最終話 真夏

「きゃーっ! い、今誰か落ちたぁ!」


 クラスの窓際席の女子が金切り声を上げ窓を開けた。

 窓を開けて外を覗いたかと思うとその場で貧血を起こしてへたり込むように気絶した。

 こっちは朝っぱらから阿良弥あらやと喧嘩してイライラしてるってのに、耳障りだ。それにしても、完全に覚醒する前に話過ぎちゃったかな?


 窓辺へと確認に行った担任が慌てて「カーテンを閉めろ」と喚く。

 ざわざわと騒がしくなる教室内で、窓に近い男子が「隣のクラスの朝日じゃね?」と言っているのが聞こえた。

 何? 何で? すぐに鞄を持って教室から飛び出し、廊下に出ていた別の教師の静止をかいくぐって校庭に転がっているひしゃげた人間の元に駆けて行った。

 そこに転がっていたのは紛れもなく幾数回と逢瀬を重ねた伴侶の亡骸だった。

「あーっ、くそくそくそっ!」

 鞄から南部拳銃を取り出してスライドを引く。

 銃口を咥えて親指で引き金を引く。

 なんてことはない。私にとっては毎夜眠る様なもの。

 また愛する貴方と同じ時代に目覚めるだけ。

 おやすみ……。


 …

 ……

「お早う」

「あぁ、お早う。今日は何だか変な夢をみたよ。僕は君にそっくりな真夏って女の子にそそのかされて小説家を目指すんだ。変だろ? 仕事なんて小学生の頃にAIに決められて、みんな適性を活かせる職に就いてるってのに、そんな漫画みたいな……さ」

「ほんと、漫画みたいね」


 夫を仕事に送り出した後、彼が利用している闇サイトに彼のIDとパスワードを入力してパーソナルページにアクセスする。

「あら、エタると思ってたけど更新したのね」

 私は投稿された小説のタイトルをクリックする。


『その小説は記憶を紡ぐ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その小説は記憶を紡ぐ。 笹岡悠起 @yv-ki_330ka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る