第33話 年末年始の帰省⑤

 悠は真からのメッセージで雪乃とは上手く行かなかったことを知った。


「澪桜、真は上手くいかなかったらしい」


 悠は複雑な表情をしていた。

 安易に二人が上手く行くのではないかと考えていた所もあったが、この結果で彼らがこれからも同じような関係でいられるのかと思ってしまう。

 昔からの腐れ縁が無くなってしまうのは寂しい。


「そうですか…恋とは難しいものですね…」


 澪桜はなんとなく分かってはいた結果。

 自分が悠と同じ立場であったら同様の感情を抱いていただろう。


「でも、二人なら大丈夫だと思います…時間が経てばまたいつもの三人に戻れるんじゃないでしょうか?そんな簡単に壊れる関係じゃないと思いますよ」


 確かに今すぐこれまで通りには行かないだろう。

 しかし、二人はそれぞれ自分で決めた道を進み始めた。

 いつかまたあの頃の三人に戻れる時が来ることを願う悠であった。



 今年の年明けは切ない出来事もあったものの気づけば帰る日。


 最終日の午前中、悠は真から連絡を受け、この前のファミレスに向かう。

 今回は悠一人。

 帰る前に顔を合わせようとのことだった。

 悠はファミレスに到着すると、テーブル席に真と雪乃がいた。

 先日の出来事もあって少し気まずさもあったが、悠は二人が座る席に合流する。


「なんだ?雪乃もいたのか?」

「悠ちゃんまた年末まで帰らないでしょ?数年ぶりにまた三人で顔合わせとこうって話になったの」

「確かに三人で集まるのは本当に久々だな。懐かしよ」


 悠は昔の事を思い出していた。


「良く部活終わったら三人で帰ったよな」

「あの頃が本当に懐かしいよね」


 三人は高校時代の思い出に耽っていた。


「悠ちゃん私ね、真に告白されたんだ。もう真から聞いてると思うけど」


 悠はまさかこの件を雪乃から直接聞くとは思わなかったので少し驚いた。


「ああ、聞いたよ。結果もな…」

「うん…。真に言われたの。結果はどうであれこれまでと同じ関係で居たいって。私もそう思ってるのは同じだよ。だけど一つだけ清算しないといけないことがあるんだ」


 雪乃は言いにくいのか少しだけ間を置いて次の言葉を発する。


「真が勇気を出したんだし、私もそこはちゃんとしないとって。私ね、悠ちゃんが好きだったの。この気持ちに応えられないことは分かってるよ?でもケジメはつけて置きたかったの…」


「雪乃…」


 悠は自分のせいで二人が上手くいかなかったのだと思うと言葉が出なかった。


「悠、お前の考えていることは違うぞ?別にお前のせいとかそういうのじゃない。それだけは言っておく」


 真は悠の表情を見て何を考えていたのか察したのだろう。

 少し強めに釘を刺してきた。


「そうは言うがな…」


「恋愛ってそういうものだろ?一方通行じゃ追うことは出来ても向き合うことは出来ない。お互いの気持ちが同じ方向に向いてなけりゃ成立しない。俺たち三人は恋愛ではその気持ちの方向がバラバラだっただけだ」


 真の言葉には説得力があった。


「ただそれはあくまで恋愛での話だ。俺達は昔からの友達として一緒にいて楽しいって気持ちはみんな同じだったろ?」

「そうだね。ただ三人で帰るだけでも楽しかった。これからも二人にはそんな友達としていて欲しいよ」


 結局、澪桜の言うとおりだったのだろう。

 三人の友情はそんな簡単に壊れるものじゃなかった。

 恋愛の面では上手くいかなったかもしれないが、これからも昔みたいな関係でいたい。

 これは悠だけが思うことではなかったのだ。


「そうだな。俺もこれからもずっと三人でバカ言い合える仲間でいて欲しいよ」


 悠はいくらか心が軽くなった気がした。


「今日、悠を呼んだのはこの話をするためだ。帰る前に直接三人で会っておきたかった」


 真は悠と雪乃を見て笑う。


 真、お前は強いよ。俺なんかよりもよっぽどな。

 本当は思うことがあるだろう。

 雪乃も一緒だ。

 それでもこんなことを言ってくれる二人はやっぱり俺にとってはかけがえのない親友だ。


「俺にとって二人は親友だよ。これからも毎年集まろう。わざわざ呼んで貰ってありがとな。これで心置きなく帰れる」


 その後、三人はしばらく笑い話や過去の思い出を語り解散した。


 近くのデパートで買い物をしていた澪桜と合流し、実家に戻る。


「澪桜の言うとおりだったよ。俺たちはまた昔みたいな関係でいられそうだ」


 澪桜は笑顔の悠を見て安心した。


「本当に良かったです。来年も集まれると良いですね」

「ああ。約束してきたよ。帰る前にしっかり清算出来て良かった」


 三人の絆は想像以上に強かったのであった。



 実家に帰った二人は帰り支度を始めた。


「二人とも寂しくなるけど、また帰って来なさいね?今度は澪桜ちゃんもいるんだし、年末とは言わずお盆にも来なさいな?」


「母さんの言う通りいつでも二人で帰って来なさい」


 彰と志保は名残惜しそうに言う。


「そうだな。また夏頃にでも帰って来るよ」

「お父様、お母様。本当にありがとうございます。またご一緒させて下さい」


 澪桜も一条家に居心地の良さを感じていた。


「凛、受験頑張れよ?お前なら大丈夫だ。自信を持って試験に臨むように。試験でこっちに来るならうちに泊まって行くと良い」

「ありがとう兄さん。受験の時はそうさせて貰うかも」


 凛は嬉しそうに笑う。


 帰宅の準備を済ませた二人は車に乗る。


「じゃあそろそろ行くよ。今回も楽しかった。みんな元気でな」

「気をつけて帰るんだぞ?それと、身体に気をつけて仕事に励め。もう一人の身体だと思わないように」

「そうよ?でも澪桜ちゃんに甘えすぎないようにね。次会えるのを楽しみにしてるわ」


 一条家総出でのお見送りを受けて悠は車を走らせた。


「悠くんの家族は本当に良い人ですね。私、みんなに受け入れて貰えて本当に嬉しかったです」

「家族が褒められるのは俺も嬉しいな。でもそれは澪桜の人徳だと思うぞ?」

「ふふっ。ありがとうございます。また夏にご一緒して下さい♪」

「もちろんだ。澪桜無しで帰ったらなんて言われるか分からん」


 悠は冗談っぽく笑った。


「寂しくなりますけど、帰ればまた二人の生活が始まりますのでいっぱいお世話させて下さいね?」


 澪桜は甘えた声で言う。


「お手柔らかに頼むよ」


 

 こうして、悠と澪桜の年末年始の帰省は終わったのであった。


 


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女は俺を甘やかしたい 蒼い湖 @yuyu0812

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