第8話 エピローグ ~贈り物~

「それにしても惜しかったわね。三回もデートしたのに」

「ね、惜しかったな」


 交際を断り、休会した翌日。フーチェから「ビドルさんと交際しないことにした」と聞かされた母親は、キッチンでかぶりを振って残念がっていた。父親がいたら、同調していたかもしれない。まだ本当の理由は明かしていなかったが、これからしばらくデートもないので、いずれ言わなくてはならないだろう。


 いつ切り出そうか、迷っていたときだった。


「あら、郵便が届いてる。フーチェ、ライナの結婚相談所から来てるわよ」

「え? ありがと」


 休会の通知だろうかと思って封を開けると、そこにはリアミーから「良ければお母様に渡してあげてください」という件名で長文の手紙が入っていた。


「これ……」


 最後まで読み終えた彼女は、母親に「相談所のリアミーさんから」と手紙を渡す。


「んっと、どれどれ? 『今回、フーチェ様が当相談所を休会することとなったため、その経緯についてご説明したく、筆を執った次第です……』」


 手紙の中でリアミーは、フーチェが服作りの修行をしたいと考えていること、その想いを自分に語ってくれたこと、だからこそ結婚と悩んでいたことが記されていた。そして、もう少し仕事を優先して結婚を後に回した方が良いとリアミー自身も判断して休会を薦めた、とも書かれていた。


「…………そうなのね」


 読み終えた母親は、手紙を折り畳みながらポツリと呟く。フーチェは彼女の様子を窺いながら顔を覗き込むように視線を合わせた。


「ごめんね。ちゃんといつか再開するから。今は、ちゃんと仕事に向き合いたいなって……」


 怒られるだろうか。咎められるだろうか。手が汗で濡れる。答えを待ちながら、握った指をすり合わせる。


 母親は、鼻でふうっと息を吐いた。それは怒りでも呆れでもない、穏やかな溜息。


「分かったわ。まったく、頑固なところはお父さん譲りね」

「……だね。ありがと」


 二人で相好を崩す。こうして、フーチェの婚活は、一旦お休みとなった。



 ***



「できた!」


 休会からしばらく経った休日。自分の部屋で布と糸に囲まれながら、フーチェは勢いよく叫んだ。


 手に握っているのは、上がクリーム色、下が濃紺のワンピース。普段使いもできるけど、襟もボタンもしっかり付けているので、上着を着れば余所行きにも使える。


 彼女は 机の上に飾った手紙に目を遣る。リアミーの後にもう一通来た手紙。それはビドルからのものだった。たくさんの激励の言葉と共に「また飲みに行きましょう」「僕はずっと待っているつもりです」と綴られた便箋は、すっかりフーチェの宝物になっている。



「お母さん、行ってきます!」

「ちょっとフーチェ、どこ行くの!」

「カタスイ村!」


 布の袋に入れた服を胸元に抱えて、彼女は晴天の中を駆けていく。


 自分を認めて、背中を押してくれたあのアドバイザーに、初めて自分で作ったこの服をプレゼントしよう。


 <第1章 了>

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【第1章完結】初デートで酒場はナシです! ~転生婚活アドバイザー~ 六畳のえる @rokujo_noel

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