安心した私はそのまま眠ってしまった。


目が覚めると、朝日がさしていた。ベットのほうへ目をやると祐司君はいなく、キッチンのほうから何かを切る音が聞こえた。キッチンのほうへ行くと祐司君が朝ごはんを作っていた。


 「あっ、おはようございます。昨日はありがとうございました。」


 「おはよう。いいのよ、元気になってよかったわ。」


彼の元気な顔を見て安心した。が、昨日のうなされていた件でまだ少し不安だった。


 「簡単にですが朝ごはん食べましょう。」


 「そうね。いただくわ。あっそうそう、奏多も心配してたわよ。後で元気な顔を見せてあげなさい。」


 「そうですね、そうします。」


昨日のうなされていた件を話そうかと思っていたが、仕事もあったので今は話すべきではないと判断した。


 「ごちそうさまでした、おいしかったわ。それじゃあ一度家へ戻って仕事へ行った来るわね。まだ辛かったら無理したら駄目よ。」


 「大丈夫ですよ。行ってらっしゃい。夜ご飯楽しみにしててくださいね。」


 「いってきます。」


やはり、この関係は心地よかった。でも、正直怖かった。いつかこの関係が終わることも、気持ちを伝えたら避けられてしまうかもしれないことも、彼の過去を一緒に背負えるかも。しかし、一番怖かったのは彼が他の誰かに取られることだ。それだけはどうしようもなく嫌だ。今回の件でそう思った。


お昼に昼食を食べていると月乃が声をかけてきた。 


 「社長、ご一緒してもいいですか。」


 「いいわよ、前の席どうぞ。」


 「ありがとうございます。そういえば進捗はどうなんですか、どこまでいきましたか?」


月乃はこちらをまっすぐ見つめて聞いてきた。


 「まだ、告白してないわよ。でも、今日する予定。」


 「そうなんですね。頑張ってください、でもまた急ですね。何かありました?」


私は、月乃に祐司君の過去と風邪をひいた時の出来事を話した。


 「そんなことがあったんですね。今の彼を見て想像もつきませんね。」


 「それは私も思ったわ。でも、それがあったのは事実だし、彼の心の重りになってる。一緒に背負えるかは不安だけど、それでも彼と一緒にいたいし、彼との時間が心地いいの。」


月乃は優しく微笑みこちらを見ていた。


 「心配はいらないですね。何かあったら相談してください。少しくらいなら肩を貸しますよ。」


そういわれ、心がふっと軽くなった。その後定時で仕事を終わらせ、足早に自宅へと向かった。自宅の前へと付いた。自分の家なのに入るのにとても緊張した。一呼吸置き、家へ入った。


