第5話 文字愛サイコ
運と取引により進学を許された大学時代、亜美は水を得た魚だった。
必修を振り替えてまでロシア語を第二外国語に選んだ為、不思議文字を
サンスクリット、アラビア語、ミャンマー語、どんな字を見ていても「何、それ?」で済む大学は素晴らしい。
この
それは点字だった。
今はレゴで点字を覚える等、
しかし、亜美の大学では点字サークルがかなりの規模で活動していたのである。喜んで部室へ行き、体験させてもらった。
そして、打ち上がった紙を外して見て、点字の美しさに亜美は
白地に白の星は
当時は名称がなかったが、亜美は
しかし、何故か
点字サークルに所属したかった亜美にはまた家の方針が立ちはだかる。
課外活動は親の了承なしにできなかった。門限が基本17時なのである。中高の部活動の退校時刻が18時、大学の五限の終了時刻が17時50分でも千秋は17時を過ぎて連絡なく亜美が帰ったなら、怒る正当な理由があると思っていたようだ。それも明確な門限はなく、彼女の気分により運用される為、安全圏がない。都度、千秋の承諾が要る。
そして、「普通」に憧れた千秋の家に障碍の話を持ち込むのはタブーに近い。実際、チラシの束を見ながら、点字サークルなんてある、と試しに
サークルから自宅に勧誘電話のある時代だった為、亜美は事情を話し、入会しない、電話をしないで欲しい、と部室へ謝罪に行く。
すると、了解した先輩が点字の五十音一覧のコピーを亜美にくれた。
点字用具はないが、ペンで点字の仮名を書いて打ち方を覚えた。
ペンで書いた点は
ある時、亜美は入会したサークルの部屋に誰もいない時、それをしていて突然、先輩が入って来る。
彼は悲鳴を上げた。勢いよく扉を開けたら、震えて
「怖ぇよ! 『エクソシスト』かよっ!」
亜美は
集合体恐怖症の言葉がない時代。点々に震えているのだ、という説明はなかなか通じず、ましてや自分でそれを書いているのだから他人には理解し難い。いや、亜美自身にも理解し難い行為ではあった。
一件を聞いた臨床心理学を専攻する先輩にゼミの教授と話してみるよう勧められる。
その様な経緯もあり、社会人になり点字用具を購入した亜美は様々な意味で嬉しかった。
経済力を得て本も買えるようになると、亜美は興味ある言語のテキストや辞書を買い始める。そして、その複写等を一人暮らしの部屋のあちこちに
しかし、客はそれを見て凍ることを亜美は知った。
「彼女の家、怪しい魔術部屋みたいなんだって」
こんな噂も生まれる。
どうやら他人は文字に快感を覚えず、自分は文字オタクなのだと明確に自覚したのはこの時だ。幼い時から、本の虫、読書好き、と言われていたので、それ以上は考えなかった。
亜美は
しかし、個人サイトを運営して数年。亜美はインターネットで再び得た二次元系オタク友とオフで会う等、交流を深め、二十代最後の記念にとうとうコスプレしてみることにした。すると、来客の文字への反応や
亜美の文字愛を最終的に解き放ったのはコスプレである。
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