第12話 ゴットランド演習作戦②

 「右舷に潜望鏡を確認!!」


 双眼鏡を手にした見張員が騒ぐのは、もはや恒例の、という言葉で括られてしまうそれだった。


 「針路このまま、対潜警戒を厳とせよ」


 情報は迅速に艦隊各艦に共有され、駆逐艦が潜望鏡へと向かって走り出す。

 潜水艦発見の一報は、即座に艦隊各艦に共有され艦隊司令部が各艦へと命令を伝達するという組織的連携は、バルト海に来てから磨き上げられたことは間違いなかった。


 「いつまで尾行は続くんですかね……」


 副艦長のため息混じりの声に、モーンドは笑った。


 「スヴェーアの領海までは流石に入ってこんよ」


 確証はないが……という前置きは敢えて除いて答えた。


 「陣容はあちらさんも知っているはずだ。あの上陸用舟艇を見れば嫌でも積荷くらいはわかるだろうよ。それでも仕掛けて来ないだけ、忍耐力はあるらしいな」


 事故を装った攻撃を受けることぐらいは想定していた。

 だが潜水艦がぴったりと、時折戦闘機が疎らに近付いて来るだけで手を出してくることはなかった。


 「今頃、歯ぎしりしてるでしょうね」


 目下、世界情勢はいくつかの勢力に分かれていた。

 イングレス連合王国とヴァロワ自由共和国、プシェミスル王国、リーフラント公国からなる連合国陣営。

 そして帝国やエルトリア王国が構成する全体主義陣営。

 中立国の代表としては孤立主義を標榜する合衆国、そして野望を秘め漁夫の利を虎視眈々と狙う共産主義国家があった。

 そんな情勢を鑑みるに、帝国はなるべく連合王国との戦闘を避けたかった。

 海を隔てているがゆえに連合王国は参戦に積極的でないという考えのもと、リーフラントの次はプシェミスル、そしてヴァロワ自由共和国と順繰りに小国から併呑していくという戦略プランの元、行動を起こしている。

 ゆえに帝国としては連合王国海軍艦隊のバルト海航行は寝耳に水であり、早くもそのプランが瓦解の危機に面しているというわけであった。


 「我々に手を出そうものなら、戦略プランの瓦解と四面楚歌は間違いないからな。最高のご馳走を前に何も出来ないとは滑稽だ」


 戦闘艦艇だけで戦艦3隻に空母2隻、さらにはタウン級軽巡洋艦6隻に駆逐艦24隻。

 加えてリーフラントへの支援物資で満載の揚陸舟艇や輸送船が数多いる。

 敵中と変わらぬ環境に艦艇を投入するにあたり、連合王国はそれなりの艦数を用意していた。


 「あとは無事に帰れるか、だな」


 リーフラントへの支援が明るみになれば、或いは戦況に多大なる影響を及ぼしたとしたのなら、帝国が報復に出てくることも想定されるわけで、先の見通しを楽観しするわけには行かなかった。


 「そうですね。出来れば、つつがなく任務を終えたいところです」


 副艦長は敵意なしと浮上して離脱する帝国海軍潜水艦を遠い目で見つめながら言ったのだった。

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