ゲスボイスの僕が美少女三姉妹と動画配信できた理由!

夜野 舞斗

ゲスボイスの僕とウグイス美少女

「きみ……大丈夫……?」

「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ! やめてぇえええええええ! 殺さないでぇえええええ! 死にたくないよぉおおおおおおおおおお!」


 僕が一声発しただけで、こうだ。命の危険を感じたのか、泣き喚いて逃げていった。夕方のスーパーの混雑時、親とはぐれたらしき幼稚園児がいたものだから声を掛けたのだ。本当に困っているみたいだったから、ね。

 しかし、僕の声には人を怯えさせる能力があるようなのだ。だから、今回も彼を恐怖のどん底に突き落としてしまった。

 特に高校の同級生からは「ゲスボイスの浜内はまうち」と呼ばれている。ゲスボイスのゲスはゲスいとか、そう言う意味を含むのか、それとも下水道みたいに汚れていると言うことか。

 それが分かっていた。僕みたいな陰キャ街道まっしぐらの高校生には人助けすらする才能がないのに、どうして動いてしまったか。

 自分で自分の存在意義が分からなくなっている今、セルフレジで夕ご飯の買い物を終わらせる。

 少ない夕飯の材料を見て、一つ溜息。

 中学の頃の友人とは決別するために都会の高校まで来て、一人暮らししていると言うのに。全くうまくいかない。高校デビューなんて、ラノベや漫画だけの産物だ。一回憧れた僕が馬鹿だった。

 さて、今日も帰って、詰み読になっている本でも読んで寝てしまいますか。


 その時までは毎度毎度の日常が続く気がしていた。

 コンビニの店員にも、同級生にも声のせいで疎まれて、変な顔をされる生活が。


「ねぇ、ちょっと君、ついてきてよ!」

「えっ!? えっ!? ちょっと待って! 買ってきた荷物が落ちちゃう! ストップストップ! あっ、ニンジンがニンジンがぁああああ!」


 突然にも僕の腕を引っ張ったのは、黒髪優等生ヒロインと言わんばかりの美少女。いや、その説明だと何も知らないような感じだろう。一応、知っている。

 女性に慣れていない僕の胸が激しくうごめく位には、彼女のことを分かってはいるはずだ。

 ニンジンを拾って袋に戻しながら、思い出す。

 彼女は学校の美少女十人衆かと言われるレベルで憧れられているとのこと。そういや、クラスメイトが噂するには「つかみどころのない不思議な少女」である、と。「ナンパしようとしたら帰宅部プロの彼女はすでに消えていた」とか。皆、彼女に惹かれているのか、噂をよく口にしている。

 そんな彼女が何故、僕を連れているのか。全く分からない。


「突然、ごめんね。君のことは学校でよく見てるからね。誘拐位しても大丈夫っしょ!? 浜内くん!」

「えっ!? 誘拐……!? 身代金目当て……!?」

「捕食だよ!」

「はぁ!?」

「うちにお腹を空かせた雛がたくさんいてさ、ピーピーピーピー、鳴いているんだよ」


 何を言っているのかが理解できない。彼女は鳥人か何かの類で闇に紛れて、人を食うと。なるほどなるほど……ではない。この世界はラノベのように魔法や異種族がいる訳ではない。


「嘘までついて……何がしたいんだよ……」

「あっ、バレたか」


 バレるわ。逆に何故、バレないと思っていたのか。そして、僕に何の用があるのか、恐る恐る尋ねていく。


「で、何……何で」

「それには理由があるんだよ! すぐそこのカフェにいるから、さ! みんな、会いたがってるんだ!」

「会いたい!?」


 そこに頑強な男達が待ち構えていて、僕からお金を……。そう思ったが、それならもっと適任そうな人物がいる。

 僕みたいな恐ろしい声の人物に対し、勇気を出して連れ去ることなんて……。

 いや、待て。

 ふと、ある不自然な出来事に気が付いた。目の前にいる彼女は全く僕のゲスボイスを驚く様子はない。怯えることすらしていない。

 確か、彼女……名前は今枝いまえだ美織みおりだったはず。今枝さんは僕の声について全く何も思わないのか。


「君に会いたい美少女がいるんだよ!」

「えっ!?」

「何だか嬉しそうじゃないね。普通の男子高校生なら興奮するって漫画に描いてあったんだけどな。あれこそ、嘘じゃないかな」


 彼女は彼女で僕のことをいぶかし気に思い始めていた。それも僕とは全く違う方向で。

 確かにクラスメイトだとしたら、一気に興奮していただろう。クラスメイトの一人が今枝さんとは別の女子に近寄られただけで、顔が赤く染まっていたから間違いない。僕は相当捻くれているのだ。


「まぁ、嘘では……ない……と思うよ。僕が……違うだけで」

「となると、別の更なる光が見えてくる」

「ねぇ……一体……なんの、あれなの!? 何をしようとしてるの……!?」


 僕のドスドスと音で表現できそうな声が飛ぶものだから、周りの人、いや、鳥までもが去っていった。彼等の平穏な時間が……僕のツッコミによって終わっていく。ああ、悲しきや。

 僕が彼等が心の平穏を保っていられるよう、祈っている間に。彼女は本当に雛達の元へと導いていた。

 そう。食欲ではなく、好奇心に満ちた雛達がいる巣、いや、小さなカフェに。

 カフェの扉にある鈴の音がチャラチャラと鳴り響く。それが終わる前に、雛のうちの一人が声を出した。


「やっと来たねぇ。お待たせされたよー、美織。それが例の言う、同級生くん?」


 背が高い短髪の女性が大人しくありつつも、目を光らせる。

 もう一人、三つ編みの雛は僕に向け、何だかおかしなことを言う。


「見る限り、面白そーな人だね!」


 「でしょでしょ」と言う今枝さん。いや、今枝さんと言うべきではないのかもしれない。三人共顔の輪郭が似ている。たぶん、姉妹だ。美織さんと呼ばなければ、紛らわしいことになるであろう。

 彼女達は素っ頓狂な顔をしていると推測できる僕に向け、言葉を送ってきた。

 まずは美織さんから。


「その声、私達に売ってくれない?」


 売るという概念がよく分からない僕に、大人しそうな彼女が一つ。


「美織のお願い聞いてくれないかしらぁ。それにあたしも、珍しい個性が欲しかったから、ね。この声、すっごい個性的ね!」


 もう一人、一番年下らしき子が言うには……。


「何かまだ知識が詰まってなさそうな顔がする! あのさ、どうかうちのカメラの知識を頭に詰め込ませて、手伝ってよ!」


 何が何がと混乱している僕に美織さんが目的を語った。


「私と青莉あおりお姉ちゃんと理緒梨りおりはね、そのゲスボイスを個性にして、動画配信をしたいんだ!」

「ええっ!? そんな……いきなり……!?」


 僕の酷い声が響き渡っていくも、三姉妹の誰もが驚く様子はない。それどころかとても微笑ましい笑顔を向けてくる。僕には眩しい。


「それにねそれにね浜内くんの声って、アニメの悪役の声にも似てるの!」

「ええええっ……!?」

「だから、声真似動画に出演してもらえたらって、思ってるんだよ! えっ!? いいの!? どうか、よろしくねっ!」


 ああ、もう、目も当てられない。

 

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