っていう夢を見たんだけど


「っていう、ナイスバディのお姉さんが、僕の事を励ましてくれる夢を見たんだけど」


「ふーん。そのお姉さん、厨二臭いな」


「カッコいいじゃん」


「マジかよおめぇ」


 カッコいいじゃん。とくに最後のセリフとか。現実にいたら確かに痛いお姉さんだとは思うけど。


「現実ってさぁ、どうしてこんなにつまんないんだろうねぇ……」


「しみじみとまた厨二臭いことを……。もっと楽観的に生きろよ。つまんねぇつまんねぇ言ってると、どこまでも冷めていっちまうぞ」


 分かってるけどさ。楽しい事は沢山あるんだよ、きっと。それに気づけないだけで。


 でもこんな風に、つまんないつまんない言ってる日常が、やっぱり一番楽しいのかもしれない。


「まぁ、そんな事言ってる暇なんてないんだけどな。勉強しろ勉強。明日テストだぞー」


 テストは無くてもいいんだけどさ。


 惰性混じりに、体を起こす。


 足を組み直して、手元にほっぽいておいたシャーペンをカチカチとならす。ありゃ、シャー芯切れてら。


 正面に座る友人の顔を見ると、何やら真剣に問題集に取り組んでいる。勉強会をしようと言ったのは僕だけど、こうも温度差があると気が滅入ってしまう。


 僕が勉強していない間、彼はどれほど勉強しているのだろう。なんて考えるけど、正直それを知ったところで僕は自分の生活を変えようとはしないし、聞くだけ無駄だろうと思って、辞めた。


「あー……勉強しよ」


 結局僕は無言のプレッシャーを放つ彼の雰囲気に負けて、白紙が目立つ問題集をパラパラと捲る。


 気が滅入る。殆どやっていないじゃないか。今日までの僕は一体何をやっていたのだろうか。


 自分にうんざりしながら、問題を一つ一つ流すように解いていく。分からなかったら直ぐ解答を見る。八割分からなかった。明日テストだぞおい。


「……ねぇ、ここわかんないんだけど」


「……どこだよ」


 友人は細かく動かしていたシャーペンを机に倒して、僕の方をしぶしぶ向いた。顔には不満がありありと浮かんでいる。ごめんて。


「で、どこだ?」


「ここだよここ」


 僕は分からなかった範囲を指した。


「……どこだよ」


「だからここだよ。この辺り」


 僕は問題集の紙面の上を、弧を描くようになぞった。問題のほとんどが孤の内に収まった。友人は怒りを堪えるように震えている。ごめんて。


「おい!これ全部かよ!流石に前日でそれはヤバいぞ!」


「ごめんよ兄さん。仕方がないんやて。僕頭悪うてしゃあないの、知っとるやよ?」


「むっかつくんだけどお前の態度!」


 ごめんて。


 しかしそんな事言いながらも丁寧に教えてくれる兄さん素敵やわぁ。


「おい!聞いてんのかよ!」


「聞いとる聞いとる。で、なんだったっけ。余弦定理?二相関図?」


「ただの二次関数だよこの馬鹿野郎!」



 こんな馬鹿話でもしながらじゃないと、やってられない。


 怠け者は常に麻薬を吸引してる。惰性が長引けば長引くほど、失った時間の多さに押しつぶされて、希望が持てなくなる。怠惰から抜け出せなくなる。


 僕も過去を悔やんでる。遊び呆けた少年時代の負債をずっと背負い続けて、借金はどんどん増えていく。


 それを直視できないから、いつまでも前を向けないでいる。


 惰性で日々を生きている。


「はぁ〜、現実ってやっぱクソだわ」


「……俺も今同じ事を考えてる」


 僕を見ながら言わんでほしい。


 ……ごめんて。



 結局その日は、大した勉強もせずに一日が終わった。


 やっつけで終えた明日提出の課題が、目新しさと共に机上に残されていた。

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夢と現実 御愛 @9209

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