伍第101話 セラフィラントからライエへ

 旧ジョイダールの報告を全部書き終え、魔石も磨いて魔力も再充填。

 タクトから送ってもらった奴は、なんの支障もなく一番初めと同じくらいの魔力がするりと貯まっていく。

 大丈夫、ちゃんと支払えるくらいは……ある……多分。

 足りなかったら、分割で払ったりできるだろうか……


「ガイエス、もしお友達の所に行くなら、これも持ってってー」


 食事の後でタルァナストさんに渡されたのは、飼い葉を配合した幾つかの見本だという。

 中くらいの袋に分けてくれているものを、四種類渡された。

 これをタクトの馬に食べさせて、気に入ったものがあったらってことらしい。


「ありがとう。確認して連絡する。あ、金額も決めておいてくれ」

「うん、そうだね。もう少ししたらリバレーラから全部の玉黍が届くから、その後……かなぁ。夜月よのつきの終わりまでには決めておくよ」


 そうか、その頃にできあがったものをタクトに届ければいいから、ライエに行ったら一度シュリィイーレに行っておくか。

 ライエはもう少ししたら、赤水瓜のお祭りだったはずだ。

 タクトも赤水瓜のことは気にしていたから、買っていってやろう。

 カバロも好きだったよな、確か。


 ウァラクでは、去年旨かった山羊の乾酪もサンモーロで買えるはずだ。

 あ、なんかすっげー楽しみになってきたぞ!



 オルツに行って旧ジョイダールの記録を全部渡し、月末までは戻らないとティレラス副港湾長に伝えた。

 ランスィルトゥートさんに会えなかったけど、皇国内だから大丈夫だろう。

 そしてティレラス副港湾長はにこにこ顔で、俺に『記念品だよ』と幾つかの物を渡してきた。


「これ、ライエの知り合いにもひとつあげてもいいか?」

「もしかして、冒険者組合の組合長か?」

「ああ」

「そうか……解った。許可をとろう。彼ならば問題はないだろうが、公開は控えて欲しいと依頼しておいてくれ」


 頷いて受け取った物をしまい、俺はカバロと『門』でウァラクの国境門へ。

 ウァラクの国境門外……のはずなんだが、やたらと木々が青々としていて小鳥のさえずりまで聞こえる。

 すぐ隣に大峡谷があるとは思えない。


 ……あの、旧ジョイダールの東側にあった岩山にいた……玉黍をあげた『銀椋鳥の亜種』って奴みたいに可愛いけどちょっと煩い鳴き声だ。

 こんなに綺麗な森だったかな、国境門の外って?

 夏場だから?


 そんなことを思いつつ、ウァラクに入る。

 相変わらず国境門警備の連中はカバロにデレデレするし、久し振りに会ったヴェシアスに挨拶をしてラステーレに入った。


 ペータファステのいつもの宿へ『門』で移動すると、この時期は客が少なかったせいか大歓迎を受けカバロがめちゃくちゃ大喜びだ。

 ……ま、確かにウァラクは夏場でも、セラフィラントやリバレーラに比べて随分涼しいよな。


 ちょっと休んだらカバロと一緒にエルディエラに入るつもりだったのだが、カバロが動きたがらなくなってしまった。

 いかん、こいつ本当に神泉に入ると三日は動かないようになっちまった……

 仕方なく、宿にカバロ世話を頼み俺だけでライエに向かった。



 ライエに着くと、どうやらあと五日ほどで赤水瓜の祭りらしく町の中は賑わい始めていた。

 これは、カバロを連れて来なくて良かったかもしれない。

 町中を騎乗しては、歩けそうもなくなっている。


 どうも、今年は去年以上に赤水瓜も何もかもが豊作だったようだ。

 だがそのせいでか、宿は全く取れないみたいだ……五日後も絶対に来よう。

 カバロの奴、まさかそこまで……いやいや、あり得ねーか。


 冒険者組合に行くと口座がいっぱいですよと、受付に回収を懇願された。

 なんか知らんが、タクトからもセラフィラントからも入金がある……?

 セラフィラントはともかく、タクトの方は意味が解らん。


 まぁ……いいか。

 取り敢えず口座から金を引き出し、軽量化袋に放り込んでから【収納魔法】に入れておくことにした。

 きっと全部、タクトに渡すことになりそうだよな。


「おおっ、ガイエスじゃねーか! そうか、祭りの見物に来たのか!」


 奥から組合長が出て来て、がはは、と豪快に笑いながら俺の肩を叩く。

 それもあるけど、渡したい物があるんだ、と奥まで入れてもらった。


「なんだ、なんだ? 土産でも持ってきたかぁ?」

「そうだよ」


 俺の言葉に吃驚したような、照れくさいような顔をした組合長。

 冒険者が変な気を遣いやがってよーなんて言いつつも、なんだかワクワクしている。


「これは……悪いが、他の誰にも見せないで保管してて欲しいんだ」

「おいおい、なんかまずいものなのか?」

「まだ、公開はできないってだけだ。作ってくれたのは『オルツ港湾国境警備』で、海衛隊の認証はもらっている」

「……港湾……なるほど、他国にばれるとまずいって物か」


 察しがいいなぁ、流石。

 俺がティレラス副港湾長から受け取った中にあった、不銹鋼製の『碑文板』を差し出す。

 その文字を見て、組合長の表情が変わる。


「ヘストレスティアには、許可をとっていないものだからさ」

「……ああ……そう、そう、だろう。そうか、おまえ、あんな所まで……そうか……」


 え、涙ぐんでる……?

 ちょっとどうしていいか解らず何も言えないでいた俺だったが、突然思いっきり抱きしめられて更に動けなくなる。


「凄ぇ! 凄ぇぞ、おまえ! 流石、ゼクナスの息子だ! 親父さんの夢をちゃんと叶えやがって!」

 親父の、夢?

「あいつ、いつも言っていたんだよ。いつか自分の辿り着いた場所に息子に来て欲しいよなぁってな、言っていたんだよっ」


 なんかもう、抱きつかれている俺の肩の辺りがびしょびしょになるくらい泣いてる。

 そんな組合長の背中をぽふぽふと叩きつつ、もし親父が生きていたら喜んでくれただろうかとぼんやりと考える。

 それとも、あんまり危ねぇ真似するななんて言っただろうかと、子供の頃のことを思い出して少し……笑ってしまった。


 その後、組合長の家に招かれ、夜通し話し込んでしまった

 組合長に三人も子供がいたのはちょっと吃驚したが、冒険者になりたいという子はいなかったらしい。

 突然訪ねてしまったが、タクトの作った焼き菓子を渡したからだろうか、めちゃくちゃ歓迎された。


 そして……ペータファステに戻ったのは翌日の夕刻だった。

 カバロには拗ねられたが、祭りの前に一度戻ったんだからそんなに怒るなよ。



 伍/了


*******

第六部 陸第1話は7/8(月)8:00の予定です

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緑炎の方陣魔剣士・続 磯風 @nekonana51

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