第6話 因縁果

 カイの提案とは??


 「ミヤビさんのカルマを食べずに、縁だけをつなぎます。

ハルカさんにカルマの流入の許可をもらいます。 すると、

 ミヤビさんのカルマは縁をつたい、ハルちゃんを介して僕に流れ込んできます。

 ミヤビさんの生き方はたくさんのカルマを背負うことになりそうです。流れ込んだカルマだけを僕が食べれば、ミヤビさんの人間性を傷つけることは無いはずです」

 はずですって……信用できない。


 「ハルカ、わたしはそれで良いよ。ハルカだけ恐い目には会わせない」


 ミヤビ……。


   私、決めたよ!


     『カイとミヤビは!』


 ミヤビは落胆らくたんする。

 「ハルカ、どうして?」


 『ミヤビ、ごめん。 私は誤解をしてた。

昔のミヤビはもういないって、私は孤独なんだって。

 でもやっぱりミヤビは昔のままだった。私は孤独じゃなかった。

だからこそミヤビを巻きこめない、犠牲ぎせいにできない』


 「ハルカ、私は犠牲ぎせいになるなんて思ってない!」


 あははっとカイが笑う。

 『カイ?どうしたの?』


 「二人は強い縁で結ばれているのに、誤解したりすれ違ったりする。人間って面白いですね」

 面白いか。そうか。


 「でもハルちゃんの誤解が解けて一つ、進展がありました」


 「元々ハルちゃんとミヤビさんは強い縁でつながっています。

 しかし、ハルちゃんのミヤビさんへの気持ちがふさがれてしまっていたので、僕からミヤビちゃんのカルマに触れることができませんでした。

 今、ハルちゃんの誤解が解けた事で僕に伝わってくるカルマがたくさん見えます。

 二人はまたすれちがおうとしている。

 でも安心してください。そんな二人を僕が『必殺技』で助けてあげます」

必殺技…? 殺す気か?


 「それこそが、必殺!『因縁果いんねんか』!!」

カッコ良く言い放つ。


 『いんねんか?』


 「簡単に言えば二人の誤解を解く技です」

最初からそう言って。

 

 「因果いんがを操作するなんてことは流石にできません。

 でも、今回のように二人のすれ違いが原因の場合は縁を操作して、ある程度都合つごうをつけることはできます。

 ミヤビさん、ハルちゃん、手を貸してください」


 カイが私たちに手を伸ばす。


 私は躊躇ちゅうちょしてしまう。


 ミヤビは迷いなく手を取る。

 「『カイ』、お願い!」

やっぱりミヤビはカッコいいな。


 私も遅れて手を取る。

 あたたかい。手触りもある。本当に肉体が無いの?

