第4話 Ori-on
地球標準時22:59。
何度放ったか分からないArt-em-isの光波が遂に遮られることなくLet-oの体を
巨体を軋ませLet-oの手は振り回される。もがき苦しむように。
「ハァ、ハァ……ざまぁみろってんだ!」
(……母様も苦しい。私が苦しいように)
「……まだ動くの? でも……」
しかし、攻撃を通した『三人』もまた疲労困憊となっていた。ノームは気力と体力の消耗が限界に達し、Art-em-isの動きも鈍くなり、スレアの乗るApol-loもまたエネルギーが枯渇寸前である。それでも『三人』は前を向いた。
「……あと、どれだけ動けるんだ?」
(……光を放たなければ少し長く動ける。放つなら一度が限度)
「なら、一撃に賭けるか……?」
ノームは考える。これ以上は自分たちが保てない。しかし、あの怪物を倒せるほどの一撃となると、Art-em-isの力だけでは足りない気がした。
悩むノームに『彼女』が提案する。
(……あの子の力に私の力を乗せるのなら、きっと母様をも穿ける)
隣を見た。Art-em-isと並び立つApol-loはライフルを構えながらも次の一撃を放てずにいる。
「力を乗せるったって、どうするんだよ?」
(後ろから支えてあげればいい。それだけ)
「適当だなぁ。声もかけられねえのに」
(……あの子はきっと分かってくれる)
『あの子』とは、Apol-loのことなのか、それともスレアのことなのか、両方なのか。
「……まあいいか。とにかくやるだけやってやるぜ」
ノームはニヤリと笑いArt-em-isをApol-loの背後につけると、その腕を支えるように自らの腕を重ねた。
Apol-loのコクピットでArt-em-isの行動に眉をひそめていたスレアだったが、徐々にエネルギーがチャージされていくのを見て、その意図を理解する。
「これで決めろ、ってことか……」
スレアも小さく頷くと、前を見つめる。もがき苦しむLet-oがこちらに迫って来ていた。
エネルギーがチャージを完了するまで、
「……いつか会うことがあるなら言ってやらなきゃ。女の子を盾にするな、ってね」
軽口を叩いた。Let-oが近づいてくる。チャージはまだ完了していないが慌てない。
一瞬だけ後ろを見た。女性を模した美しい人機がApol-loを支えている。
思わず微笑んだ。
「そっか、今は私が男役じゃない……うまく出来てるのね」
チャージ完了を告げるアラームが鳴るそのタイミングこそ最適な距離だった。スレアは迷うことなくリミッターを解除し、最大出力で重粒子ライフルを放つ。余波で銃身が溶解してしまっているが、そんなことはどうでもいいとばかりに前を見続ける。
放たれた光線は真っ直ぐにLet-oを穿き、体を撃ち抜かれたLet-oの体はひび割れ光を放ち爆発した。
ノームもそれを見ていたものの、歓声を上げるよりも先に、Art-em-isとApol-loを襲う衝撃に対処することを求められ慌てる。
「うおっ! いきなり爆発すんじゃねえよ!」
(このままでは、危険)
「危険?」
(落ちる)
その言葉に後ろを見るノーム。戦いの中でいつの間にか地球を背にする位置まで移動してしまっていた。
スレアもまたそれに気付いている。
「……Aegisが動くと良いんだけど……」
両肩の対光熱防護装置を作動させた。Apol-lo用の装備である上に、先程の一撃でほぼエネルギーを使い切ってしまっているため、二機をカバー出来るかどうかは怪しいがやらないよりマシである。
「私はやるだけやったわよ……後はお願いね……ノー……ム……」
その言葉を最後にスレアは意識を手放した。二機は地球の引力圏に引き込まれていく。
「畜生、もうどうにもならねえのかよ!」
Art-em-isの中でノームが絶叫した。何とかApol-loと共に地球から離脱しようと試みたのだが、もう重ねていた腕を離すことも出来ない程に消耗し切っていて、結局落ちていくことしか出来なかった。
次第に視界が赤く染まり、凄まじいまでの圧力がノームの全身に襲いかかる。
「うあああああっ!」
ノームの意識は激痛に飲み込まれ消えていった。
(……Ori-on?!)
疲れ切り、朦朧としていた『彼女』の意識は彼の悲鳴で覚醒する。
(……貴方を、貴方達をきっと守る)
意識を体全体に巡らせ、残されたすべての力を『弟』の体に送る。『弟』の体から発せられている保護膜が強まり二人の体を優しく包む。
そうしている間に『彼女』もまた消えようとしていた。
(……さよならOri-on……楽しかった)
彼を意識から離脱させる。体から自分が消えていくのが分かるがそれで満足だった。
眼下を見る。広がる景色が彼女の生きた証。
(……私は星に還る……)
微笑みを浮かべて消えた。
地球標準時00:01。
ノームはぼろぼろになったコクピットの中で目を覚ます。
最初に確かめたのは自分の体。重たいが問題なく動く。体は一つ。自分の動きに合わせて人機が動いたりしない。
ぼんやりとした意識のままハッチをこじ開けて外に出ると、妙に塩気のある風を感じる。
空を見上げると、暗い空にぽっかりと丸いものが浮かんでいる。
何だろう、と思っていると横から声が飛んでくる。
「今夜は月が綺麗ね」
墜落したと思しき人機の上で、一人の少女が夜風を楽しんでいる。初めて会ってから一日も経っていない筈なのに、何故か懐かしく思えた。
「地球へようこそ」
捧げられしArtemis 緋那真意 @firry
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