無人島に

ハヤシダノリカズ

持って行くなら、何?

「無人島に持って行くなら何持って行く?」

「えらい使い古されたネタやんけ。何?『無人島に行くのに一つだけ持って行っていいとしたら、何を持って行くか』っていうアレを今からやるん?」

「まぁ、そうやねんけど。一つだけとちゃうねん。お互いに、無人島に持って行くべき重要やったり便利やったりするもんをいくつも言うていくねん」

「あぁ。なるほどね。自分にとって重要度の高い必須アイテムから順番に沢山言うていく事で、無人島サバイバルのリアルを考えていこ、みたいな事か」

「そうそう。一つだけとかやったら、そんなん醤油一択になるやん。そんなん、おもんないし。ぎょうさん言い合っていこうや」

「え、え?醤油なん?オマエ一つだけやったら絶対醤油なん?」

「そらそやろ。無人島って、島やで。魚や貝は取り放題やねんから、醤油持って行かへんかったらどうするよ。流石に醤油を無人島で一から作るのはムリやで」

「まぁ、そうかも知れへんけども。ほんならワサビも必須やんけ。ワサビ無しで刺身食うんけ?」

「ワサビくらい、山入って沢を見つけたら生えてるやろ」

「おい、無人島ナメんな。そんな都合のいい無人島はないやろ」

「最悪、刺身やのうて、煮たり焼いたりする時でも醤油はどの道いるやろ。それやったら、ワサビは必須やないしな」

「んー。まぁな。それやったら、無人島に持って行く第一候補は醤油やねんな?」

「いや、スコップ」

「え?スコップ? え、え?スコップ? 先ずは土を掘りたいの?」

「スコップ言うても、普通のヤツとちゃうで。自衛隊なんかで使われてる万能スコップや。側面にノコギリの刃みたいなギザギザがついてるから木ぃも切れるし、先っちょの角度を変えてくわみたいにも出来るし、当然、鉄で出来てるスコップ部分はフライパン代わりにもなるねん」

「案外ええな、スコップ。でも、今回は一つやなくて色々と持って行けるっていう話やろ?そんな十得ナイフみたいなスコップな必要ってある?」

「ま、ま、ええやん。色々と持って無人島に行くとしても、荷物は少ない方がええやろ?」

「まぁ、そうかも知れへんけども」

「ほんなら、オマエは何持って行くねん。先ずは一つ目」

「せやなぁ、ありきたりかも知れへんけど、サバイバルナイフか、ライター、マッチ、この辺りやろな」

「ま、そんなところやろな。って、三つも言うてしもてるやん」

「ゴメンゴメン。ほんまゴメン。でも、この辺はどれが上でも下でもないやん。ライターかマッチはどっちかでいいにしても、サバイバルナイフと火ぃは必須やろ」

「まぁ、ええわ。ほんなら、次はオレの番やな。オレの二つ目はロープや」

「ロープ? なんかピンとこぉへんけど、ロープなんて何に使うねん」

「行くのは無人島やで?周りは全部海や。そしたら、拠点は海岸に近いトコになるわな」

「せやな。とりあえず、一旦は海岸の近くで暮らす事になるんやろね。ほんで、ロープってどうやって使うねん」

「ほら、砂浜の海岸には色んなものが漂着してるやろ? 流木とか、プラスチック製品とか、蓋がしてあるなんかの瓶とか、プカプカ浮きよるもんが流れ着いてるやん。そんなんをひろては、拠点に持って行くのに、ロープがあったらソリっぽい形の漂着物にロープを結んで引っ張ったら楽やろ?」

「はぁー。なるほどね。ちゃんと考えてるんや。ソリっぽいもんが都合よく落ちてるとは思えへんけど」

「ま、そうやとしてもや。ロープは色々と便利や」

「ふーん。ま、長ーいもん繋がりで言うたら、俺は釣り道具を持って行くね」

「ふんふん。釣りはええね。岩礁かなんかで、貝やらちっこい蟹やらを捕まえて、それをエサにしてもいいしな」

「せやねん、せやねん。なんせ無人島やしな。人のやる釣りに慣れてる魚なんておらへん。入れ食い間違いなしやで。おさかな食べ放題や」

「いいね。ほんで、釣った魚を丈夫そうな枝とかに刺して焼くねんな? ふわー、もう、なんかいい匂いしてきた気がするわ。美味そやなー」

「せやろ? せやし、ナイフと火ぃは必須や言うたやんけ。ぜったい美味い。釣りたての魚はどう食うても美味い」

「ほんなら次はオレの番やな。次は満を持して醤油や。焼き魚も醤油を少し垂らす事でもう、たまらんいい匂いに焼きあがるし、美味いでぇ」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てや。オマエはまだライターもマッチも言うてへんやんけ。どやって魚焼くねん。落ちてる木ぃをシコシコ擦り合わせてその摩擦熱で火起こすんか?」

