第054話 ピッチピチ、旅立ち

 自宅に帰宅後。


「やっぱり止まってたか……」

「んだな……」


 まずネットが止まったことでおおよその検討はついていたが、ガス、水道が止まっていたことを確認した。 


 しかし、俺達はすでに準備万端だったので、特に何も問題なく、風呂に入り、汚れを落とすことが出来たので問題なしだ。


 来るべき時が来たって感じだな。


「悪いが、今日の所はこれを使ってくれ」

「了解」

「うん、仕方ない」


 男ばかりで今まで気づかなかったけど、二人は女の子。必要な物が男以上に沢山あるはずだった。しかし、今日は疲れ果ててしまったので、二人には俺の予備のジャージで過ごしてもらうことにした。


 二人に色々な説明をした後、疲労困憊だったためご飯も食べずに眠りについた。


 次の日は主に女子に必要な物資の調達に街に向かった。


 優奈と加奈がいないと女子に必要な物は何も分からないので、二人も一緒に連れて行った。


 あの第二波のせいで街にいた人間の多くが死んでいた。彼女たちが殺されなかったのは奇跡と言ってもいいだろう。


 第二波のシャドウは食べるよりも殺して回っていたらしく、消耗品を取りに行った際には、辺りに亡骸が沢山残っていた。


「うっ……」

「うぷっ……」


 第一波の時はあまり見ることもなかったけど、今は明るいし、辺りを警戒しながら進まなければならないので否が応でも目に着いてしまい、俺達は吐き気を催しながら必要な物資を集めることになった。


 その日はできるだけシャドウと戦いたくなかったので、エンジュに先導してもらって居なさそうな方向に進んでいったら、一度もの遭遇することなく、物資を調達して家に帰り着くことが出来た。


 その際、生存者に出会うこともなかった。


 やっぱり俺とエンジュの運が組み合わさるとヤバいチートだと実感する。今考えると、エンジュと行動していたらあの巨人は別の所に現れていたんじゃないないかと思わずにはいられない。


