第4話 雉子さん

「どうやら各々の事情があるようだね! ここは絆を深める意味でも腹を割って話そうじゃないか!」


 がらがらと馬に引かれて港町へ進む籠車に乗る一人と二匹は各々の目的を共有します。


「まずは言い出しっぺの私が言おう! 私は甘奈君と約束していてね! 面白い土産話を持ち帰ると!」

「それは十分達成したと思いますよ」


 『猿社長』は、まだまだだよ! はっはっは! と笑います。


「私は恋人に会いに。最近仕事詰めで中々帰って来なくて」

「それはイカンな! ホオズキ君! 恋人には福利厚生と社会規則の整った会社への転職をお薦めするよ!」

「ふふ。それでは社長が立ち上げてください」

「良いよ! この一件が終わったら検討してみよう! 人材の確保が最優先だな!」

「ストップストップ。これ桃太郎ですから。それ以上、世界観をぶっ壊すのはダメ」


 とんでもない方向に物語の舵を切ろうとする二人を太郎が静止します。


「太郎君は?」


 『犬先輩』は、太郎の事情を問います。


「戦争を止めるため」

「ほう!」

「ふふ。桃太郎ってそんな話だったかしら?」

「オレにも色々と事情がありまして……」


 一番マトモではない責任を抱えているのは太郎なのでした。


「犬に猿が揃った! ならば残すは『雉』だね!」

「そうですね」


 太郎は、もう猿社長がパーティーに加わった時点で戦力的には十分だと感じています。

 そもそも、鬼ヶ島へ行き、盗まれた村の地酒を戦争前に取り戻すのが太郎の目的なのです。

 過剰な戦力では鬼を刺激するだけだと、『雉』には非戦闘員であって欲しいと願います。その時、籠車が急停止しました。


「む?」

「なんだ?」

「太郎君、彼女が『雉』みたいね」


 籠車の窓から顔を出して前方を見る『犬先輩』がそう言いました。


「結構、無理矢理な登場だなぁ」


 太郎はきび団子を持って一人降り、目視で『雉』を確認します。


「…………ショウコさん?」


 そこに居たのは、ずんぐりとした雉の着ぐるみを着て座り込む『雉子さん』でした。

 『雉子さん』は太郎の姿を見ると、バッと翼を開いて、


「きび団子を所望する」


 と、真顔で淡々とアピールするのでした。






「ふっはっは! 最後の仲間がこれ程にファンシーとはね!」

「よろしくお願いしますね、『雉子さん』」

「ああ。私も微力ながらこの旅で役に立てるように頑張るつもりだ」


 『猿社長』と『犬先輩』と自己紹介を済ませた『雉子さん』に太郎は質問します。


「……あのさ、ショウコさん。一つ聞いてもいい?」

「なんだ? 太郎さん」

「何で着ぐるみ? 他の衣装は用意されてなかったの?」


 『猿社長』や『犬先輩』はスーツと着物に耳と尻尾が出ているだけのスマートな姿にも関わらず『雉子さん』だけマスコットのような着ぐるみ姿です。

 おかげで籠車はぎゅうぎゅう。『雉子さん』の隣に座る太郎は圧迫されています。


「チャイナ服との二択だったが、こっちを選んだ」

「何故!?」


 太郎は究極の二択を外してると叫びます。

 『雉子さん』は着ぐるみに隠れてはいるものの、『犬先輩』と同じくらいにスタイルが良く美麗なのです。

 チャイナ服の『雉子さん』を見てみたいとも思っていました。


「一番『雉』のデザインに近いのがコレだった。その証拠に見たら『雉』だと解っただろう?」

「まぁ……」


 ド正論を言われては太郎も黙るしかありません。


「ふっはっは! これで『犬』『猿』『雉』は揃った! こちらの布陣は磐石と言ったところだね!」

「そうですね……」


 『雉子さん』に圧迫されながら、窓の外を見ると港町が見えて来ました。

 籠車はがらがらと港町へ入ります。

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物語シリーズ 古朗伍 @furukawa

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