第4話 業魔とごはん

 お昼休み。

 また屋上前の階段踊かいだんおどへ、お昼ごはん持参じさんで集まる。

 カイがえん操作そうさして他人ひとが近づきにくい空間くうかんにしてくれている。

 元々、人気ひとけが少ない場所でなら効果が出るくらいの位の力らしい。

 階段に腰掛こしかけ、私は買ってきたパンの袋を開ける。

ミヤビは学食のそばを持ってきてばしを割る。……おそばって持ってきて良いのか?


 「話の続きだけど……自殺しようとしたの?ハルカ」


 『い、いや、本当に死ぬつもりじゃなくて、死んだらどうなるんだろうって思っただけで』


 「ふるビルの貯水槽ちょすいそうまで登ってみたんですね。あそこはフェンスがありませんから」

カイ、余計なことを。


 「わたしが友達と話してるのを立ち聞きして? それで死のうと?」

そんなことで?と言う目をしている。


 『う、本当に死ぬつもりじゃなかったんだよ?気の迷いだよ』

我ながらメンタルが不安定だと思う。


 「いえ、ハルちゃんは死のうとしてましたよ?」

 

 『だから、なんでカイにそんなことがわかるの?』


 「僕が自殺を止めたからだよ、ハルちゃん」

え? え?



 「僕は死んだ人間の価値、前にあった人間は『カルマ』と呼んでいましたね。それを食べて存在しています」


 「カルマって宗教とかで言ってるやつ?」


 「どうでしょう?ちょっと違う気がしますがまあ、カルマを食べるとしましょう」


 「ハルちゃんのカルマはすごく少なくて、美味しくなさそうなんです。

自殺をするとカルマは巨大化するのですが、すごく不味いんです。苦手な味。

僕はハルちゃんを食べたくなかったので、死んでほしくなかった。

なので、『自殺しようとするカルマ』を食べてみたんです」


 『生きてる人のカルマも食べれるの?』


 「いえ、普通は無理です。なのでハルちゃんと『縁』を結ぶ必要がありました。

縁の操作は得意なので、つないだ縁から少しづつカルマをもらいました。まずかったです。」

ええ…


 「でも、効果はありましたね。ハルちゃんは怖くなってやめたみたいですね」

それが本当なら、カイは命の恩人?になるのかな?


 「おどろいたのはこれからです」

え?


 「縁を結んだら、ハルちゃんは僕が見えるようになりました。びっくりです」

ああ、なるほど。


 「そして、結んだ縁が解けなくなっちゃいました。えへへ」

ふんふん?

ん?

              えええ!?


 「僕はハルちゃんから離れることができません」

は、離れられない? ずっと一緒?


 「ハルちゃんにカルマを増やしてもらって、それを貰えば解けると思います」

そんな…


 「安心してください。姿は消せるので、見たくない時は消えますからね」

みられたく無い時はどうなるの?ねえ。


私が狼狽うろたえているのを見ながらミヤビがむつかしい顔をして話す。

 「ねえ、そいつどうにかして除霊じょれい?か消滅しょうめつさせられないかしら?」


 「そ、そんな。ミヤビさん僕と仲良くしてくださいよう」


 ミヤビにすがり付く。

 「さわるな、ばけもの」

 「カルマっていうのはあまり良い意味で使われないと思ったけど、そんなものをハルカにめさせて食べようって言うのが信じられないのよ」



 私としても、カイが言っていることが本当なら命の恩人だけど。

嘘だったら怪しい存在なわけで……うーん。

 『そもそも私とミヤビで、カイの見た目が変わるのはなんでだろう』


 カイがこちらを向いて言う。

 「僕には肉体がありません。

 そして僕の栄養素えいようそである人間の価値には善悪がありません。

 善悪が無いこの体は、見る人によって見た目が変わります。人によって悪魔にも天使にもなるのでしょう」

 へー。



 『うーん、やっぱり消滅しょうめつさせるのはかわいそうな気がする。やり方もわからないし。 カルマを貯めるってどうすればいいの?』


 「カルマは貯めようとして貯まるものではありません。自然と生活していく中でてしまう物だと思います。少なくとももっと活動的かつどうてきになってもらいたいのだけど、ハルちゃんはおとなしい性格みたいだね」

 でも、とミヤビを見つめる。

 「ミヤビさんはとっても美味しそう!僕にミヤビさんを食べさせてください!」


 ひぃっとミヤビが後ずさる。


 『生きている人間は食べられないんでしょう?ミヤビとも縁を結ぶの?』


 「そうなんです。ハルちゃんの時のように一方的に縁を結ぶ事を『因縁いんねんをつける』と呼んでいるのですが、実は危険な行為なんです。そもそも誰とでも縁を結べるわけじゃ無いんですよ」


 『じゃあどうやって?』


 「ハルカさんが『許可きょか』してくれれば食べることができます」


 『許可?』「許可?」 声が重なる。


 「はい。あなた方二人は常識ではあり得ないくらい『強い縁』で、すでにつながっています。その縁を利用する事を僕に『許可』してくれれば、晴れて僕はミヤビさんのカルマを食べることができます」


 『強い縁』…… そんな?

 ミヤビと見つめ合う。 相変わらず美少女だ。


 い、いや、昨日立ち聞きしたセリフがどうしても引っかかる。


 (「ハルカは友達なんかじゃない」「わたしがハルカの世話ばかりしている。対等じゃない。一緒にするな」)


 私はミヤビに迷惑をかけ続けていた。

 これ以上迷惑はかけたくない。


 『ごめん、ちょっと考えさせて』


 「ハルカ?」


 予鈴がなる。お昼休みが終わる。



 「……ハルカ。学校が終わったらわたしの家に行こう!話したいことがある」


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