弾丸
IORI
貴女の言葉
鼻腔を貫く火薬と血の匂いは、貴女からのものだった。
裂けた口元、漆黒に染る瞳、関節を無視した身体。かつての貴女は、気高い貴女は、そこには居なかった。
貴女のけたたましい叫び声が、鈍色の空に響く。地鳴りがする程のその声に、鼓膜どころか脳さえも潰されてしまいそう。
地面に伏せる戦友たちは、皆既に人形のような瞳をしていた。ここで動けるのは、どうやら自分だけ。しかし、持ち合わせているのは弾切れの拳銃。接近戦は得意ではないし、満身創痍なのは変わらない。しかし、このままでは、確実に貴女に殺される。
ふと、何かが視界に入る。亀裂が入った眼鏡で焦点を合わせると、それは貴女が愛用していた拳銃。何故という疑問よりも先に、衝動的に手に取ると、1発だけ弾丸が存在していた。
ー弾丸は一発で十分ー
嗚呼、可笑しい。こんな時に貴女の口癖を思い出す。誰よりも気高く、努力家で、仲間思い。そんな貴女の背中に憧れて、近づきたくて、必死に追いかけた。それと同時に、あなたに見合う男になりたかった。何度も失敗して、何度も挫けそうになる度、貴女が背中を叩いてくれる。そして、必ずこう言うのだ。
ー私に見合う男になるんでしょ?ー
普段は見せない、茶目っ気な笑顔。ずるい貴女さえ、愛しくてたまらない。
走馬灯のように、貴女との思い出が瞼に彩られる。もう戻らない日常は、あまりに眩しかった。
大きく深呼吸をすると、貴女の拳銃に力を込める。ゆっくりと視点を狙いに定めると、時が止まったような気がした。
「先輩…ずっと、これからも…」
最後の二文字は、銃声で掻き消された。
弾丸 IORI @IORI1203
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます