第3話 猿社長

「おう! いらっしゃい!」


 太郎と犬先輩が籠車の宿に着くと、宿の店主が仁王立ちで待っていました。


「獅子堂課長……」

「お疲れ様です」


 二人の挨拶に大柄で筋肉質なお爺さんであるシシドウは、ガハハ、と笑います。


「ガハハ! お前らその役か! 鬼灯はもっと良いのがあっただろ!」

「この役も十分面白いですよ」

「不満がないなら良い! そんで、今日は何の用だ!」

「えっと、港町行きの籠を利用したくてですね」

「いいぞ。だがな、今ちょっと問題があってな」


 シシドウは困った様子で首をひねります。


「山賊が出たとか言わないですよね?」

「いや、もっとタチが悪いのが――」

「じぃ! でたよ!」


 そこへシシドウの孫娘のルリが、とてとて、と走って来ました。


「ケンゴ!」

「おいすー」

「シオリー!」

「ふふ。こんにちは、ルリちゃん」


 太郎はルリの頭を撫で、犬先輩はしゃがんで眼を合わせて挨拶をします。


「ルリ、何があった?」

「あ、じぃ! でたよ! おさる!」

「なにぃ!?」


 それは街道を脅かし、籠車に迷惑をかけている悪いお猿さんの事でした。


「どこだ?」


 その時、停泊している籠の一つに、ゴン、と石が投げつけられます。


「ウキキキキー! ウキーキキキキ!!」

「あれが迷惑なヤツだ」


 太郎と犬先輩は少し近くの木の上から石を投げてくる猿を見ました。


「……え? あれって……嘘でしょ?」

「ふふ。楽しんでるわね」


 お猿さんはまた、びゅっ! と籠に石を投げますが、その巨体からは想像もつかない速さで移動したシシドウがソレをキャッチします。


「社長ー、石を投げると危ないですよー!」

「木から降りれー!」


 犬先輩と太郎は各々で木の上にいるお猿さんに声をかけます。


「止めなお前達。冷静に話を聞く為にもまずは取っ捕まえるんだ!」

「つかまえるんだ!」


 シシドウはキャッチした石を、ゴリッ、と握りつぶし、ルリは、じゃき、と鍵爪を取り出しました。






「そうですか。あなたは宇宙の果てを見てきたと?」

「ふっはっは! そうです、お釈迦様! その証拠にそこに名前を書いて来ました!」

「それはこれの事ですか?」

「!? その手の平は! 親指に私の……サイン!? そして薬指には……そんごうくう!?」

「気は済みましたね。あるべき場所に帰りない」

「う……うおおおおお!?」






「それが、私の身に起こった経緯だ」


 捕まえた『猿社長』にきび団子を渡すと、流暢な言葉で喋りだしました。


「何がどうなったら、神の世界に行けるんですか?」

「ふふ」


 呆気にとられる太郎。『犬先輩』は口元を押さえて笑います。


「罰として“ウ”と“キ”しか喋れなくさせられてしまってね! 心から食べて欲しいと渡された物を口にしない限り、人の言葉は話せなかったのだよ!」

「やり方は相当ヤバかったですよ」

「そうだね! やはり、物語の枠を越えてお釈迦様と対峙するには無理があったようだ!」

「それもヤバいですけど……石を投げるのはちょっと」

「目立たなければ始まらないからね! このきび団子は中々に美味だよ!」


 『猿社長』はパクパクと太郎の出す、きび団子を食べます。


「シシドウさん。これで港町行きの籠は用意出来ますか?」

「ああ。だが、社長を放置するのはちとマズイ」


 『犬先輩』の言葉にシシドウは神に挑む程の行動力を持つ『猿社長』は眼の届く所に置いておくべきだと言います。


「ふっはっは! 迷惑をかけたね、シシドウ君! 私は太郎君と共に行くよ! 港町にも用があるからね!」

「と言う訳で連れて行きます」

「目を離すなよ。次は閻魔の所に行くかもしれん」

「ははは……気を付けます」


 『太郎』、『犬先輩』、『猿社長』の一人と二匹は、シシドウとルリに見送られて港町へ向かいました。

 『猿社長』を仲間にした太郎の旅は続きます。

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