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僕が今日まで生きてこれたのは彼女にまだ会えるかもしれないという虚しい可能性を胸にしていたからだった。
もしかしたら彼女が敵軍に紛れ込んでいるかもしれない。なぜなら彼女はあの時、自分がいつも使っていたロボットではなく、汎用機で出撃したからだ。そんなものに乗って戦陣へ向かったら死ぬなんてことは分かっていたはずなのに、そうしたからだ。そして、死んだとされる証拠はどこにもない。失踪だ。
だから僕は、全部殺した。敵も。味方も。全部。
それは実に簡単な作業だった。
圧倒的、だったからだ。
軍が僕に渡してきた「最終兵器」とやらは本当にすごかったんだ。
南北の戦争、勝者は敗者に退けられる。
この「戦争」は食糧難、環境汚染、それらを逃れるための「大虐殺」の口実。
協調性だのと口を合わせるゴミどもの計画だ。
もう時間が無いみたいだ。
死ぬ前に、僕は今、自分の記憶を改竄しようとして、失敗して、乗り換えて乗ったかつての彼女のロボットと共に宇宙上を、ただ一人浮遊している。
そろそろ、死のうかな、と考えたところで、彼女の通信データがこのロボットには残っているのでは、ということを思い出す。何でもいいから、最後に、最愛の君の声を聴いてから死にたい。
僕が過去の通信履歴を見ると、そこには違和感があった。彼女が死んだ日の通信データが存在した。そしてそれは、
僕はそれを再生した。
「……届いているかな?きこえているかな?アリスです。君がこれをきいていないことを祈りながら、きいてほしかったことを遺しておこうと思います。私は君に謝らないといけないことがあります。私のことが嫌いになっていても、最後まで聞いてください。先ず最初に。私にとってはつい五日前のことなんだけど、あんな事を言っちゃってごめんね。ちょっとした八つ当たりのつもりだったの。君が知らないだけで、ヒーローは、いるんだよ。私にとっては君がそうだった。君が何回も私を助けてくれたこと、全部私は気付いてた。カタストロフィとか言ったのは、みんなが一緒に死んでしまえばいいかな、と思っただけ。世界は、恐ろしいほど平等じゃなくて、もう私は色んな人の命に立っていることを苦しく思うようになっちゃったな。誰かが得をするんじゃなくて、全員で終われば、それが良いと思ったの。一年前、私を助けてくれたのに、怒っちゃってごめんね。戦争の間は君とはずっと話さないでいよう、と思っていたんだけど、あの時は我慢がいかなかったの。君に、死んでほしくなかったから。私はこの戦争の真実を知ってしまったの。だから、私はそれと戦わないといけない。これを君が聞いてるってことは私は死んじゃったってことなんだろうけど、それは君は私を好きでいてくれているって理由にもなるので、まあ、許します。自分で自分が殺されることを許すってバカみたいだね。もっと嬉しそうに話すべきかな、自分が存在しなくなった世界のことなんかわからないな、怖い、怖いよ。私のロボットのパスは私と君しか分からないものにしておいたから、この通信はばれないで済むと思うんだ。私が死んだら、君が偉くなるのは分かり切ったことだし。初めて声をかけてくれた時、嬉しかったよ。あの時君は初めて私を知ったのかもしれないけど、私はずっと前から君を見ていたの。私が屋上から飛び降りようとしているのを見た時、君が「どうせ飛び降りるんだったら僕と付き合ってくれませんか」とか真顔で言ってきたのは本当に笑えたけど。そのとき、初めて、家族を犠牲に命を繋いだ私は、生きてていいんだ、って思えた。君がクリスマスプレゼントに買ってくれたエメラルドのペンダント、実はずっとつけてたよ、私の目に合うように選んでくれたんだよね、ありがとう。あーあ。君と幸せになりったかった、結婚したかったなあ。私は死んじゃうけど、最後に私と約束してください。死なないで、生きて。愛してるよ」
そこで、彼女の声は途切れた。
それは、僕らが離れていた時間に対してはあまりにも短い音声だった。それでも、僕が徴兵されてから、最も意味のある時間だった。
君は、本当に卑怯だ、アリス。
世界がこんなに美しいなんて知らなかった。
故郷を想ってこんなに切なくなるなんて思っていなかった。
この美しい星の海を、君と共に駆けてみたかった。
目の前に、さっきまであった地球はもうない。
思い出ごと全てを失くすような形になってごめん。
でも、そうしないと多分僕は耐えられなかったんだ。君を殺した世界を、僕は許せなかった。顔も知らない、無実の人々を大勢殺して、みんなが平等に、終わりを迎えるんだ。
君が死んで、みんな死んで、最後に僕も死ぬ。
だから、最期は君が二番目に望んでいた終わり方だけど、満足してくれないか。
僕は早く、君に会いたい。
星の海、幽玄の君と最終戦争 軽盲 試奏 @siso-keimo
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