 「ただいま。」


 「おかえりなさい。早かったですね、ご飯できてますよ。」


着替えを済ませ、リビングへと向かった。そこにはいつもより、少し豪華な夕食が並んでいた。


 「どうしたの?いつもより豪華ね。」 


 「昨日お世話になりましたし、最近忙しそうでしたので少し豪華にさせていただきました。」


そんな彼のやさしさが身に沁み、ついに、私は話を切り出した。


 「祐司君ちょっといい?大事な話があるの。」


彼は少し驚いた顔をして、こちらを見ていた。無理もない。私たちは普段、世間話はするがこのような真剣な話はお互い避けていたからだ。


 「まずはね、奏多からあなたの過去を聞いたの。ご家族が亡くなられたこと、親戚からぞんざいに扱われていたこと。」


 「そうなんですね。隠すつもりはなかったんです。でも、話して見捨てられるのが怖くてごめんなさい。」


そう言って彼は下を向いてしまった。恐らく起こっていると思ったのだろう。


 「別に怒っているわけではないのよ。でも、正直驚いたわ、普段のあなたからは想像できないから。そして、力になりたいと思った。」


 「えっ?」


 「私は家事もできないし、自分のことでいっぱいいっぱいになるけどあなたの力になりたい、あなたの、生きる理由になりたいの。」


 「門野祐司君。私はあなたの事が好きです。これからあなたの隣を一緒に歩かせてください。」


すると、祐司君の目から涙がこぼれた。


 「!大丈夫?」


 「はい、大丈夫です。嬉しくて。」


 「家族がなくなってから誰からも愛されず、誰かと親密な関係になるのが怖かった。愛されるはずがないってどこかで思っていた。でも、こんな近くにいたことがうれしくて。」


 「僕もあなたが好です。」


その答えを聞いて、私も涙をこぼした。彼も私のことを思ってくれていたことがうれしく感じた。その後、少し気恥しくなったが、楽しく食卓を囲んだ。


翌日ーー


私は、いつもより軽い足取りで会社へ向かった。仕事にも力が入り、あっという間にお昼になった。報告をするために私は月乃をお昼に誘い、食堂へと向かった。


 「で?どうだったんですか。告白は。」


 「成功したわよ。OKもらったわ。」


月乃は少し涙ぐみ、


 「おめでとうございます。ようやくですね。」


 「ありがとう。そうね、ようやく一区切りついたわ。」


 「え?社長彼氏できたんですか?」


すると、食堂で昼食をとっていた社員たちが続々集まってきた。


 「おめでとうございます。社長の彼氏ってどんな人なんですか?」


 「おいくつなんですか?」


いろんな方向から質問が飛んできたので、彼との出会いから社員たちに話した。


 「めちゃめちゃいい人じゃないですか。」


 「デートするなら言ってくださいね。今までお世話になったので社長の分まで働きます。」


社員たちの気遣いに少し泣きそうになった。今まで、仕事のこと以外であまり接していなかったからあまりよく思われていないと思っていた。昼休みが終わりそうになり、社員たちが自分たちの部署へ帰っていく中、月乃はまだ残っていた。


 「月乃は戻らなくてもいいの?」


 「少し気になっていたんですが。」


すると月乃は私の耳に顔を近づけて、


 「正直、結婚とか考えてるんですか?」」


 「ちょっ!結婚って、相手はまだ学生よ。」


 「まあまあ、社長が考えてるのか聞きたいだけですから。で?どうなんですか。」


私は少し声をごもらせながら答えた。


 「まぁ、おいおいはしたいかなって。」


その答えを聞いた月乃はにやつきながらこちらを見つめてきた。


 「な、なによ。いいでしょ。今でも幸せだけど、彼との結婚生活は楽しそうなんだもん。」


自分で言ってて恥ずかしくなった。


 「はい、この話は終わり。昼休みが終わるから業務に戻りなさい。」


 「はーい、分かりました。」


そう言って月乃を戻し、自分も業務へと戻った。


我ながら浮かれている自覚はあった。だがやはり、自分のことを思ってくれている人が家で温かいご飯を作って待ってくれていると考えると、仕事に力が入る。そして、今日も仕事を定時で終わらせ足早に帰る。


 「ただいま。」


 「おかえりなさい。今日もお疲れさまでした。」


彼が待っている家へ。




5年後ー-


私の会社はその後も着実に評価を伸ばしていき、今では業界最大手とまで言われるようになるまで成長した。一方、祐司君は大学を卒業後、興味のあった行政書士として就職し、法律事務所で働いている。彼との関係はいまだに良好に続いている。


今日も仕事を終わらせ家へ帰ろうとしたとき、会社の前で祐司君が待っていた。


 「どうしたの?何かあった。」


 「あっ、おかえりなさい。ちょっと付き合ってもらっていいですか。」


そういうと、人目が付かない公園へと向かった。


 「覚えてますか?初めて2人でピクニックに来た場所です。」


 「覚えてるわ。あの時は、どっちも始めは緊張してたっけ。」


 「そうでしたね。本当は夜景のきれいなレストランでやりたかったんですけど。」


なにか彼が小声で言っていてが聞き取れなかった。


 「ごめん何か言った?聞き取れなかった。」


 「いえ、こちらの話です。」


すると、彼は自分のカバンから何かを取り出し、


 「僕はあなたのおかげで人から愛される喜びを知れました。そして、ここ数年で感じました。僕の隣はあなたがいいって。椿木早苗さん、僕と結婚してください。」


指輪を差し出しプロポーズをされた。彼からの突然のプロポーズに涙があふれた。


 「はい、喜んで。」


そう答えると彼は私を抱きて、涙を流しながら


 「ありがとう。」


といった。抱いた手はとても震えていた。


その後、私の家族に結婚の挨拶をし、数か月後に大きな結婚式を挙げた。3年後には2人の子宝にも恵まれ、毎日笑いの絶えない家庭を築いた。


最初に彼に会った時、こんな未来は想像もできなかった。でも、彼のことを愛せて彼から愛されて、本当に幸せだ。

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主夫系男子が待っている ゆうさん @kjasdbfcluink

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