「ライターとマッチはもう、オマエが言うたやん」

「え?なに、無人島へはオレら二人で行くのん?」

「そらそやろ、コンビやねんから」

「あ、そやってんや。オレはてっきり、無人島に一人でどうやってサバイバルするかって話やと思ってたわ。ゴメンゴメン、認識ズレとった」

「そんなん、かまへんかまへん。とにかくや、これで、火ぃも起こせるし、釣りもできるし、穴も掘れるし、ロープでモノを引っ張ったり吊ったりもできるし、暮らしていけそうやな」

「あー。せやな。醤油もあるしな。あとは、漂着物でなんとかなりそうな気もするな。せやけど、穴掘るてなんやねん。やっぱりスコップは穴掘る為に持って行くつもりやんけ」

「穴は、アレや。アレ、アレ。そう、蒸留や。海水とか雨水をその穴ん中に溜めて、その上にデッカイ葉っぱとかひろたビニールシートなんかを被せるやろ。ほんなら、天日にさらされて、水だけが蒸発して、ほんで、そのかぶしてあるシートに水滴がつく。その付いた水滴を上手い事集めたらほら、飲み水の確保完了や」

「あぁ、そうかー。飲み水大事やもんね。どれだけ喉が渇いとっても海水は飲んだらアカンて言うし、海に流れ込む川を見つけたとしても、生水飲んだら腹こわすしな。せやせや。大事やな、飲み水の確保は」

「やろ?ちゃんと考えてんねん。無人島さつじ……ゴホッ、んんんっ。無人島サバイバル計画はこれでバッチリやろ」

「ん?なんか不穏な言葉が聞こえそうになったけど、気のせいやんな?」

「不穏て……。サバイバル計画の何が不穏やねんな」

「いや、そことちゃうねんけどな。そのちょこっと前に、なんとなく不穏なワードが聞こえたような気がしてん」

「そう?……あぁ、そうそう。アレ忘れてた。無人島へはアレ持って行かな、アレ。睡眠薬睡眠薬」

「おい。オマエ、俺を殺す気なんけ。眠らせて、殺して、ロープでオレの死体を引きずって、スコップで掘った穴にオレを埋める気満々やないけ!」

「睡眠、大事やろ?」

「そらまぁ、寝るのは大事やで。人生の三分の一は眠りや言うからな」

「せやろ?ほんで、慣れない無人島という環境下で夜寝れへんとか命に関わるやん。眠れない無人島の夜に睡眠導入剤。大事大事」

「せやけど、オマエの持って行く道具のチョイスが、睡眠というより永眠にオレをいざなっているようにしか思えへんねん」

「偶然や偶然。たまたま、取り様によってはそんな風に見えてまうってだけや。そんな、なんで、大事な相方を殺そうとなんてするねんな。このオレが」

「せやんな。うん。今までも一所懸命こうやってコンビとして頑張ってきたんやから、仲良なかよぉやっていかなアカンもんな。これからもよろしくやで」

「うん。せやで。……、それはそうと……。オマエ、オレの彼女のアキちゃん、寝とったやろ」

「なに言うてんねんな。そんな相方の彼女に手ぇ出すような事しまっかいな」

「証拠はあるねん」

「えぇ?」

「アキちゃんからの証言も取った」

「えぇ?」

「せやけど、もう、ええねん。責めへん責めへん。もう済んだ事やしな」

「えぇ?」

「何よりオマエは大事な相方や」

「えぇ?」

「せやし、今度、一緒に冒険に行こうや。無人島に、二人で。さっき言うた道具持って」

「必然やんけ、おいー。何が偶然じゃ、やっぱり俺を殺すつもりのラインナップやったやんけー、さっきの道具ー」

「いやいやいやいや、ちゃうてちゃうて。ロープはオマエを引きずって運ぶためやないねんて。オマエの首に巻く為や」

「こ、絞殺? 絞め殺されんの?オレ」

「アキちゃんもあっちで待ってるし、安心して逝ったらええで」


-了-



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