第5話 自覚と決心 祐司の過去
4人でお出かけした日から1週間がたった。お出かけした日から周りの人を頼るようになり、仕事が順調に進み心に余裕ができた。
しかし、あの日から祐司君の顔がまともに見れない日が続いた。これではまずいと思い、祐司君に休んでもらい月乃に仕事終わりに相談することにした。
「急に誘っちゃってごめんね。」
「全然大丈夫ですよ。でも、珍しいですね。最近、夜ご飯は絶対祐司君と食べていたのに。」
「その祐司君のことで少し相談があって、今日は休んでもらってる。」
月乃は目を丸くしていた。
「えっ?喧嘩でもしました?想像は尽きませんけど。」
「違うわよ。いろいろやってもらっているのに不満なんてないわよ。」
「じゃあなにがあったんですか?」
「なんていうか。4人で出かけた日から祐司君の顔がまともに見れないというか、なんかよくわからない動悸がするというかよくわからないの。月乃ならわかるかなって。」
月乃は唖然とした顔をして長くため息をついた。
「社長マジで言ってますか?そこまでだとは思っていませんでしたよ。」
「?どういうこと?」
月乃はまたため息をつき、話し始めた。
「その動機っていうのはどんな時に来るものですか?」
「えっ?動悸は祐司君のことを考えてるときに多いかな。後、祐司君が他の女性と仲良く話しているときは動機ってよりこう、もやってする。」
月乃は、こちらを見つめて言った。
「そこまで言ったらもう答え言ってるようなものだと思うんですけど。ではもし、祐司君が他の女性と付き合ったらどう思います?」
その質問に対して、最初は喜ばしいことだし、祝福すべきだと思った。でもなぜか、自分に嘘をついているような気がして、とっさに言葉が漏れた。
「嫌だ。取られたくない。」
その言葉を聞いた月乃は、驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「へ~、社長って意外と独占欲が強いんですね。」
「ちがっ、今のは忘れて。」
「誰にも言いませんよ。社長の気持ちが知れただけでも御の字です。一応これだけ言っておきます。」
月乃は私の耳に顔を近づけて言った。
「奏多君が言っていたんですが祐司君、大学内では恐ろしく人気があるらしいですよ。奥手すぎるとそのうち取られますよ。」
月乃にそう言われ、初めて自覚した。私は祐司君のことが好きなのだと。しかし、私は今まで異性と付き合ったことがなかったため、どうしていいのかわからず、もんもんとしていた。
翌日ー-
この日は、姉の八重と弟の奏多との休みが被ったため、相談に乗ってもらうことにした。
「今日は付き合ってもらってありがとうね。ちょっと相談があって。」
「珍しいね。早苗姉さんが相談なんてどうしたの?」
「昨日月乃に相談して気づいたことなんだけど、どうやら私、祐司君のことが好きみたいなの。」
2人はため息をつき、八重姉さんが
「やっと気づいたのね。なかなか気づかないからむずむずしてたのよこっちは。」
「えっ?2人とも気づいてたの?」
「もちろん。気づいてないのは早苗姉さんと祐司だけだったよ。」
それを聞いて恥ずかしくなってきた。
「それで?好きってことはわかったけどこれからどうしたらいいかわからないから私たちに相談しに来たってわけ?」
「そうなの。私って今まで誰とも付き合ったことないからどうしたらいいのかわからなくて。でも、祐司君って大学で人気があるんでしょ?」
奏多に目線をやり、気になっていることを聞いてみた。
「そうだね。あの性格だし何でもできるし、人気ないほうがおかしいよ。ちなみに高校から密かに人気はあったよ。でもね・・。」
奏多は言葉を詰まらせた。
「どうしたの?」
少し間を置き、
「いや、言うか迷っただけど早苗姉さんに言っておいたほうがいいと思うから話すね。」
そう言って、奏多は真剣な面持ちで話し出した。
「祐司って高校までは誰かと関係を持つことを怖がっていたんだ。恋愛もそうだけど友人関係になるのも怖がってた。」
奏多からの衝撃的なカミングアウトの私と八重姉さんは驚いた。
「どういうこと?早苗といるときはそんな感じには見えなかったけど。」
「祐司には今、家族と呼べるような人がいないんだ。祐司の家族は10年前に不幸な事故で亡くなったんだ。祐司は、奇跡的に助かってんだけど親戚からあまりいい扱いを受けてなかったんだ。」
奏多は、祐司君の過去をぽつりぽつりと話し出した。
「祐司には天才的に頭のいい6つ上の兄がいたんだ。親戚はその兄を溺愛して、祐司を蔑ろにしていた。そして、事故の後、親戚中をたらいまわしされて精神的に追い詰められていたんだ。」
「そんなことがあったんだ。だから家事も完璧だったんだ。」
「ああ、高校では逃げ出すように一人暮らしを始めたらしいからな。高校では完全に心を閉ざしてたクラスのみんなに馴染むまで2年かかったし。ずっと親戚から『お前といるとみんな不幸になる。お前といたい人なんて1人もいない。』って言われ続けたらしいからね。」
その話を聞いて、怒りを覚えたと同時に納得もした。
「祐司君は所々、自分を否定するような発言をすることがあった。」
「事故にあうまでは、そんなことなかったらしいんだ。祐司の両親は兄弟を平等に愛してたらしいし、お兄ちゃんとも仲が良かったらしいし。でも急に、『人に愛してもらう』ってことがなくなって心に大きな穴が開いた状態になってたんだと思う。俺たちでだいぶ埋めてきたと思ってたけど。まだ、足りなかったんだな。」
奏多が私をじっと見つめて、
「だから、早苗姉さんが祐司のことをそんなに思ってくれていることが嬉しく思うし、祐司のことをお願いしたい。あいつの心の穴を埋めてほしいんだ。友人や雇い主という関係じゃなくて、一番近くにいる関係として。」
八重姉さんが続いて、
「そうね、あの子と話してわっかたけど自分なんてっていう感情が強いわね。カウンセラーの仕事してるからわかるけど、理由まではわからなかった。そんな過去があったそういう子って周りの環境に影響されやすいのねだから早苗、私からもお願い、あの子に光を当ててあげて。」
その話を聞いて、私は決心した。自分の気持ちにうそをつかないことを祐司君と真剣に向き合うことを。
「ありがとう2人とも。私もう逃げない。この気持ちとも祐司君とも向き合うよ。」
2人は優しく微笑んだ。
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