第053話 帰ろう

「無事だったのね……」

「生きててよかった……あの化け物は?」


 二人は俺の顔を見るなりホッとした気持ちと嬉しい気持ちが同居した表情を浮かべた


「ああ、なんとかね。あいつはついさっき倒した。ギリギリだったけどな。それよりも二人はどうしてここに?」


 俺は俺が立ち上がって二人の方を向くと、彼女達がここにいる理由が分からずに尋ねる。


「えっと、その……心配で……」

「学校から皆をある程度逃がしたら戻ってきた」


 優奈はモジモジしながら、加奈は平然とした態度で二人で一つの文章を作るように答えた。


「わざわざ俺を心配してきてくれたのか、ありがとう。嬉しいよ」


 そんな二人の気持ちが嬉しかったので俺は二人に微笑みかける。


「「~~!?」」


 そしたら、何故か二人は固まった。


「どうかしたのか?」

「……」

「ううん、なんでもない」

「それならいいけど」


 俺は何かあったのかと思って尋ねるけど、加奈が首を振ったので、それ以上気にしないことにした。


「はぁ~、つっかれた。あの化け物は倒した。ロッコも俺たちも生きてるし、女たちも生きてる。結果皆生きててハッピーエンド。そういうことだよな!!」


 修二が大の字に寝転がって話し始める。


「にぃ!!」


 その時、僕もそう思う、と俺の胸にしがみついていたエンジュも元気に鳴いた。


「確かに修二とエンジュの言う通りだな」

「そうね」


 俺が二人の言葉に同意して呟くと優奈も同じように頷き、加奈と聡もそれに続いた。


「ありがとう、小太郎。みんな生きてるのは小太郎のおかげ」


 続いて加奈が俺に礼を言う。


「気にするな。俺が出来ることをしただけだ」

「ふふ……あれだけのことをしたのに、自慢の一つもしないなんて変なやつね」

「ん。小太郎は謙虚」


 俺は少し照れくさくなって肩を竦めると、二人はそんな俺の態度にクスクスと笑い声を上げる。


「そういうわけじゃないがな。あいつを倒せたのは俺の力だけじゃない。修二と聡、そしてエンジュがいたからだ。俺はスキルでなんとかあいつに止めを刺せただけだ」


 ただ、あれはどう考えても俺だけで討伐できたわけじゃない。聡と修二が来てくれなければ確実に死んでいたし、エンジュの幸運の力がなければ強化は成功しなかったはずだ。


 皆の力があったからこそだ。


「どう考えてもてめぇの手柄だろロッコ。お前が居なかったら誰も彼も死んでたわ」

「そうだよ、君は甘んじて称賛を受けるべきだよ」

「はぁ~、分かったよ。兎に角皆無事でよかった。それよりもこれからどうするかだ」


 皆が俺を捲し立ててくるので、話題を変えてこれからのことを話す。


 俺としては正直帰って寝たい。もう精神的にボロボロだ。体は治っても体力や精神的な苦痛までは回復してくれない。


「そうだね。僕はへとへとだから帰って休みたいかな」

「俺もだ。傷はポーションで治せても体力まで戻らないからな」

「にぃ……」

「確かに。俺達は家に帰るとして二人はどうする?」


 聡と修二も同じ状態らしく、エンジュも眠そうだ。俺達は帰ることになりそうだが、優奈と加奈は一体どうするつもりなのだろうか。


「約束忘れたの?」


 俺の言葉に加奈がムッとした表情で俺に尋ねる。


「なんだっけ?」

「酷い。同棲するって話」


 俺が腕を組んで首を傾げたら、思いがけない言葉が出てきた。


「「「はぁぁああああああ!?」」」


 俺達は三人で驚きの声を上げる。


「おいおい、ロッコ、こんな状況の中女の口説いてたのか!?」

「そうだよ。まさかそんなことするなんて」

「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。俺はそんな約束した覚えは――」


 俺が一番何を言ってるのか分からないのに二人に責め立てられたが、全く約束を思い出せない。


「私達の願いを叶えてくれるって言って、その後、一緒に住んで鍛えることに決まったはず」

「あったわ……」


 俺が「覚えがない」という前に加奈がかぶせるように説明してきて、俺は約束を思い出し、最後の言葉を変えた。


 確かに一緒に住んで鍛えることになったんだった。


「でも、同棲って言葉は紛らわしいだろ!!」

「ん?一緒に住んだら同棲じゃないの?」

「違わないけど、ちがーう!!」


 俺が抗議するように加奈に行ったら、おかしなことでも言ったと言わんばかりに首を傾ける加奈。


 俺はその無邪気な表情に否定したいけどできないジレンマで叫んだ。


「まぁまぁ、俺達もこれから旅に出るところだったから、ちょうどいいじゃねぇか」

「そうそう。僕達がいなくて君一人だと心配だったけど、二人がいるならもう大丈夫だね」

「お前たちまで!!」


 聡と修二が俺の肩に腕を回し、ニヤニヤとからかうように言う。


「兎に角私達が小太郎と一緒に行くのは決定事項」

「はいはい……分かったよ……」


 こうして優奈と加奈も俺んちにくることなった。帰路で二人は聡と修二、そしてエンジュとの挨拶を済ませ、俺の話題で楽し気に話している。


「まぁ……こいつらの笑顔を守れたからいいとするか……」


 俺を皆の背中を微笑ましそうに見ながらぼんやりと呟き、空を見上げて一人呟く。


 色々あったけど、今日も無事に乗り切れた。暫くバトルはこりごりだ……。


「おい、何してんだよロッコ」

「六道君」

「にぃ」

「こ、小太郎」

「小太郎」


 俺がぼんやりしていたら、どうやら立ち止まっていたらしく、五人が振り返って俺を呼ぶ。


「あぁ。悪い悪い」


 俺は慌てて皆に駆け寄って家を目指した。

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