第137話(完)

 月日が流れるのは早いっていうけれど、私の苗字が八神に替わって三十年近く経ってしまいました。


 元気に飛び回っていた私も気が付けばすっかりいいオバサンで、このところは膝や腰の痛みと付き合う毎日。孫でもいたら多少気も紛れたんでしょうが、結局私は子供を授かることは無かった。


 夫の潤に問題があったと後の検査で判明しました。一人くらいはと考えてはいましたけれど、これも運命なんでしょうね。


 もっとも今になると授からなかった方が良かったのかと思ったりもします。



 潤は来月で定年です。


 引き続き会社は雇用してくれるので、本人もまだまだ頑張ると話しています。ただ、年齢を重ねたせいか、このところスマホをよく忘れたりもします。


 今朝も置いたままになっていて私が慌てて呼び止めたんですから。


 かくいう私も人のことは言えません。白いものもだいぶ増えちゃいましたし、同じようにうっかりも多くなりました。


 長寿の方からみれば、私もまだ若い部類に入るけれど、そこそこ長く生きて来ましたからね。いろんなことがありました。


 忘れてしまったこともたくさんあるし、忘れられないことも数多くあります。出来れば楽しい思い出だけを覚えていたいものですけどね。


 つくづく不思議なものとして人の縁というものがあげられますが、特にあなたと過ごした日々は私がたとえボケても忘れられないでしょう。


 もちろん潤との出会いもですが。


 それにしてもあなたは御変わりになりませんね。喫茶店で働いていた頃のままで輝いています。それが羨ましくもあり悲しくもあります。



 私は今とっても幸せですよ。


 これからも二人で力を合わせて暮らしていきます。


 それで良いですよね‥‥由佳理さん。


 なんか余所余所しいかしら。







 やっぱりこうですよね‥‥‥先輩。

                               完

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Yの翼 ちびゴリ @tibigori

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