第13話 浸透突破戦術
「本日付けで、第701特務魔導騎兵大隊に特殊任務が通達された」
クリージュカルニスの補給物資が後方への輸送を完了した頃合いを見計らって、現地守備部隊にも後方への撤退が下令されていた。
「予備中隊からの引き抜き人員との連携は、まだ不十分ではあるが訓練の時間が欲しいなどと悠長なことを言ってられる余裕は我々には無い」
部隊という集団がどれだけの能力を発揮できるのかを左右する連携を軍上層部が軽視していることにクニッツは一笑に付した。
だが苛立ちは隠せず、咥えていた煙草を雪混じりの地面に捨てると音が立つほどに踏みつけた。
「大隊諸君らの言いたいことはよくわかるが、クニッツ大尉を見習ってくれ」
命令として正式に発令されている以上、今さら議論しても詮無しとクニッツは鼻で笑ったのだ。
「初めに言っておくが……今回の作戦は敵の侵攻速度を鈍化させるために指揮系統を麻痺させることを企図したものと思われる」
アルジスは敢えて回りくどい言い方をした。
何しろ目標の実現のプロセスとして最適な内容ではあるものの、現実的な視点にたって考えると成功の見込みのないものだからだ。
「肝心な内容の方だが、端的に言えば斬首作戦だ」
アルジスの言葉に士官学校出身の将校連は、揃ってため息をこぼした。
無反応だったのは最初の時点で諦めていたクニッツぐらいのものだった。
「本日未明より敵の戦線を浸透突破し、敵司令部を強襲するというものだ」
侵略した土地に仮設司令部を置く際の場所の特定は比較的容易だった。
なぜなら大規模な部隊を率いるのは高級将校であり、彼らの生活の水準をある程度のレベルに維持するとともに機能や設備の整った場所を選定しがちだからだ。
具体的に言えば役所やホテルがそれに該当するのは、先の一次大戦において頻繁に見かけられた話だ。
「場所の特定はできていないが、各中隊指揮官の諸君らであれば目星はつくだろう?」
士官学校における教育において彼らにはそういう類の知識が叩き込まれていた。
「浸透突破の特性上、中隊ごとの行動とするからその点は留意しておけよ?」
先の大戦において連合王国軍はエリート襲撃及び擲弾チームを編成しての塹壕襲撃を実施しており、帝国軍もまた火力の集中する敵防御拠点を迂回しての言うなれば戦車と航空機のない電撃戦を展開していた。
もっとも最初の戦線突破を拡張できるほどの機動力がなかったために、突出部を生み出しただけであり作戦及び戦略的次元での勝利には繋がらなかったが……。
とは言え、今は機動力と破壊力に優れた魔導騎兵があるため、浸透突破は以前よりも容易な戦術になっていた。
それを鑑みて敵に習うということをリーフラント公国軍上層部は選んだのだった。
「指揮権は各中隊指揮官に委任する。浸透突破と任務の遂行が無理だという判断を下さざるを得ない場合は、その責任において撤退しろ」
最後に、「こんな馬鹿げた作戦に命をかける必要は無い」とアルジスは最後に付け足して、解散させたのだった。
なにしろ航空優勢を取ることが困難な現状において偵察など満足に出来ようはずがなく暗号解析もままならない。
故になんとなくの予想と相違のない情報に基づいて敵司令部を発見するところから始まるのだから作戦の成否は推して知るべしとも言えた。
リーフラント魔導騎兵戦記 ふぃるめる @aterie3
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