第169話 二度目のネットカフェ
お互いの買い物を済ませた俺達は、少し休憩することにした。
とは言っても、買い物前にカフェへ行ったばかり。
またカフェへ行くというのも少し味気ないよねという話になり、近くにあったネットカフェで少し休憩することになった。
まだできたばかりのようで、どうやらこのお店にはカップルシートというものもあるようだ。
カップルシートってどんなだよ……と思ったが、蓋を開けてみれば普通の広めのペアシート席のようだ。
まぁせっかくだからとそのカップルシートを選択し、二人で個室へと入る。
中は完全に個室状態で、パソコンのモニターと二人用のソファーが置かれているだけの空間。
ソファーに並んで腰かければ、そこはもう完全に二人だけの空間。
普通の広めのペアシート席と侮っていたが、いざ中に入ってみると中々……。
実家へ行き、昨日は二人きりで一晩も過ごした仲だ。
ネットカフェには前にも来たことがあるし今更どうこうと思っていたのだが、こういう場所だとまた違った感じ方があるというか……。
ポンッ。
そんなことを一人考えていると、隣に座る梨々花が頭を肩へ預けてくる。
髪から香るシャンプーの匂いに、胸のドキドキが加速していく。
同じシャンプーを使っているはずなのに、不思議だな……。
「……えへへ、二人きりだね」
嬉しそうに呟かれるその言葉に、俺もそうだねと返事をする。
突き刺すような真夏の日差しに、歩き回ったことで疲れていることもあり、しばらく二人で寄り添い合う。
何もしなくても、お互いを感じ合えるだけで幸せなのだ。
心の栄養が満たされていくように、疲れも癒えていく。
「ここって、ジュース飲み放題だったっけ?」
「うん、そうだね」
「漫画や雑誌も読み放題」
「そうだね」
「そして、彰も独り占めし放題」
「その通り」
「あはは、やったね」
そんな冗談をいう梨々花は、嬉しそうに抱き着いてくる。
今の俺達は彼氏彼女の関係。
ここネットカフェから出てからも、好きなだけ独り占め上等である。
「でも、せっかくだからジュースも飲みたいね」
「そうだね、喉もちょっと乾いたし」
「じゃ、一緒に行こう?」
立ち上がった梨々花に手を引かれ、一緒にドリンクバーへと向かう。
置かれた雑誌や漫画にも相変わらず興味津々なご様子で、梨々花と一緒ならネットカフェもさながらテーマパーク。
きっとこういうのは、どこへ行くかよりも誰といるかが重要なのだろう。
楽しそうな梨々花のおかげで、そんな気付きも得られる。
こうしてジュースや漫画を手に個室へ戻ってきた俺達は、パソコンで動画を見ることにした。
もちろん見るのは同じグループのみんなの動画で、お互いに好きな切り抜き動画を紹介し合っては笑い合った。
前に来た時は秘密にしていたが、今ではオープンでいられるのが嬉しい。
このVtuberという共通点が無ければ、俺と梨々花が交わることなんてなかったのかもしれない。
だからこそ、これもある種の運命なのだろう。
これは俺達に限らず、ライバーやリスナー、本当に老若男女色んな人達がいる。
他のことでは絶対に交わらないような人でも、このVtuberが好きという思いだけで仲良くだってなれるのだ。
そう考えると、Vtuberという存在の凄さを改めて感じることができる。
俺達はVtuberの歴史において後発の存在だけれど、黎明期から文化を作り上げてきてくれた先駆者の方々は本当に偉大だと思う。
こうしてメンバーだけでなく、他のVtuberさん達の切り抜き動画も正直無限に見ていられる。
どれも本当に面白くて、才能と笑いの神様が大渋滞を起こしているのだ。
その一部に自分達も加われていると思えることが嬉しくて、ちょっと誇らしくも感じられる。
それはきっと、梨々花も同じなのだろう。
何故って、ずっと隣で楽しそうにほほ笑んでくれているから。
大学で初めて声をかけてきたあの頃から、梨々花はずっとVtuberに憧れていたのだ。
だから俺以上に、その思いは強いのかもしれない。
「あ、この切り抜きのアーサー様もめっちゃ笑った」
「いや、それはさすがにハズいっていうか……」
「もうネットの海に放出されてしまっているので手遅れです。というわけで、本人と同時視聴スタート!」
俺が以前やらかした切り抜き動画を、一緒に見るという地獄。
ちなみに内容は、待機画面のミュートのし忘れで恥ずかしい鼻歌が配信に乗ってしまったというやつだ。
有名な歌を変にアレンジして歌ってしまったせいで、SNSでもトレンド一位になってしまった恥ずかしい過去を持つ。
本人としては完全に黒歴史なのだが、梨々花は何度見ても笑えると隣で笑っている。
それならばお返しに、次はリリスのやらかした切り抜き動画を再生すれば完全に攻守逆転。
恥ずかしがる梨々花が面白くて、俺もつい笑ってしまう。
人の鼻歌を笑ったが、リリスも配信中に謎鼻歌を披露してしまった過去を持つのだ。
もちろんそれもSNSでトレンドに載っており、お互い謎鼻歌でトレンドに載ってしまったという異色の過去を持っているのである。
そんな動画鑑賞はずっと楽しくて、少しだけ休憩のはずが気付けば二人時間を忘れて楽しんでしまっているのであった。
実は俺もVtuber~駆け出しVtuberを支える俺、実は登録者数100万人の人気Vtuberな件~ こりんさん@コミカライズ2巻5/9発売 @korinsan
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