1月21日 みかんの恨みは恐ろしい
1月21日 天気:寒い
あー、もー、くそー。寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い!!!
早く終わって欲しい!!!
……
あ、こんにちは。苦悩の黒いドロドロしたものが口から出てしまいました。テクラです。
本日は和歌山
今年で7回目の開催となる、「和歌山-海南マラソン」のイベント警備という特務です。
まず最初に聞いて下さい。今回の特務の報酬は「下津みかん2箱」だそうですよ。
下津みかん……いわゆる温州みかんで、とっても皮が剥きやすくて私も大好物です。それが2箱ももらえるだなんて……
「 嬉 し い と か 言 う と 思 っ た か ! 」
ボランティアという性格上、報酬をねだるのは確かに違うと思うよ。
けどねえ、さすがに現物支給はないんじゃない?
和歌山県の特務なら、出動の目的によって1000/3000/5000円のクオカードがもらえるんだぞ。
奈良県なら、出動1回につき1ポイント加算。特務の達成状況に応じて5~30ポイントがもらえて、月末に集計されてポイント数に応じた図書カードNEOがもらえるんだ。
まあこれも、「現金で何故くれない!」とか思うけど、それは今回おいておこう。
だから、今回のみかん2箱は、本当にいらないです。
日本には「同情するなら金をくれ」って諺もあるんでしょう?
一応、私も今は和歌山県民ですから、みかんなんてどこからともなく貰って来れるんですよ。
すでに、我が家は、顔の広いたまきばあちゃんのお歳暮として、10箱以上ももらっています。そのうちほとんどが、県外の魔法少女にお引き取りしてもらってます。あかり先生に引取先を見つけてくれるように頼みました。これを「みかんロンダリング」と言うそうです。テクラもまだまだ知らない日本語があって勉強になります。
今もまだ、家には1箱半残っているというのに、また在庫が増えるというジレンマ。またどこかのMGUに引き取って貰わないといけませんね。
◇ ◇ ◇
そして、この特務のもう一つの辛いところは「長時間」ってところ。朝7時に集合してミーティング。そして8時から夕方17時頃までかかるのです。休憩時間とか、きちんと取っているんでしょうかね。無茶苦茶不安なんですけど!
で、私の配置は全体の統括。
統括というと、本部みたいなところでお茶すすって待機するとか思ったでしょう。
違 い ま す 。
私は、マラソンコースとなっている、国道24号線の「高松交差点」上空で静止して、ここから沿道の観客とマラソンランナーを見守るという、大変過酷な特務に就いているのです。
ひとりで長時間、空中で止まって見てるだけの簡単なお仕事だと思っているでしょう。
甘 い !
甘いですみなさん。この仕事、やることないです! 誰も周りにいないから話し相手もいないです! スマホ持ってますけど、それ見てたら仕事してないことになるし、とにかく、見続けるしかないんです!
しかも、上空で静止しているからこそ、沿道の人に大注目されます。
年末、私、テレビに出たことは話しましたよね? (注:テクラの日記ではまだ掲載していません。気が向いたら書きます)
それで、私の過去を大暴露されて結構有名になりました。(関西ローカルですが)
だから、それを見た人も沿道にたくさん来て写真を撮っていくのです。あまり目立ちたくない私が、こんな人目を引くところに配置されて、かなりの苦痛なんですよ。
まあ、わたくし、「眺望の赤」の魔法少女ですから、千里眼や透視はお手の物です。えっへん。
そして赤石は、全体の司令塔となる魔法少女なんだそうです。そんな感覚全くないんだけどなあ。
だからここで監視する役目をするのです。赤色魔法少女にピッタリの役ですね。
憎 い ! 赤 色 が 憎 い !(泣)
しかも寒いの!
今朝の和歌山の最低気温2度。しかも、風が結構強くて風速10mくらい吹いてる。風で煽られるくらい強いの。こちとら障害物も何もない空の上。体感よりもはるかに寒い風が吹きつけるのです。
いくら魔法少女の服が体温調整機能が付いているといえど、寒いもんは寒い!
さっきから鼻水が出て来てるけど、みんなが見ている前で鼻もかめず、おしっこも行きたいけどギリギリまで我慢してる。
本当にウィッチエイドはブラックユニオンです。
ああ、辞めたい(ぼそっ
◇ ◇ ◇
ふと見ると、病室にあの子が泣きながら入ってきた。ああ、あの病室の人だったんだ。
◇ ◇ ◇
ああ、実はね。さっき、10kmの市民マラソンに参加した小学生がいたんだけれど、転んでしまって膝をケガしたのよね。
すりむいた膝からは結構な血がドバドバ出て、止まらなさそうな感じだったので、棄権して救護室に行こうって言ったの。そしたら断固拒否されてしまって……
付き添い、というか、一緒に走っていたお父さんも消毒して貰おうって言ったのに、頑なに完走するって言うの。
まあその気持ちも分かるので、ウィッチエイドのカバンから絆創膏やら包帯巻いたりの簡易的な処置をして、行けるところまで行こう。でも、救護車に追い付かれたら諦めてねって言い、走らせてあげたの。けど、やっぱり無理だったようで、私が強制的に救護室まで運んであげたんだ。
無茶苦茶文句言われたけど、走れなくなったのはしょうがない。誰も責めないって言ったのに、悔しくて泣いてたっけ。
で、赤十字病院の駐車場にテントを張った救護室で治療を受けさせたの。
中には和歌山郡のひとり、白色魔法少女がいたの。私より背が小さくて、無茶苦茶かわいい女の子。でも、私よりもずっと年上と聞いてびっくりしました。
彼女は、ケガをしたひざに手をかざすと……
「一瞬や……」
そう、一瞬でケガが治ったんですよ。あんなに血がドバドバで、包帯にも血がべったり付いていたのに、跡形もなく治ってるのよ。魔法ってすごい!
