第3話 人気の秘訣とは

「ほえー……聡美ちゃん、めっちゃ凄いの弾いてるね……」

 佳苗ちゃんの持っているタブレットで再生している動画は、中学生の頃に聡美ちゃんが動画サイトでアップロードしたギタープレイの動画。

 今より少しだけ幼さは残る感じだけれども、今持っているモッキンバードとは違うデザインのギターを持って、ひたすら高速のプレイを披露している。

 二分にも満たないほどのギターソロプレイのみだけれども、この頃から既に相当な演奏をしていたのを物語っている。

「すごいですね……覚えはできるけど、演奏できるかと言われると怪しいです……」

 シェリーちゃんも画面と音に食い入っている。

「今だったらもっと上手にできますね!」

 ふんす!と鼻息を鳴らしながら、自慢げに仁王立ちのポーズを取る。

 映像では赤地に白や黒のラインがたくさん入ったギターを楽しげに弾きつつ、おそらく演奏元のアーティストに絡めたであろうシガレット菓子らしきものを咥えて動画は終わった。


「最後の仕込みとかカッコイイかも……コメントもたくさん付いてるね」

 再生が終わった後、下にスクロールして皆のコメントを見ると、中学生でここまでできるのは凄いといった趣旨のものがたくさん。

「ここまでできる技術と度胸はホンマ感心するわ……」

 恵ちゃんもこればかりは驚きっぱなしの様子。

「大丈夫ですよ! 弥富センパイも動画撮って上げたら人気者かもしれませんよ!」

「ホンマにか……? 以前は選曲が渋すぎるとか言われた事あるんやけど」

「それは否定できませんね……同世代では結構マニアックな気がします」

 恵ちゃんが目に見えて切なそうな表情を浮かべながら、どこか遠くを見ていた。

「せやな……セッションイベント行ったら大半がナイスミドルばっかやったもんな……」

 そういや去年にそんな話をしていたのを覚えている。

「ま、まあでも、逆にトレンドを捉えた曲で演奏してみると、技術的には人気も十分に取れるかと!」

 聡美ちゃんも少し気まずい様子ながら、今のバンド活動のように最近のトレンド曲を追いかけるのをオススメしている。

 そんな中、佳苗ちゃんがタブレットで動画を探している横でじっと見ていた美奈ちゃんが口を開く。

「たぶん、首から下だけのアングルで演奏してる動画をアップすれば顔バレせずに再生数稼げますよ」

 いきなりのすごい提案が出て来るけども、私はそれを知っている。

「そしてちょっとベースを低めに持ってですね……」

「……それ、中心に来るのがベースやない気がするんやけど」

 察しが良いようで。

「そりゃあ動画を上げるぐらいのレベルとなると、みんな上手ですから……ほら、撒き餌も必要じゃないですか?」

「高校生にそういう事をさせるでないわ!?」

 センシティブに人一倍敏感な恵ちゃんなので、予想通りのリアクションではある。

「ほら、かなやんも同じようにピアノ演奏動画をね……」

 美奈ちゃんが同じくスタイルの良さげな佳苗ちゃんにも矛先を向けた。

「それも先駆者いますからね」

「おるんか!?」

 驚きっぱなしの恵ちゃんに対し、佳苗ちゃんが冷静に言い放つ。

「ベースと同じで、なかなかの知名度です」

「あ……私もそれ知ってる。 すっごいよ」

「何が凄いのか具体的に言わんあたりが意味深やな!?」

「私たち、あくまでベースを見てるだけですから!」

 赤面している恵ちゃんをよそに、美奈ちゃんがそれっぽい言い訳を足していく。

 その勢いとばかりに、私も上塗りを……。

「そうそう、ベースがカッコ良すぎて直視できないから、ちょっと上を見ちゃうの!」

「ゆりちゃん先輩、じみに言い訳上手ですね……」

 嬉しくない褒められ方をした。

「恵ちゃんはやらなさそうだけど、かなちゃんは……?」

 そう問いかけると、佳苗ちゃんは立ち上がると中腰の状態で片足を上げる。

「おことわりします」

 なんか見たことのあるアスキーアートのポーズを取った。


 ふと、そこでギタリストふたりが参加して来ない事に気付くと、ふたりは私たちに背を向けるようにひそひそと話しているようだ。

「見た目……やっぱり見た目なのね……」

「カッコ良くてギターを見てもらうのが一番なんですよ」

 聡美ちゃんは細身でカッコイイ、スレンダーなど……それは人によって言い換えてしまえば『ぺったんこ』とも言われてしまうスタイル。

 ふたりで慰め合っているようなんだけど、私もそっち側なんですよね。

 私にも話題を振られたら混ざろうかな……。

 そんな視線を感じたのか、聡美ちゃんが私に振り返る。

「でも、私の方が速く弾けますからね」

 あ、このメンタル具合なら慰め合う必要は無さそうだ。


「とにかく! あたしもそういう不埒な動画は録らんからな!」

 初めて『不埒』って言葉にする人を見た気がする。

「普通にグループでデビューするんなら考えんワケやないけど……とにかく、お色気路線はナシ! はい! 練習!」

 いつもの余裕を欠いた恵ちゃんが無理やり区切りつつ、バッグからベースを取り出し始めた。


 みんなのペースが狂いまくったままの部活スタートだけど、とりあえず演奏が無事な事を祈ろう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Capricious Cats ~みにちゅあっ! ショート~ 鞘野 @magical_sayano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