第61話 世界中で一番(最終話)
もう少し京都観光をしてから帰るという両親と、京都駅でわかれ、想子さんと僕は、特急はるかに乗り込んだ。車両の一番端っこの席に、2人で並んで座る。僕らとは反対側の端っこに3人ほど乗客がいるくらいで、運良く車内はガラガラだ。
僕らは、お互いの顔を見ながら、あらためてあいさつする。
「なんか、まだちゃんと言うてへんかった気ぃするな。……お帰り」
「うん。ただいま」
想子さんのくつろいだ笑顔。ホッとした僕は、彼女の手を取る。2人の指が絡まる。
僕は、つないだ2人の手を持ち上げて、想子さんの手の甲にそっとキスをする。
「ありがと。帰ってきてくれて」
「ダイ……」
想子さんの目が少し潤んでいる。
「会いたかったよ。ずっと」
そう言った想子さんが、僕の胸にもたれかかる。僕の心臓が跳ね上がる。
「ぼ、僕も」
想子さんを胸で受け止めて、僕の声はうわずってしまう。そんな僕に、想子さんが言う。
「世界中で一番、ダイのそばが落ち着く。……めっちゃドキドキするのに、落ち着くって、変かな?」
僕の胸がトクンと鳴る。
「変とちゃうよ。僕もそうや」 (同じや。僕も同じこと思ってる)
「声聞いたり、笑顔見たりするだけで、ふしぎと元気が出てくる」
「僕もや」
僕の心臓がトクトクと波打つ。
「なんでかわからへんけど、そばにおるだけで、他にはもう何もいらへん、って気持ちになる」
「うん」
僕の心臓の音が全身に響いている。
「ダイ。大好……」
言いかけた想子さんを、僕はたまらず抱きしめる。ぎゅっと力と想いを込めて。
そして、次の瞬間、想子さんの唇に、僕はそっと自分の唇を重ねた。
一瞬だったのか、数分だったのか、よく分からない。
僕が抱きしめる腕の力をやっと緩めると、想子さんが、大きなため息をつくように息を吐いて、再び深呼吸した。
「はあ~。びっくりした……。息止まるかと思った」 想子さんが笑いながら言った。
「ごめん。なんか、思わず……」
「……いいけど」
そう言った想子さんが、照れくさそうに、僕の耳元でささやいた。
「ファーストキスやねんから。ちゃんと責任とってね」
「え? え? ほんま? ほんまに?」
「ほんま!」 想子さんの頬が真っ赤に染まる。
「想子さん。喜んで、責任でも何でもとるとる」 (僕は嬉しい!)
「もう。ダイってば」
想子さんが照れたように笑う。
そんな彼女の耳元で、僕はささやく。
「セカンドもサードも、その先も全部、僕のもんやからね」
「もう、何言うてんの!」
耳まで真っ赤になってる想子さんが、可愛くて可愛くて、愛おしい。
(大好きやで。想子さん。……世界中で一番)
想子さんの真っ赤な頬に軽くキスしてから、僕は、そっと二度目のチャレンジをした。
ひとの気も知らないで 原田楓香 @harada_f
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