第5話 ミヤビとハルカ

 ミヤビの家は街道場まちどうじょうをやっていて、師範室しはんしつという四畳半よじょうはんの小さい和室わしつがある。

 子供の頃は二人ではいって遊んだりしていた。

 他所よそからえらい先生などが来なければ使われない為、子供の頃は遊び場となっていた。

 

 道場にはまだ誰もいなかったけど、小学生達がこれから来るので、誰も使っていない師範室しはんしつに二人で入った。

 

 『高校生になると流石さすがに狭いね』 でもなんか落ち着く狭さだ。


 「ここだったらオバケと話してても怪しまれないでしょ?」

 ミヤビが、ごろんっと寝転ぶ。

 ミヤビは紛れもない美少女だ。だが、その所作はまるで子供だ。可愛い。

 ミヤビは、あっと言って部屋に備えられた小箪笥こだんすからお茶と和菓子を取り出してきては、ポットでお茶をれてくれた。


 『箪笥たんすからお菓子かしが……!』


 「ずるいよね、こんなところにかくれて甘いもの食べててさ」なんて言って笑う。


 その笑顔は子供の頃と全く変わらない。

 でも私は、まだミヤビに見捨てられたという気持ちが消えない。

 礼を言ってお茶を受け取る。 畳にしゃがみ、壁に背をもたせかける。


 一瞬の間が空き、ミヤビが話し出す。

 「昨日、わたしが友達と話してたの聞いてたんだ?」

 

 『う、うん』 


 「ハルカは友達なんかじゃない。わたしがハルカの世話ばかりしている。対等じゃない。一緒にするな」


 『う……ん』


 「その通りじゃない」


 『え……?』 胸が張り裂けそうになる。


 「ハルカは私の『姫』!わたしは『騎士』!わたしがハルカを守る!」


 『あ、さっきの……』


 「忘れちゃった?」

 ?

 『あ、子供の頃にミヤビがよく言ってた』


 「そうそう。だから友達じゃない」

 ええ〜!!

 「騎士は姫の世話をする」

 そうかなあ……。

 「姫と騎士は対等では無い。当然」

 そ、そんなメチャクチャな……ん?


 『そ、それを友達たちに話したの?』


 「うん。すっごい笑われた」


 『そりゃそうだよ! そんなこと話したら、からかわれちゃうんじゃない?』


 「いいんじゃない?そんなのすぐ飽きるよきっと。」

 つ、強い。


 「あいつらね、ハルカを紹介しろって言ってきたの。友達なんだろって」

 え、こわい。


 「真面目に言ってきたら考えたけど、ふざけてたから断った。

 でもしつこく言ってくるから言ったわけよ。『友達じゃ無い!姫だ!』」

 恥ずかしい。やっぱり死にたい。


 『そんなこと言わずに適当にごまかせばよかったのに!』


 「ごまかすとしつこく言われるじゃん。

 だから本音をバチッと言い切って、なんか文句ある?って態度でいれば良いの。

 その時はみんなで笑うけど、それ以上はからかってこないよ。本気は伝わる!

 彼らだって悪人ではないよ?……多分。 少なくとも嫌なやつらではないよ」


 ミヤビはすごい。学校の怖そうな人達とも仲良くしているし、場合によってはミヤビが彼らを従えているようにも見える。


 『だからミヤビは私を避けるようになったの?彼らに会わせないように?』


 「違うよ、一番こわいのはわたし」

 ?

 「わたしは、ごまかしが言えない。

 自分もいつわれない。他人ひとにも合わせられない。

 もちろんハルカにも嘘がつけない。

 こんな性格でこの世の中生きていくため、自分を強くきたつづけないと落ち着かない。こんな自分の気持ちを自分でもおさえきれない」

 すごいな、ミヤビは身も心も強いんだな。 感心する。


 「わたしはハルカが大事だいじなんだ。大事だいじなハルカを恐い目にあわせてしまいそうになる自分が怖いんだ」

 

 大事だいじ? 何を言ってるんだこの美少女は??

 びっくりして心臓が一瞬止いっしゅんとまる。

 目を見ればわかる。さっきの口上こうじょうと同じでこの言葉も本気だ。


 ほんとうだ。 本気は伝わる。


 「だからわたしは、ハルカを遠ざけて気が合いそうな人達と遊んでたの。

 ごまかしがきかないんだ。自分のこの極端きょくたんな性格が嫌になる」

 うーん、と困ったような顔をする。あと少し恥ずかしそう。恥があるんだ。一応。


 「だからハルカ、わたしをあの餓鬼魂がきだまに食べさせて。ハルカがあんな化け物にかれているなんて許せない」

 ミヤビは自分を犠牲ぎせいにするつもりだろうか?



 でも、そんな風に考えていたんだ。

 私は勝手に落ち込んでいたのかな。

 だけど、今の話を聞いたらそれこそミヤビを犠牲ぎせいになんてできない。


 実際にカルマを食べられたら人間はどうなるんだろう?

 カイとも話し合ったほうがいいかな。



 『カイ、そこにいる?』


 「はい、もちろんいますよー」 透明になっていたカイが現れる。


 『カルマを食べられたら人はどうなるの?』



 「本来、生きた人間からカルマを食べる行為こういは大変危険きけんです。因縁いんねんです。

 ハルちゃんから離れられなくなってしまったのも、生きたハルちゃんからカルマを食べた反動ですからね」

 そ、そんなことを私にしたの?


 「作用さよう反作用はんさようです、ハルちゃん。ハルちゃんの人格を傷つけないようにしたため、僕のえんこわれてしまった。頑張がんばってりしたのだけど、ほどけなくなっちゃった。

 人間側にんげんがわ負担ふたんを押し付ければ僕のきずるけど、負担を押し付けられた人間は最悪の場合、肉体にくたいは無傷で精神せいしん崩壊ほうかいした廃人はいじんになると思うよ」


 恐い! けど、それならカイは私をかばってくれたのかな?



 「ハルちゃん。ここで僕から提案があります!」

 

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