第17話 一番会いたくないやつと会うってもう限界
ハルミが一番聞きたくなかった声に、手を下ろす。
アイク達は、声の主へと顔を向けた。そこには、熊のような巨体に、身体のあちこちにある刺青。そして鋭い眼差し。先ほどハルミが買いに行ったりんご飴の店主だ。
アイクはその人物に対して、ハルミに向けた笑顔とはまた別の、自然な笑みで店主へと話しかけた。
「やあやあ! ダンではないか! 元気にしていたか? 最近はお前の顔が見れなくて寂しくなっていたところだよ」
「おう、なんでここにギルドマスターがいるんだべか」
理解不能な関係にハルミは唖然とする。
「いやぁ、ちょっと町の見回りでもしていただけだよ。それより、何故君がここにいるのか私が一番知りたいのだが」
「そこでおらは店を開いてるんだべ。だから、騎士団がおらの店ん前でたむろしてたら余計客が寄り付かないんだべ」
「ああ、それは申し訳ない。すぐに散らかる。だがその前に少し怪しい人物がいてだな」
「怪しい人物だべ?」
「それが彼女なんだが……」
そう言って、ギルドマスターと呼ばれるアイクはハルミのほうに顔を向けた。ダンと呼ばれる男は、アイクの視線の先の女性に、目を細めて観察する。そうして「あっ」と声を出し、ダンは強面の笑顔でハルミに言った。
「おめぇさっきの!」
「ひぃ……」
ハルミは二度と見たくなかった人物に見つめられ、委縮してしまう。アイクもよくわからないといったなりだ。
「この方が誰かわかるのか?」とアイクは言う。
「さっきおらのりんご飴を買いに来てくれたやつだべよ。あいつらがなにかしたってんだべか?」
「そうだな。先ほど盗賊を捕まえてくれたんだ。しかし、そのあとに妙な発言をしてだな」
「あー、そうだべか。気にすんなだべ。こいつはちょっと頭がおかしくてだべな。上手く会話ができないんだべ。許してやってくれだべ」
「そうなのか?」
「そうだべ。おらの店に来た時も、何言ってんだべかわかんなかっただべし」
「おう、そうだったのか。ダンが言うならそうなのだろう。それはそれは申し訳ないことだ」
(えっと、勝手に話が収束してる……? え、でもちょっと誤解されてる気がするんだけど!? てか頭おかしいのあっちじゃないの?)
ハルミは困惑に困惑を重ね、ついに何も考えられずに立ち尽くしてしまう。
アイクは気まずそうな顔をしながら、ハルミへと向き直る。
「本当にすまない。ここで足を止めてしまったわびにでも、何か奢ってやろうか? というより、盗賊を捕まえてくれたお礼もしないとな」
「あ、大丈夫ですいらないので、で、では失礼します……!」
ハルミはそう言って、今度はアイクに止められずにその場をそそくさと去った。
「行っちまっただべよ」
「流石盗賊を捕まえただけある足の速さだな。一体彼女は何者だったんだろうか」
「見てくれだけは良いんだべがなぁ」
「それは私も同感だな。というよりか、ダンはりんご飴を売ってるんだって?」
「そうだべ」
「私にも一つ売ってくれないだろうか」
「おう! 良いだべよ」
ギルドマスターのアイクは、元A級冒険者ダンに、家族のような親しみでりんご飴を買いに行った。その後ろ姿は、まさに子供のようだ。
†††
「あーっもうほんと災難だったわぁ」
ハルミはセレンを思いきり抱き締めながらそう言う。
「うぅ、痛いよ、ハルミおねえちゃん」
ハルミの力にセレンは耐え切れず苦しむ。しかし一向にハルミは放そうとしない。
「ごめんねぇ。でもこうしておかないと私正気でいられなくなっちゃう」
「もうしょうきじゃない気がする」
いくらかもだえ苦しんだ後、ハルミはそっとセレンを放す。
セレンは立つのもやっとという風にふらふらとしている。そんなセレンをみても特に何も思っていないのか、ハルミは真剣なまなざしでセレンに言った。
「セレンちゃん、もう帰りましょう」
「え、もうかえるの!?」
「そうだよ。こんなとこいたらだめだわ。やっぱ人がいるところムリお家しか勝たんです」
いつになく真剣な表情をするハルミに、セレンは残念そうな顔をする。
「んーわかった……。でも、明日はぜったい参加しようね!」
「明日? ああ、そういえば明日は王女様の生誕祭なんだったわよね。私全然知らないんだけどやっぱり結構賑わう感じ?」
「たぶんそうだとおもう。セレンたちはおうじょさまの前には出ていけない身分だったから、まだおうじょさまのことみたことないの」
「おっと、そうだったのね」
セレンの言葉に何やら違和感を覚えるハルミ。誰でも参加できる祭りに、何故セレンは参加できなかったのか。身分、という言葉が心の端に引っかかる。
セレンは特に何も思っていなさそうだし、このままその話は触れておかないでおこうとハルミは明るく振舞う。
「じゃあ明日は王女様に謁見して、今日の続きを楽しもうね!」
「うん!」
セレンは元気いっぱいな笑顔で返事をする。
「じゃあ明日もあるんだからせっかくだし今日は宿とかに泊まっちゃいましょ。もう一回門番とかに止められたら嫌だし、このお祭り雰囲気も大事だしね!」
「いいの!? やったあ!」
喜ぶセレンをみてハルミはこれで正解だったなと満足する。セレンが楽しければ、セレンが幸せであれば自分はどうだっていい、そう思ってしまう。この笑顔は、守らなければいけない国宝級だわとハルミは感じた。
「セレンちゃん、そういえば宿ってどこにあるか知ってる?」
「しらなーい」
(うわぁ、完全にやらかした私……。なんで宿の場所も知らない私が泊まるとかいう提案をしちゃったんだろ。誰かに聞かないといけないじゃん私そういうの苦手だってこと私が一番わかってるよねほんとさっきの私を滅ぼしたいわあーあもう無理)
ハルミは新たな提案をして早々に行き詰まってしまった。自分の不甲斐なさにひどくやる気が削がれてしまっている。
もう仕方がないと、通り掛かった女性に声をかけた。
「す、すすすみません」
女性はハルミの声に足を止める。
「はい? どうされました?」
「あ、あのー……、ここの近くに宿ってありませんか……?」
「宿、ですか? それならあそこの突き当たりを右に曲がってちょっと進めば左手にジュメールって書かれた大きな看板がある建物があるから、そこが一番近いかな」
女性は指で方角をさしながら親切に説明してくれた。
ハルミも優しい女性は大好きだ。
「ありがとうございます!」
そう言ってハルミは頭を下げる。
「いいのいいの。人助けは当たり前のことでしょ」
頭を上げて、と女性は微笑みながらハルミに言う。
ハルミもこれ以上邪魔をさせたくないと思い、セレンの手を引いてその場を後にした。
女神兼破壊神が美ロリや美ショタに囲まれるおねーたまハーレムラブコメ 穏水 @onsui
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