第2話 陰者と幼馴染とまもの

 教室に入ると親友のミヤビが声をかけてきた。


 ミヤビは隣の家に住む幼馴染。

 黒髪ロングで校則ギリギリアウトのカスタム制服を着た美少女だ。

 私のような冴えない高校生と違って、友人関係も派手な感じだ。


「おはよう、ハルカ。 昨日はどうしたの?急に居なくなるし」


『あ、 ……ごめん。』


「?ふぅん……  ま、良いけど。 なんか元気ない?」


『え、えっと……』


 突然、異質な声がかかる。

「そちらの方が、あなたのお友達ですか」


 !?

 振り返ると昨日のビルで会った少年が、貼り付けたかのようにそこに居た。

 異様だ。


『あ、キミは!? なんで学校に!?』


 少年の後ろにいたクラスメイトがびっくりする。

「えっ?え? なに?急に…」

「どうしたの?」不思議そうにこちらを覗き込む。

 みんな、この異質な少年のことが見えていないようだ。


『ご、ごめん……』

 私は黙ってしまう。 変な人だと思われてしまう。

 高校生なのに厨二病だと思われてしまう。


 授業が始まる気配がする。 私も授業の準備を始める。

 授業が始まれば少年はさすがに帰るだろう。


 ミヤビを見ると、今まで見たこともないような表情をしている。

 遅い厨二病にかかったと思われてる?



 担任が入ってくる。

 ホームルームが始まる。


 教師が入ってくる。

 授業が始まる。




 少年はいまだ、私の隣に立ってニコニコしている!


 私がノートを取っている様子を呑気に眺めている。

 

 私はノートをとる作業に集中するように努めるが…

 何これ、恐い。


 近くで見ると少年が来ているのは学ランではないようだ。

 何かの制服のような。

 身長は170〜175センチくらい?

 背の高さの割に細身で華奢な感じだ。




 授業が終わる。

 急いで学校の屋上へ向かう。


 学校の屋上は鍵がかかっていて出られない。

 屋上入り口の階段の踊り場で止まる。

 当然のように少年がついてきている。


 恐いが、この状態が続くのはもっと恐い。

 勇気をしぼり出して声を出す。


 『キ、キミは一体なんなの?なんでついてくるの?』


 「ごめんなさい。僕と話せる人間が久しぶりだったので、嬉しくてついてきちゃいました」

 オバケかな?恐い。


 『キミはオバケ? なの? ユーレイ?とか』


 「うーん、なんなんでしょうね? ハルカちゃんの前に僕と話せた人間は僕を業魔ごうまとか、カルマイーターとか呼んでいましたね」


 ハルカちゃん…なれなれしいが、私のことだ。なぜ知ってる?


 『ゴーマ…?カルマ…? とにかく魔物ってことね。まもの』

 つまり、イマジナリーフレンドということか。


 「です。 略して『カイ』って呼んでください」

 は、はあ。




 そうかー、イマジナリーフレンドかー。

 唯一の友達に裏切られて、天涯孤独の身になってしまった私はついに脳内友人を生み出してしまったのだなー。


 そう考えたら、この子も可愛く思えてきた。

どうせもう友達は一人もいないのだ。 せめて脳内友人とは仲良くやっていきたい。


 よく見れば顔は可愛いかもしれない。

 背の割には顔は少し幼い感じだ。

 目は色素が薄い灰色をしている。暗闇で光って見えたのを思い出す。

 特徴的な見た目にも納得がいった。コスプレじゃなかったんだな。


 『これからよろしくね、カイ』


 「よろしくです!ハルちゃん!」

 うん、なれなれしいな。


 「ところでハルちゃん!」

 なんだい?


 「さっきの美人さんがハルちゃんのお友達?」

 うん、……ん?


 「ハルちゃんのお友達、すごい可愛いですね!僕に紹介してください!」

 こんにゃろう……。



 『あの娘はミヤビ。私の幼馴染で唯一のお友達』


 「ミヤビさん!!いい名前です。

 ミヤビさんがハルちゃんを裏切ったから死のうと思ったんですね?」


 『う……うん。 わ、私にはミヤビしかいなかったから』


 「ご両親や、ご兄弟は?」



 『い、いるけど、誰も私を見てくれないから。

 お兄ちゃんは機嫌が悪いと私を殴るんだ。

 お母さんは全部私が悪いっていうんだ。

 お父さんは何も言わない。興味がないんだ。

 ミヤビだけだったんだ。私の友達』

 ヤバイ、涙が出る。


 『高校に入ったら同じクラスになれて喜んでた。

 わ、私は人と話すのが苦手で、声が大きい人が苦手だから……。

 新しいクラスになじめるか不安だったんだけど、ミヤビが居てくれて嬉しかった。

 だけどミヤビはなんだか恐い人たちとばかり仲良くなって……。

 あまり私をかまってくれなくなったんだ。』


 『昨日のお昼に立ち聞きしてしまったんだ

 ミヤビがクラスの恐い人達に「ハルカは友達なんかじゃない」って。

「わたしがハルカの世話ばかりしている。対等じゃない。一緒にするな」って。

 恐い人たちが笑っていた。 私は怖くなって逃げ出した』


 『ミヤビは私を友達と思ってなかったんだ。

 確かに私はいつもミヤビに迷惑をかけている。

 悪いのは私だ。

 それでもミヤビは「ハルカはそのままが良い」と言ってくれた。

 でもそれは嘘だったんだ。 適当に話を合わせてただけなんだ』


 『ミヤビに裏切られたから、もう死ぬしかないって思ったんだ…』

 こんな話を聞いてカイはどう思うだろう?



「うーん」

 カイはすごく興味がなさそうだ。灰色の目が怪しく光る。


 え、え?

 イマジナリーフレンドってもう少し主人格しゅじんかくに優しいものじゃないの?

 私を慰めるために現れる幻とかじゃあないの?


 「今の話は僕にはどうしても興味が持てませんね。

 よ」


 な、何をいっているの? 許可?

 背筋が凍る。何か思っているものとは違う!



「ハルカ!ここに居た!」

 階下から慌てた様子のミヤビが駆け寄ってくる。


『ミヤビ……』


「ハルカ! なんなのソイツ!?」

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