第3話 神様の選別ミス、もしくは?

街の外に広がるは美しい景色だった。こうとしか表せないような美しい、うつくしい、景色だった。桃源郷とでも言おうか。隣を見ると俺がいた。こればっかりは慣れない。よく見るとそこらじゅうに店がある。「お腹すいた?」「まぁ結構すいたな」「じゃあパン屋でも行こうか」パンは嫌いではない。「でも何処にあるんだ」「あるじゃない、そこに」よく見ると目の前の通り真っ直ぐ進んだところにパン屋がある。2人で一緒に歩いた。横から見る俺の顔はニキビと吹き出物だらけでいかにも社会不適合者という感じだった。そして首元にある縄の跡を見つけてしまい俺は思わず目を背けた。そうだ、俺は死んだんだった。そんなことを考えながら歩いていたらパン屋についた。「失礼しまーす」「そんなこと言わなくてもいいのよ、どうせ誰もいないんだから。」と涼子。確かに、よく見ると中には誰もいない。ただ色とりどりのパンが並んでいる。「あなたは何が好き?」クロワッサンを片手に隣の俺が言ってきた。「それでいいよ、けど金は?」「死んでもなおそんなものに気を遣わなきゃいけないの?」そういう言葉に俺は弱い。死という言葉が体に重く重くのしかかってきて口を利かせてくれない。「それだけでいいの?」「ああ、あんまり食べたい気分じゃない。」「じゃあもう暗くなってきたし、宿屋に行きましょうか」「宿屋もあるのか」「いいわよ、ここで寝ても。」「勘弁してくれ、、」こうして(俺)の案内で宿屋に行った。小洒落ていていい雰囲気だった。俺は生前、こんなところに縁がなかった。入り口に立っているだけなのにそわそわしてしまった。「じゃあ入りましょうか」「うん」声の震えはうまく隠せただろうか。中に入ったが広いエントランスの中に人が誰もいないのは違和感がある。「5m以上離れたらダメなんだから2人で個室にしましょうか。」「そうだな。」エントランスを抜けて長い階段の先には、一つだけ小さな個室があった。まるで俺たちの会話を聞いているようで、君が悪かった。部屋の中は普通のホテルと変わらなかった。タンスが一つとベットが、、一つ。従業員がいないのでもう一つ増やしてくれと頼むこともできない。まるで2人で添い寝することを望んでいるかのようだ。幸いお風呂もついていた。ベットの上に2人で腰掛けて黙ってパンを食べた。冷え切ったパンはそこまで美味しくないはずなのに、なんか幸せな気持ちになった。食べるというアタリマエの行為は、俺に自分が生きているという実感を与えてくれた。「お風呂、どっちが先に入る?」「先に入らさせてもらうわ、ちょっと汗もかいたし。」「どうぞ」冷え冷えとした声だった。脱衣所で服を脱ぎ、裸になって鏡で自分の顔を見るとやはり縄の跡が目に食い込んでくる。やっぱり目を背けた。お風呂は綺麗だった。でも鏡をどうにかして見まいとする自分がいた。浴槽に浸かっていると、なんだか鼻歌でも歌いたくなった。俺が昔好きだったアイドルの曲、そう言えばそのアイドルも不祥事で表舞台から消えていったけ。それにしてもお風呂って気持ちがいいんだな。心が洗われるという表現がよくわかった。気持ちよくなって部屋に戻ると(俺)がベットの上で手首を押さえて座っていた。嫌な考えが頭をよぎり急いで駆け寄って手首を隠す手を剥ぎ取るとそこには今つけられたであろう傷が何本もあった。絶句した。初めて自分の体を心配した。「おい、、何してんだ。」「これは、、、、、出来心だから。」手にはどこから持ってきたのかわからないカッターがある。刃先には真っ赤な鮮血。「俺の体に勝手なことをしてんじゃねぇ!」言葉よりも右手の握り拳が先に動いた。気づいたら殴り飛ばしていた。(俺)は殴られた右頬を押さえて静かに睨んできた。その時俺の頭に数字が浮かんできた。 『1/5』 強烈な頭痛に思わず屈み込んだ。すると、「生への執着ポイントを獲得、残り4個」急に頭の痛さが引いてきた。意味がわからない。もうういちど姿勢を直して立ち上がって(俺)の顔を見ると、絶句した。もうそれは(俺)の顔ではなかった。美しい女の顔になっていた。よく見ると俺が昔好きだったアイドルの顔だ。信じられない、、、







つづく

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(つがい) 玲瓏透徹 @Reiroutoutetu

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