7月21日 前日譚

 「あ、あづい……」


 どうしようもなく暑い。

 暑い上に不快。とにかく不快。

 どうしてかって言うと、汗が止まらないのだ。


 今日は7月21日。毎年サマーバケーションでは夏の海に出かけているが、このような暑さは経験がない。

  昨年は亜熱帯のドバイに行ったけど、その時とはまるっきり違う暑さだ。閉口する。

  そして今年はサマーバケーションはないらしい。

 何故かというと、今、私は成田空港で列車を待っているから。


◇ ◇ ◇


  本当なら関西空港に親戚の人が迎えに来て、今頃は車に乗って新居に向かっているところだろう。


――ど う し て こ う な っ た !


  理由はわかっている。私の不幸体質だ……


  今回は、ミュンヘンから北回りで関西空港に到着するはずだった。でも、飛行機のトラブルで急きょ成田空港に着陸してしまった。本来ならここで飛行機を乗り換えて、関西空港に向かうはずだった。しかし、成田に予備の飛行機がないらしく、関空へ行くにはここで1泊するようにと説明があった。

 えっとね。今、日本時間の朝8時だよ。翌日となると、丸1日ホテルで待機することになる。予備機が午前0時に出発しても、16時間ここで待ち合わせするの? 成田空港って日本でも大きな空港でしょ? なのに、予備機がないとか考えられないでしょ。

 でもね、私、不幸体質だから。

 こういうことはもう慣れてる。

  けど、他の乗客は黙っていない。しょうがないからここから高速鉄道に乗って関西に向かうってのはダメなのって交渉したの。

 そしたらね、日本の入国審査は関西空港でやらなきゃダメなので、どうしても予備機で関西空港まで行かなきゃダメなんだって。何それ拷問?

 乗客は不満たらたらで押し問答みたいに航空カウンターは騒然となったの。日本の警察官も来て、事態は収拾ようやく落ち着いたようにみえた。


 私はその時、押し問答になっているところに絶対に行かない。不幸体質のお陰で、絶対に私が被害を被ることになるから。少し離れていれば安全安全。


 私が空港カウンターから少し離れた壁際で待っていると、その横のドアから、大きな段ボールを乗せた台車が入ってきた。

 台車を押している職員らしき人に「ダイバートの飛行機に乗ってた人?」と聞かれたので、「そうです」と答えたら、「朝ごはんのサンドウィッチを空いているカウンターで配るから、航空チケットを持って向こうで並んでね」と言われた。


 ラッキーと思って、両親のチケットももらい、職員の人と台車を押しながらそのカウンターまで行きました。

 そこで気づけば良かったのです。


「 今 は カ ウ ン タ ー に 近 づ い て は な ら な い 」


 という事を……


◇ ◇ ◇


 台車がカウンターの内側に入り、サンドウィッチを配る準備が着々と進んでいます。わたしはそのカウンターの一番前に立っていました。


「それでは、今から朝食のサンドウィッチを配ります」


 係の人が大声で叫ぶ。当然みんなは列をなして並ぶ……はずだった。

 私は当然のごとく一番最初にゲットしました。私と両親の3人分。これでやっと落ち着くなあとほくほく顔だった。

 しかし、まだ怒りの収まらない人たちが、次々に配給場所のカウンターにやって来て、なんと、私はその中にもみくちゃにされたのです。

サンドウィッチをもらって帰っていく人と、受け取っていない人が錯綜して、怒鳴り声が聞こえました。

「こっちに寄こせ!(ドイツ語)」

「何をやっているんだ!どうやって並ぶんだ!(ドイツ語)」

「ちょっと押さないで!(日本語)」


 はい。ヤバイです。

 超~ヤバイです。

 わたし、もみくちゃにされています。

 これ、騒動の渦中にいませんかね?

 私がこんなところにいれば、絶対に不幸体質で被害を被るんじゃないですかね?

 さっきまでカウンターに近づかなかったのに、これ、不幸が私の方に寄ってきてるんじゃない?

 いや、カウンターに来たからダメだったのか?

 もう、悪い結果しか予想できない!


 その予想は見事に当たり、現場では受け取ったサンドウィッチを別の人が横取りするという最悪な状況になりました。略奪ですね。犯罪ですね。

 そんな状況の中、罵声が罵声を呼び、あたりが騒然となりました。

 当然のごとく、私は3人分のサンドウィッチを持っているので取られないか必死に抵抗しました。

 そのなかで、何か脇腹に痛みを覚えました。おそらく殴られたのでしょう。ひざをついて倒れてしまいました。


 これ、私の不幸体質の中でも上位に入るんじゃない?

 いや、でも、死ぬ寸前までいったことは何度かあるので、まだ軽い方?

 ああ、貰ったサンドウィッチどこかに行ってもうないや。

 本当に私の不幸体質、いい加減にしてよ……


 その後、何人もの人に踏みつけられ、気づいた時は、空港の医務室で処置を受けている最中でした。


 聞いた話によると、私が意識を失ったあと、盾を持って武装した警察官(機動隊と言うそうです)が出動して沈静化したそうです。

 その後、かわいい少女が負傷<私です していることが分かり、担架に乗せられていく光景をみて、暴動を起こした人も、空港関係者も冷静になったそうです。

 これが要因となって、結局、入国審査を成田で行ってもいいって事になって、事態は解決した、と。


 これでまた、私の不幸体質記録に新たな項目が追加されました。


●貨物列車に轢かれそうになる

●駅のホームから転落

●真冬の川に転落

●無人の運搬ロボットと衝突

●暴動に巻き込まれる

●国際テロ組織に誘拐される

……

●照明器具が落ちてきて血だらけ

●飛行機がダイバートする >>NEW

●暴動に巻き込まれる(4年ぶり2度目) >>NEW


 その後、私の両親は、成田空港からトランジットして中国の長慶に向かいました。

 実は、私だけがこれから日本に住むことになり、両親は中国で暮らすのです。こんなところでお別れになるとは思っても見ませんでした。


 そして、この成田空港から、目的地の和歌山県橋本市まで、私ひとりで旅することになるのです。


 Σ(゚Д゚) エ、マジデ?


 不安です。

 知らない国に来て、ここから鉄道に乗って向かえって……

 これ、何の罰ゲームですか?

 鉄道のチケットはもらいましたが、ここからどうしていいかわからない……分かるはずないやん!


 ああ、前途多難……です……

 私、ちゃんと辿り着けるんでしょうか……


----

こちらの作品は

ゾーンウィッチエイド

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330648542556298

のスピンオフ作品です。


ぜひ本編もよろしくお願いします

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