第6話 文字愛最高!

 亜美は今も言葉をあやつるのが苦手だ。

 それでも中学の手紙から今まで文章を書き続け、文字数指定にひるまない位にはなった。

 苦手なものを続けられたのは、言語との相性が悪くとも文字が好きだからだと亜美は思う。自分の無残な文でも、それを構成する文字は大好きだから忌避きひせずに挑めた。

 点字をふるえながら書いた経験からそう強く思う。一年前、失読に似た症状が出た時も読書を諦めなかったのは好きだからだ。


 無理をして苦手を克服せずとも、得意を伸ばして生きられるなら、その方が人生は平らかかもしれない。亜美も手先の器用さや継続力を活かせる職人になりたかった。

 しかし、亜美が職人の道をひらけず言語を必要としたように、苦手の緩和かんわを求められる人もいるだろう。そういう人に亜美はささやきたい。


「バフ魔法があればアプローチし易くなるかもしれないよ」


 亜美の弱点を補うバフは文字だったが、言語ならば音声もある。そして、音声は人の数以上に多彩だ。美しい声ならば、あるいはメトロノームのように正確な進行ならば、相性が少しアップするかもしれない。

 手段がバフ魔法なこともある。演奏家も全ての楽器を同じように得意とはしないだろう。苦手なデバイスは避け、アナログから音声入力まで試せる選択肢が今はある。

 そこに少しの「好き」が見付かれば。


 自分にバフ効果のある魔法はきっと誰の苦手にもある。チートはそんな風に最初は効果の見えないバフ魔法が育った先の姿、と亜美は信じたい。

 多くの作品でチート能力は当初、有用さが見過ごされているように。


 だから、亜美は叫ぶ。

 文字愛最高!

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もじMOJI文字МОДЗИして来ました 小余綾香 @koyurugi

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