伍第100話 牧場

「そっか、そっか。夜間施設にね。だからカバロがうろうろしちゃっていたのかぁ」


 そう言ってタルァナストさんは笑うが、カバロは俺がセラフィラントに戻ると『近くにいる』と解るんだろうか……

 それでもちょっと機嫌などとりつつ、今度リバレーラのアルフェーレに行こうかって話した途端にピクリとも動かなくなった。


 ええーー?

 なんでだよ?

 いっぱい走れるぞ?


 ぶふっふぉっ!


 あ、この鼻息は『この宿、絶対ヤダ』って時の奴だ……

 ええぇぇ……なんでだよぉ。

 カバロにぐずられてどうしていいか解らないでいる俺に、タルァナストさんが腕組みをしつつ教えてくれた。


「多分ねぇ、カバロは暑いところが嫌なんじゃないかなぁ?」

「え?」

「ほらほら、カバロってヘストレスティアの馬でしょ? ヘストレスティアってセラフィラントよりも寒いところじゃない?」


 んー?

 ティアルゥトやセレステと比べると、確かにちょっとは涼しいか?

 だけど、迷宮あるし、魔獣もいるから寒い場所ではないんだよな。


「ここは高台だからそんなに暑くないけど、セレステから南に行くとこの時期は海沿いでも暑い町なんかは多いよ。リバレーラやルシェルスは、これから二、三カ月は結構、どこも暑いかも」

「そうか……暑いの、嫌いなのか。神泉が好きだから平気かと思っていたけど……」

「神泉と暑さじゃ、比べられないでしょ。それに多分カバロは、涼しいとか寒いところで神泉に入るのが好きなんじゃないかなぁ?」


 そんな理由なのかと、カバロに視線を送るとフヒンと変な鳴き声をする。

 そーかぁ、そうなのか……んーー……アルフェーレで、魚が食いたかったんだけどなぁ……

 じゃあ、何処なら行きたいんだよ?

 ちょっと考えてから決めるか。



 部屋に戻って、ランスィルトゥートさんから新しくもらった地図を描くための紙を広げる。

 昔のものや綴り帳に書き込んではいたけど、改めて思い出しながら描き加えていく。

 描いていくのは、地下回廊の地図だ。


 地上の何処に当たるのかは、出た場所だけしか解らないから元々の地図でははっきりしない。

 入口と出口の場所くらいは以前の地図に大体の場所を描いてあれば大丈夫だろうが……距離感が地下と地上じゃ違うもんな。

 そんなことを考えながらなんとか描き上げてひと息ついたら、昼食にしようとタルァナストさんに声をかけられた。


「だけどさ、その前にちょっとカバロの所に行ってあげて」

「……なんで?」

「ほら、我が侭言って動かなかった後にガイエスが全然降りて来なくなっちゃったから、怒らせて嫌われたかもーって感じで馬房をウロウロしちゃってるんだよ。牧場に出て走らないからさー、ちょっとだけ撫でて怒っていないよって教えてあげてよ」


 なんだよ、あいつ。

 子供みたいな拗ね方しやがってー。

 馬は飼い主に構って欲しくて色々やるんだよ、可愛いよねーなんてタルァナストさんは言うが、カバロはどっちかというと俺に色々やらせる方だったと思うんだが……


 厩舎の入口で柱をコンコン、と叩く。

 カバロがぴょこっと馬房から顔を出す。

 唇をぴるぴるっと動かして、こっちを伺うようにちょいっと首を動かす。


「牧場で遊んでおいで」


 近寄って、首の辺りを撫でながらそんなことを言ってみる。

 馬房の柵を開くと、かぽかぽと出てくるが俺の隣から動かない。


「昼、食べ終わったら、一緒に遊んでやるからみんなと走ってこい」

 ヒンっ


 あっという間に牧場へと走って行くカバロを見つめて、ちょっとだけ笑いを漏らす。

 解りやすいのか解りづらいのか……まぁ、いいか。

 二、三日は、ここでのんびり遊んでやろう。


 リバレーラや南側は冬になってからか……うん、きっと冬の方が魚が旨いに違いない。

 うん。

 シュリィイーレに行くのもいいが、秋の収穫祭に合わせて行きたいから、ウァラクに寄ってからかな。


 ……ロンデェエストは道がぶつ切れだから、オルツから『門』で動いちゃうか。

 だけど、ライエには行くぞ!

 冒険者組合の組合長に、話を聞きたいし!

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