~Overlap Each Other~
維 黎
比翼の鳥
「ねぇ、ママ。パパとはどうしてけっこんしたの?」
食事を終えて洗い物をしている私のスカートの裾を握って、娘がそう訊ねてくる。
嗚呼、嗚呼。
娘のその言葉にふわりと心が跳ねる。
懐かしさや嬉しさが混ざった感慨深い思い。
不意にじわりと滲む涙。
(嗚呼、ママ。私も娘に聞かれたよ。あの人との馴れ初めを。子供の頃、私がママに訊ねたように)
孫の顔を見ることなく亡くなった母へ、私は
期待にキラキラとした瞳を向けられ、私は滲む涙を拭って娘と視線を合わせた。伝えるために。これは一種の口伝だ。
「パパとどうして結婚したか聞きたい?」
「うん! ききたーい!」
「んとね。どうしてパパと結婚したかっていうと、鳥さんがパパと会わせてくれたからなの」
「とりさん?」
「そう鳥さん。ママのママも、ママのママのママもそうなの。み~んなパパとは鳥さんが会わせてくれたのよ。だからあなたにもきっと――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
休み時間の教室で。
不意に視線を感じて窓の外を見る。
中庭に面した2階の教室で外から視線を感じても異常なことでもない。なぜかっていうと、大きなカシノキが植えられているから。そして視線の主は人じゃないから。人だと大問題ではあるけれど。
けど、まぁ。カラスからじっと視線を向けられるっていうのは異常じゃないのかと問われれば返答に困る。
わたしの名前は
苗字にカラスを冠するからか、それともカラスに縁があるから冠したのかわからないけど、我が一族――っていうほど大げさな家系じゃないけど――は何かとカラスと
《鴉越口伝》
ママから聞いた
要は白い羽をしたカラスが現れて彼氏を紹介してくれるらしい。マッチングアプリならぬ、マッチングカラスというわけ。ちなみに外のカラスは全身真っ黒。
「おー、おー。相変わらずモテモテですなぁ、鴉越さんは。熱い視線を向けられて羨ましい限りです」
外に
「――」
とりあえず無視。
「しかし何ですな。今日のカラスはいつもよりイケメン――イケトリですな。立派な体躯。健康そうな光沢のある黒い羽毛。鋭い目つき。鋭利なくちばし。うんうん。かなりの男前だ」
無視してもめげないのはの
ことあるごとにわたしの周りにカラスがいるせいか、若干他の同級生から引かれていて、わたしに話しかけてくる人なんて男女を問わずいないのだけれど。
「でも気をつけろよ、鴉越。ああいういかにもイケトリって奴は甘い声で女を誘っておいて、飽きたらポイッてするに決まってるからな」
「――イケトリって何よ……って、アンタ何持ってんの?」
「何って羽だけど?」
「いや、そりゃ見ればわかるわよ。何で羽なんて持ってんのかってこと」
無視し続けているとずっと話かけてくるので休み時間が潰れてしまう。だから仕方なく鳩山の方へと振り向く。それ以外には他意はない。あくまで仕方なくなんだから。
「今度の演劇の発表会で使う小道具さ。手作りだぜ? 良く出来てるだろ、ほら」
演劇部の副部長をやっている鳩山は両手で持った白い羽をファサファサと振った後、それを背中に背負ってニカッと笑う。
不覚にもその笑顔を見てドキッとした。
いやいや、違う違う。何かの気の迷いだ。
「へ、へぇ。よ、良く出来てるじゃない。どんなお題目なの?」
「よくぞ聞いてくれましたッ! 今回は俺が脚本を書いたんだ! ズバリ! 『転生したら堕天使エロ校生だった件』だッ!」
「どこで発表する気だッ! そのお題目ッ!!」
返せっ! さっきのトキメキを!!
何が『堕天使エロ校生』だ! 転生せずに戻ってくるなッ!
私の心のツッコミが入ると同時に休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「おっと。授業が始まっちまう。んじゃ、鴉越。またな」
鳩山はそう言うと自分の席へと戻っていく。
いや、アンタ。その羽背負ったまま次の授業受ける気なの?
そう言おうと口を開きかけたところで鳩山がくるりと振り向いてこう言ってきた。
「――鴉越、お前さ。ぶすっとしてるよか、さっきみたいに話をしてる方がずっといい顔してるぜ?」
「!?」
またしても不意打ちの笑顔にドキリとする。
あぁ、もう!
ママッ! ご先祖さまッ! 背に白き二対の羽もつ神鳥って白い羽をしたカラスのことよね? 決して白い羽を背負った堕天使エロ校生の鳩じゃないわよね!? ねッ? ねッ?
――了――
~Overlap Each Other~ 維 黎 @yuirei
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