第11話 ゴットランド演習作戦①

 『大ベルト海峡に連合王国艦隊が侵入!!』

 『威圧目的ではなかったのか!?』

 『多数の上陸用舟艇を伴う!!』

 『外務省を通じて目的を問え!!』

 『偵察機だ、偵察機を上げろ!!』

 

 帝国軍がネマン川を越えた三日後、リーフラントの同盟国たる連合王国の艦隊が帝国の庭とも呼べるバルト海へと侵入した。

 事前通告無しの連合王国艦隊の接近に、帝国軍は混乱した。


 「3時方向より帝国艦隊接近!!」


 大ベルト海峡を越えればそのすぐ南に位置するのは帝国海軍最大の拠点キール軍港。

 帝国海軍が黙っているはずはなかった。


 「艦種は何か?」


 見張り員に問いつつも空母『アーク・ロイヤル』の艦橋から艦長であるロビン・モーンドは自身も南の方角を双眼鏡で見つめた。


 「艦形からして、シャルンホルスト級かと思われます!!」

 「相応の艦は出撃させてくるということか……」


 最新鋭艦として進水したばかりの戦艦『ビスマルク』はまだ就役しておらず、巡洋戦艦シャルンホルスト級が目下、帝国の主力艦艇だった。


 「『ネルソン』、『リヴェンジ』、『ロイヤル・オーク』が主砲を帝国艦隊に指向させました!!」



 艦隊旗艦であるネルソン級戦艦『ネルソン』に続き同じく戦艦であるリヴェンジ級の『リヴェンジ』、『ロイヤル・オーク』の二隻が主砲を一斉に帝国艦隊へと向けたのだ。


 「なるほど、来るならいつでも応じようという構えか」


 モーンドは司令部の判断に感心した。

 未だ最後通牒は交わしておらず宣戦布告をして戦争関係に突入したわけでもない両国は、しかしてバルト海において緊張関係の極みにあった。


 「旗艦司令部より入電、空母艦載機は『アーク・ロイヤル』のみ直掩機を上げられたし」


 普通の場合、緊張関係の深刻化を忌避して主砲を相手艦隊に指向させることはしないのだが、帝国艦隊各艦が最初から主砲をこちらに指向させている以上はこちらも関係悪化を厭わず備えをするというのが遣バルト海艦隊司令部の判断だったのだ。

 

 「よかろう、直掩機として1個飛行中隊を発艦させろ」


 遣バルト海艦隊に随伴する空母は『アーク・ロイヤル』、『グローリアス』であり、艦載機数の多い『アーク・ロイヤル』からの直掩機発艦を司令部は選んでいた。

 モーンドの命令から僅か数分で、12機あまりのハリケーン戦闘機が発艦していった。


 「さて、どう出る帝国海軍?」


 モーンドは内心では平和的な事態の進展を望みつつ、同じ海軍軍人として帝国海軍がどういう選択をするのかを楽しみにしているような口振りだった。

 リーフラント軍参謀本部が天候の回復を見越して捻り出した一手―――――名目上は連合王国海軍とスヴェーア王国海軍の合同軍事演習。

 しかしてその本質は、帝国に対しての銃火を交えぬハラスメント攻撃。

 そして上陸用舟艇には、リーフラントにレンドリースされる連合王国製の戦車が載せられていたのだった。

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