 あったかい。光っているの?目がくらむ。体の感覚が消える。

 体の境界線きょうかいせんが消えて空間に溶けた感じだ。

 でも、ミヤビとカイの存在ははっきりと感じる。


 空間にカイの声がひびく。

 「やあやあ、二人とも。今から僕に見えてる二人を見せるよ」


 映像というか、感覚すら共有している感じだ。感情が流れ込んでくる。

 「ミヤビちゃんは、ほのおのようなたましいを持っているね。

古武術こぶじゅつの道場の長女に生まれて、弟が二人いる。

お父さんは女である自分に落胆らくたんしていると思っている。

お父さんにみとめられたい。 でもお父さんをにくんでいる。

この世は地獄じごくだと思っている。それを都合良つごうよいと思っている。

力も知識ちしき性別おんなすべて利用して、すべてを手に入れようと思っている。

ハルカをたましいから愛している。ハルカをまもることが運命うんめいだと思っている。

混沌こんとんと光を愛してる。自己表現じこひょうげんの方法は破壊はかいが一番だと思っている。

ハルカをこわしてしまうのがこわい。

ハルカをまもる方法がわからなくて学校では遠ざけてしまう。

学校の友達は価値観かちかんが合うし好きだが退屈たいくつだ。

ハルカは何もかもわたしとちがって素晴すばらしい。

ハルカのたましい唯一無二ゆいいつむにだ。

ハルカの存在は地獄じごくらす、せいなるあかりだ」


 ミヤビの価値観が流れ込んでくる。激しい。痛い。

ミヤビの私への想いも伝わってくる。

普段なら恥ずかしいはずだが境界が無くなった今はただ、納得なっとくしてしまう


 「ハルカちゃんは、樹木じゅもくのようなたましいを持っているね。

裕福ゆうふくでもまずしくもない、でも不自由ふじゆうはしない家庭に生まれてる。

家族に愛されていないと思っている。それを享受きょうじゅする。

暗い性格を兄にうとまれ、暴力を受ける。それを享受きょうじゅする。

この世は地獄じごくだと思っている。世界を魂からおそれている。

可能かのうかぎあらそわずに生きていきたいと思っている。

ミヤビにたましいからあこがれている。ミヤビについていくのが運命うんめいだと思っている。

法律ほうりつやみを愛している。自己防衛じこぼうえいの方法は恭順きょうじゅんだと思っている。

ミヤビにてられるのが怖い。

ミヤビにきらわれるのが怖くて学校では話しかけられない。

学校では、いじめられてないのに孤独こどくだ。

ミヤビのような強いたましいに必要とされたい。

ミヤビの存在そんざい地獄じごくらす太陽たいようだ」


私の価値観が流れ込んでいく。眩しい。怖い。

私の想いがミヤビへ伝わる。


 「二人はこんなに違うのに、こんなにみとめあっている。 そしてお互いに必要としているのにすれ違っている。人間は面白いね」


 パッと、視界が師範室に戻る。

自分の感覚が戻る。 急に恥ずかしくなる。

畳の上ですわったまま、ぱたぱたと手に水がかかる。涙だ。


 ??泣いているのは自分だ。


 ミヤビを見る。 ミヤビも泣いている。 初めて見たかもしれない。

 泣きながら見つめあう、ついつい笑ってしまう。

因縁果いんねんかすげー。 確かに必殺技だわ。

 お互いの理解りかい理屈抜りくつぬきでまっとうする。


 「ね。犠牲ぎせいとかじゃ無いでしょう?わたしの生きがいなのよ」


 『う、うん。よくわかった。ホントに』


 「では、許可をください。ハルちゃん」


 『……わかった。どうすればいい?』


 「言葉にするだけだよ。言葉もカルマなんだ」



 では、

『私を介して、カイがミヤビと縁を結ぶことを許可します』


 

 ミヤビが小さくうめく、眉をひそめる。大丈夫と言って表情を戻す。


 カイの体が光だす。

 思った以上に強い光だ。


 カイはおどろいたような、興奮こうふんした様子で語り出す。



 「これは……想像以上だよミヤビさん!

 君たちは太極図のような関係性だ。二人の関係性はこの宇宙をしているんだよ!

 二人が作った強固なきずなに僕がアクセスすることによって、二人の力が何倍にもなるんだ!これだけの力があれば僕の力を回復することができそうだ!」


 え? え? なに急に? ちから?


 「ハルちゃん、僕はこれで自由になれそうだよ。これで元に戻ることができる」


 『ま、まって。 カイ、消えちゃうの?」


 「そうだよ。 ハルちゃんに迷惑かけずにすみそうでよかった」


 『いや、別に迷惑というわけでは……』



 「ハルちゃん、さびしいの?」



 『う、うん』



 「僕とハルちゃんは住む世界が違うんだ。一緒にいるのは無理があるよ」


 『そ、それは……』 確かにそうだ。 なんでこんなにさびしいんだろう。

今、消えてしまうというのならつたえなくちゃいけないことがある。


 『カイ、自殺を止めてくれてありがとう』


 カイはやっぱりやさしく微笑ほほえんで言った。

 「そうか。  ハルちゃん、 死なないでよかったね!」


   パァッと一際輝いたと思ったら、


    カイは消えていた。



 私はまた、涙が出ていた。


たった1日しか一緒にいなかったのに、なぜなのかわからないけど。

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