私も赤じゃなくて白の方が良かったなーって思いました。
そうしたら、あんなにぶーたれていた小学生が、とても素直になったんです。
何故そんなに聞き分けなかったの? って白色魔法少女が問いかけます。
そしたら、
「この病院に母親が入院している。元気づけるために、市民マラソンで完走して、完走証を見てもらうんだ。そして、元気になってほしい」
だって。
え、なに。
なんだか涙が出て来たんですけど……
とても健気。彼、本当はやさしい心の持ち主だったんだね。
ちょっと私感動したよ。
ちなみに、彼が素直になったのは白色魔法少女の特技です。
白石は回復役(ヒーラー)なんて呼ばれていますが、本当は心を穏やかにする魔法なんだそうです。その一環として、ケガなんかを治せることが出来るそう。
「頑張ったけど、ケガをしてまったって素直に言えば、お母さんはそれでも元気になるよ」と、白色魔法少女は答えてあげます。
絶対にそうよね。子供の頑張りが親に伝わらないわけないもの。
その後は私、今いる高松交差点の配置に戻ったので最後の方はよくわかんなかったのね。
でも、病室に彼が入ってきたって事は、あそこに寝ている女の人がきっとお母さんなんだね。
ふむ。市民マラソン20kmコースの救護車も間もなく過ぎる頃だし、交通規制も一旦解除するよね。
彼の病室に行ってみよう。そうしよう
◇ ◇ ◇
高松交差点から赤十字病院までだいたい1.5kmくらいかな?
最近は距離も何となく分かってきました。すごいでしょう。これも「眺望の赤」の魔法の力ですよ。
ふらっと飛びながら、病室の窓の側までやってきました。病室は……1・2・3……6階ですね。
あ、小学生の彼が気付きました。「あー!」って感じで指を差しました。こらこら、人に指を差さない。
手を振ります。小学生が窓を開けました。「なんで助けたんだよー」とか言ってます。白色魔法少女の魔法は、そんなに長く続かなかったみたい。
病室に入って行きたかったけど、窓は全開できない構造のようで無理でした。「寒いから開けちゃダメだよ」そう言います。
ベッドで寝ている母親は軽く会釈をしたのでこちらも会釈。彼のおじいちゃんとおばあちゃんも来ていたらしく、おばあちゃんから、「中庭の方からだと入れますよ」というので、そちらからお邪魔することにしました。トイレも借りたいし。
中庭から病院の廊下へ。するするっと抜けちゃいます。病室の前でおじいちゃんが待っていてくれました。お邪魔しまーす。
中に入ると4人部屋でした。母親のベッドは窓際。母親とおじいちゃんおばあちゃんと小学生の彼がいます。いやあ賑やかですね。
小学生の彼は私にパンチしてきました。へへん。ウィッチ服を着ているから全然痛くないよ。
そしたら、みぞおちを狙ってくるわ、膝を攻撃してくるわ、狙っちゃいけないところを確実に狙ってきます。こいつ絶対悪ガキやな……などと思いましたが口には出しません。
本当にウィッチ服は優秀。この、何のために履いているか分からないくらいの薄い「魅惑の黒タイツ」でも、全く痛くないのですから。膝の攻撃も無効ですよ。
母親は数日前に入院して、病名は腸閉塞。腸が何らかの原因で詰まる病気で、手術をしたので問題ないそうです。
あとは機能が回復すればいいだけなので、普通にしていればあと数日で退院できるとか。なあんだ。よかった。
彼の執拗に攻撃してくるパンチのお返しに、医務室で行われた感動の場面をご家族に披露させて頂きました。
「この完走証を見せて、元気になって欲しい!」って。みんな大笑いしてました。
そしたら小学生の彼、本気になって怒ってるの。顔真っ赤にして。ぷぷぷ。
でも、お母さん、笑顔だったけれど、ちょっと涙が出てた。
いい家族だな。
「(和歌山本部から吉野赤1号)」
「赤1号です」
「(休憩だー。弁当あるぞー。本部まで戻って-)」
「了解」
それじゃあ私、おいとまします。
あ、彼に何かあげたいな。
本来ならウィッチステッカーとか喜ばれるんだろうけど、今、持ってないしな。そうだ。
私はウィッチバッグからみかんを取り出し、彼に差し出した。どうぞって。そしたら、
「いらない!」
って一蹴されました。
えーなんでー、おいしいよ。って言ったら、
「 だ っ て 俺 ん ち み か ん 農 家 だ も ん 。 み か ん な ん か 腐 る ほ ど あ る !」
すいませんすいませんすいませんすいません!
和歌山県内でみかんを配るのは注意しましょう。「みかんロンダリング」が通用しない可能性があります。
差し出したものを引っ込めるわけにも行かず、彼には半ば強引にみかんを持たせて逃げるように本部に戻ったのでした。
誰か、みかん、みかんはいりませんか~?
ゾーンウィッチエイド 魔法少女テクラの日記 かいちょう @kaicyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ゾーンウィッチエイド 魔法少女テクラの日記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます