創作は楽しい
ネオ・ブリザード
創作は楽しい
やあ、きみが、私の『熱烈なファン』と言う人だね? 今日は、私の仕事場によく来てくれたね。こんな手入れの行き届いていない家ですまないが、どうぞ、中に入ってくれ。
……どうしたんだい? 家の中に入るなり、辺りを見渡して。そこは、まだ玄関だよ? ……え? 小説家の家の中がどうなってるか気になるって? はは……そうか、そうか。
でも、何時までもそこできょろきょろしていたら、日が暮れちゃうよ。家の中央のリビングに案内してあげるから、私の手をお取り。ああ……今日は、仕事場の見学だったね。じゃあ、仕事場に案内しないと。
そういえば、自己紹介をまだしてなかったね。……え? 知ってるって? ああ、そうか。きみは私の『熱烈なファン』だから、私の名前は知ってて当然か。失礼したね。
さあ、ここが私の仕事場だよ。いつも、あの窓際に置いてある机で作業しているんだ。……さて、私は飲み物を持ってくるから、好きなように見学しててくれ。
……
…………
………………
ごめん、ちょっと時間がかかってしまったね。紅茶を入れてきたよ。……おや? なにを読んでいるのかな?
……『異世界が召喚された異世界』? 私のデビュー作だね。いわゆる、ジャンル迷子になったやつだ。ううん……懐かしいね……。あ、紅茶をどうぞ。
それはね、とても思い入れの強い作品なんだ。なぜかって? 世に出すのに、とても苦労したからかな。だからかな……目を瞑ると、あの頃の情景が昨日のように思い出されるんだ。……あれ? 紅茶、口に合わなかったかな?
……違う? 私に聞きたいことがある? 良いよ。なんでも答えてあげる。答えられることなら……ね。
なになに? 貴方は、どうしてリアリティのあるお話を、色んなジャンルで書くことが出来るのですか……だって? ふふ……とても良い質問だね。
あ、紅茶、机の上に置かせもらうね。
……じゃあ、逆に質問するね。きみは、お話を書くときに必要なものは何かと考える? ……なるほど、想像力や発想力か。確かに、それも大切だね。独自性が産まれるからね。でもね……物語を書くときに、もっとも大切なものは、『自ら得た経験や体験』、そして『現地の取材』だと私は思っている。
ふふ、驚いたかな? でもね、これは、物語を紡ぐ人達にとって、共通していることだと思う。
でもね、デビュー仕立て……そう……当時の女子高生の私は、人生経験も浅く、きみの言う想像力や発想力も無かった。ましてや『現地に行って取材』なんてことも、出来なかった。……お金が無かったからね。
ん……? それじゃあ、今までどうやって、ミリオンヒットする作品を世に送り出してきたのか……だって?
ふふ……それはね……ある日、神様が私に力を授けてくれたからなんだ……。
あ、異世界ものが好きなきみには、『スキル』と言った方が伝わるかな? いやあ、『スキル』って、転生しなくても頂けるものだったんだねぇ。
おや……どうしたんだい……? 急に肩をすくめて怯えだして……。え? 突然なにを言い出しているか解らないって? それはそうだろうねぇ……。通常、物語の中にしか存在しない『スキル』を、私が授かった、なんて正におとぎ話……理解なんて追いつかないよねぇ……。
おっと!! きみを、この部屋から逃がす訳には行かない。なぜなら、きみは、私の、小説の、新たな、主人公なんだから。
……
…………
………………
……ふう。お陰で無事、きみを私の書きかけの小説の主人公にすることが出来たよ。あとは、きみの言う『想像力や発想力』、そして『自ら得た経験や体験』が、この小説にリアリティを持たせ、話が盛り上げてくれることを祈っているよ。
あ、あと、エタらないように頑張って。まあ、その時は『最終回』になるだけだけどね。
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。
さて、次は誰を主人公にしようかな……。おや? これを読んでいる目の前の『あなた』。とても良い主人公体質をしているね。是非、私の小説の『主人公』になってくれ。今、私の家への招待状を送ったから。断ることは出来ないよ。では……家で待ってるよ。
――おしまい――
創作は楽しい ネオ・ブリザード @Neo-blizzard
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