ショートショート・愛の形

軽盲 試奏

愛の形

 眠る前、毎日のように考えてしまう。この現実にはどこまで信憑性があって、自分は何者なのか。考えると止まらなくなる。今この瞬間、作られた記憶を埋め込まれて誕生しただけの存在かもしれないし、眠って意識が途切れてしまったが最後、自分の記憶を持った自分とは違う何かが次の日には自分となり替わっているかもしれない。自分が親交を深めてきた人々は本当は感情も何もない機械かもしれない。すべての生物は表面上思考している様に見えるだけで、僕が知らない大きな意思に操作されて適当なことを言っている人形かもしれない。この世界は三次元で定義されているそうだから高次の世界があって名前も知らない種族から覗き込まれているかもしれない。この世界がこの世界"だけ"なんて証拠はないし世界がここに存在したという情報さえ宇宙が終焉したなら消えてしまう。この宇宙から生まれたものは宇宙の外に観測者でもいない限りは宇宙の終焉と共に無かったことになる。ただ、もし宇宙の外に観測者なんてもんがいたらこの世界で定義されているものが曖昧になる、そこは考察不可のこの世界とは全く異なった世界、何が通常かすらわからない。僕たちの存在など泡沫のひと時に過ぎない宇宙というビッグスケールすらも大したものと思わなかったりする意思が、感情など持たない莫大な機械の様な何かが、果たして無機物の様な姿をした宇宙という概形が、考えた瞬間顕現してしまうことに、言葉にできない程の恐怖を覚えるのだ。この宇宙を大したモノと考えなければその中でも矮小な住民でしかない自分が想像できるものなんて存在して普通である、人間の知では全く見当もつかないような、認識すらできない何かがあるのではないか。そしてそこに一生自分はたどり着けず、何もわからないまま小さな宇宙で死ぬのだ。

 そんな残酷な世界で、矮小な僕たちを慰めてくれるのが、愛だと僕は考えている。

「難しいもんだな~愛っていうのは」

 最強の殺し屋が殺せない少女に恋をする話、近未来で起こる全く異なる世界で生きてきた二人の恋、未来を誓い合ったはずが片方を失ってやっと愛を確かめる話。

 つらつらと並べられた短編を読みながら、僕はいつものように文章を考える。真実の愛、真に迫った愛、それは当事者からしたら感じ取りやすいのかもしれない。だが、それを客観的に見る人からしたら……?箱庭の外から、なんて。それには分かりやすい形が必要だ。愛の形。それを表現できたなら、きっとみんなに同じように僕が考える「愛」が伝わるのかもしれない。そうして今日もまた僕は、繰り返し「難しいもんだな~~~」と間延びしながら、背伸びして、真剣な愛を語ろうとするのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショート・愛の形 軽盲 試奏 @siso-keimo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