 あんなに苦労せずに済んだのに、という気持ちが沸いたけど、あれだけ苦労したからこそ得られたものもあったので、これ以上言っても仕方がないことだろう。


 物資の調達を終えた後、クラフターのランクが上がったことで全員の装備を俺とエンジュの幸運パワーで全て一発で+十まで強化した。


 そしてランクが上がったクラフターのスキルを使用して色々な道具を作り終えた頃、二人が俺に切り出した。


「よう、もうここも心配なさそうだから俺たちも明日出発するぞ」

「早く行かないと心配だからね」


 二人は前々から言っていたように家族を助けにこれから旅立つ。


「そっか。本当についていかなくて大丈夫か?」

「ああ、お前のジョブの力で俺たちも大分良い装備になってるからな。余程のことがない限りは大丈夫だ」

「そうだね。第二波のシャドウの攻撃さえ全く通さないんだから、顔さえ守っておけばほとんど問題ないからね。チートもいいところだよ」


 俺は出来る限り修二と聡に装備を強化したが、それでも心配だった。あの巨人みたいなのが出てくるかもしれないからな。


 しかし、二人の顔にはお前にはお前の役目があるだろという顔をしている。


 確かに俺にはこの神社を守るっていう使命があるし、優奈と加奈に対する責任もある。だから、現状ここから離れるのは難しい。


 俺たちは全員そのことを分かっていた。


「分かった。それじゃあ、今日は盛大に二人の門出を祝おう!!」


 決意の固い二人にしてやれること。それは心置きなく両親を探しに行けるように盛大に送り出してやることだけだ。


「いいなそれ!!」

「楽しみだね」

「いいわね」

「うん、旅立ちは笑顔のほうが良い」

「にっ」


 同居人たちは皆お互いに顔を見合わせて賛成に同意する。その日、秘蔵の肉や魚などの生食品を料理して豪勢な料理を作って皆に振る舞った。


 酒なんかなかったけど、大いに盛り上がって気付いたら意識を失っていた。


「そういえば、すっかり忘れていたことがある」

「おいおい、これから出発って時になんだよ」


 次の日、準備を終えて二人を見送りの際に俺は思い出したことがあった。


「いや、俺もそう思ったんだけど二人にも関係あるし、居るうちにと思ってな」

「それって?」

「ああ。あのフルフルって化け物から得ることができた宝箱のことだ」

「そういえばそんなものもあったね。すっかり忘れてたよ」

「そうだな。正直なくても何も困らないからな現状」


 二人とも俺と同様すっかり忘れていたらしい。それにあまり興味もなさそうだ。


 確かに普通の宝箱なら分かるけど、今度は虹箱っていうレアリティが高い宝箱かつあのボスっぽい奴から手に入れたものだ。


 ものすごいものが入っている可能性は否定できない。


「おいおい、虹箱だぞ?とんでもなくいいものがはいってるかもしれないじゃないか」

「それも確かに一理あるけど」

「まぁな」


 俺の言葉で少しは興味を持ってくれたらしく、二人ともいったん出発をするのを止めて完全に俺の方に向き直った。


「だから出発は中身を見てからにしてくれよ」

「わかった」

「了解」


 二人の許可を得た俺は宝箱を皆の前に置く。


 さぞかし素晴らしいアイテムが入っているに違いない。


「いくぞ?」

「おう」

「頼むよ」

「にっ」


 俺たちは宝箱をゆっくりと開けた。


「え?」

「あ?」

「はぁ?」

「ん?」

「にぃ?」


 中身を見た五人が各々反応を示す。しかし、どいつもこいつも拍子抜けといった顔をしていた。


「おいおい、このボディスーツ五点セットの価値が分からないのか!?」


 俺には五人の反応が信じられない。


 そう、宝箱には二人にプレゼントした以上に素晴らしい品質のボディスーツが入っていた。それが見ただけで分かる。


 それだというのにこいつらは!!


「あ、僕は行くね」

「俺もだ。じゃあな」

「おい、ちょっと待てお前ら!!」


 俺が何かを言う前に聡と修二は突然挨拶をして神社の入り口の階段を下りて行ってしまった。


 少し追いかけたが、二人が余りにも必死に逃げ去ったのでそれ以上は追わなかった。


「全く仕方のない奴らだ……必ず無事に帰って来いよ……」


 俺は呆れ笑いをした後で小さく呟き、二人の生存を祈ってその背を見送った。


「さてと、今日はどうするかな……」


 現状可能な限りの快適な生活は実現できている。これからやるべきことは優奈と加奈のレベリングや家の改修、農業など色々ある。


 しかし、少しくらいのんびりするのも悪くないか。


「ど、どうしたんだ?」


 二人の背を見ながら暫く物思いにふけっていると、両腕に幸せな感触が襲ってきた。その正体は優奈と加奈の二人の母性の塊の柔らかさだ。


 つまり二人が俺の腕を取って抱き寄せているということ。突然抱き着いてきた二人にどぎまぎしながらもその理由を尋ねた。


「約束したでしょ?」

「ん? 鍛えるって話か?」


 加奈の言葉に俺は首を傾げた。


「違うわよ」

「それ以外に何かした覚えは……」


 優奈が否定するが、それ以外に何も約束した覚えがない。


「言ったでしょ? 生きて戻った時はもっと凄い事し・て・あ・げ・るって」

「え、いや、それって冗談だよな?」


 しかし、加奈に耳元で吹きかけるように呟かれ、約束を思い出した。顔が火を付いたように熱を持つ。


 でもあれは嘘も方便というか、頑張るための嘘みたいなものだったはずだ。


「そ、そんなわけないでしょ。行くわよ」


 しかし、それは優奈によって否定されてしまった。

 

 まさか本気だと思わなかった……。


 優奈と加奈が俺を引っ張って家に向かって歩いていく。


「い、行くってまさか……」

「決まってるでしょ。ふ、布団よ」


 俺はどこに連れていかれるのかと思ったら、ま、まさかの展開に。


「い、いやいや、俺は二人とそういう関係じゃないし。今はまだ朝っぱらだし、それに二股なんて――」

「いいから黙ってついてくる」

「あ、はい」


 理想に近い二人に不誠実なことはしたくないと思ったので、二人を宥めようと色々言い訳をしながら行くのを躊躇っていたら、加奈が俺の顔をグイッと自分の方に向け、威圧感のある瞳に睨らむので俺は従う他なくなった。


 二人にドナドナされて俺は家の中に入る。エンジュは空気を読んだのか、自分用の寝床がある部屋に離れていった。


「あーっ!!」


 その日、境内に俺の声が響き渡った。


 前略、爺ちゃん、婆ちゃん、父さん、母さん、俺は今日大人の階段を上りました!!





「んあ?」


 俺が目を覚ますと、辺りはすっかり真っ暗になっていた。俺の両隣には二人の美少女が寝ていて、さっきまでの出来事が夢ではないことを実感させる。


「ちょっとトイレ……」


 催したために起きた俺はトイレに向かった。


―ガラガラガラ


「こっちも夢じゃなかったか……」


 トイレの引き戸を開けた先には、以前と同様に森が広がっているのであった。




■■■


いつもお読みいただき誠にありがとうございます。

これにてロッコマンは完結です。

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ロッコマン〜裏切られて囮にされたモブ、実はステータスが複数覚醒してたので、化け物が溢れる現実も異世界もイージーモード〜 ミポリオン @miporion

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