【三題噺】火山を避け

【三題噺:火山・隠れる・暖炉】


 轟轟と吹き付ける雹混じりの風のせいか、梁から吊り下げられた電球が点滅していた。部屋の中央に据え付けられた暖炉に放り込まれた角材はまだ原型を留めている。まだ暫くは屋外に出ずとも持ちそうであった。

 ほう、と部屋内に転がり込んだ青年--荒田は息を吐いた。

「飲めるかい?」

 横から差し出されたマグカップを手に取ると、少し温い。中にはココアが入っていた。荒田がそちらに目を向ければ、熊のような印象の髭面の男がいた。清潔そうな白い開襟シャツを着ており、胸元には「第3避難小屋」の文字が少し粗雑な刺繍で刻まれていた。

「助かる」

「何、良いってことよ。ここはそういう役割の場所だ」

「あんたは?」

「見ての通り、ここの管理人だよ。坂戸だ。宜しく」

「荒田だ。世話になる」

「他にいるものはあるかい?」

「休憩できる場所があれば十分だ。この天気が落ち着いたら出ていく」

「そうかい。そいつは何よりだ」

「あんたは、ここで長いことやっているのか?」

「そうだな。もう20年になる。今日の客は貴方だけだ」

 荒田は妙な言い方をする御仁だとは思ったが、すぐに思い直した。外から転がり込む際にはろくに見ていなかったが、ここは避難小屋であり、通常の宿泊を行う山小屋ではないのだ。

「そうかい。ちなみに、今日のような天気の急変はよくあるのか?」

「ここは標高も高い活火山だ。天候不順なんざしょっちょうだし、山に隠れる人も多い」

「隠れる?」

「亡くなったってことさ」

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【三題噺】①侍従、蓮、厨房 塩野いづき @amiz

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