あやかしの見える女子短大生、琴乃。もちろん普通の人にはあやかしなんて見えず、そのため苦しい思いをしたことも。
しかし、同じ短大に通う桃葉と出会ったことで、ある変化が。
なんと桃葉も、琴乃と同じようにあやかしを見ることができたのです。
桃葉と次第に親しくなっていく琴乃ですが、そうしていくうちに、時折前世のことが思い出されます。
思い出すと言っても、その記憶は非常に断片的。時には理由もわからないまま、胸がざわついたり涙が零れたりといった感情だけが溢れることもあり、前世で何があったのか、戸惑いながら、手探りで少しずつ探っていく。
それは読者にとっても同じで、作中で語られる出来事をヒントに、前世の物語を、そして琴乃たちのことを、ゆっくり少しずつ理解していくことになるでしょう。
全てを知った時、琴乃の前にはどんな世界が広がっているのか。
あやかしの世界が、繊細に、そして美しく描かれます。
短大への進学を機に、親元を離れて生活を始めた琴乃。
そんな彼女は、あやかしを見ることができる。そして引っ越してから、同じあやかしを見ることができるたくさんの人と出会っていく。
このお話ではあやかしや、それを見ることができる人がたくさん出てきますけど、あやかしが悪さをしたり戦ったりするわけではなく、隣人のように描かれていて、とても親しみが持てました。
琴乃にとって、あやかしは見えるのが普通。同じものを見ることができる友達もでき、少しずつこの町に馴染んできますが、そんな琴乃には気になることが。
それは時々、悲しくないはずなのに泣きたくなったり、ふとした瞬間に不思議と懐かしい思いが込み上げてきたりと、自分でもわからない感情が溢れ出すこと。
どうやらそれは、琴乃の前世に関係しているよう。
おぼろ気な前世の記憶をもちながら、現代を生きる人達の少し不思議なドラマ。
独特な世界観が魅力的な文章で綴られていて、幻想的な雰囲気がありました。
そして個人的に気に入ったのが、鯉やハムスターのあやかし。
面白くて可愛いあやかし達が、たくさん登場してくれます。
主人公の琴乃は「あやかし」が見える女子短大生だ。彼女は進学を機に親元を離れて一人暮らしを始めたのだが、以前、他の人とは違うものが見えるというので苦い経験をし、交流に積極的になれず、ひとりでいることが多い日々。
そんなある日、学校で人気者の女の子と親しくなるきっかけがあり、彼女もあやかしが見えることを知って……。
前世の記憶を断片的にしか思い出せず、目にする光景に戸惑ったり、湧いてきた自身の感情に悩んだり、涙したり。そんな心の機微が丁寧に描かれています。
あやかしが見える光景は主人公にとっては普通のこと。そしてあやかしのほうでも人間を驚かせるために存在しているわけでなく、彼らは彼らの日常を当たり前に送っています。
そんな人の世界とあやかしの世界とが、時に交わったり、すれ違ったりする日々の中で、前世で関わりがあったであろう人達との交流も広がっていくのが本作。
登場するアイテムや色、動物や植物など、物語を読み解くヒントになりそうなものがたくさん登場して、なんとなく細部まで書き込んである絵本を読んでいるような、そんな気分になりました。
琴乃は前世で何があったのでしょうか。双子の姉も今生に転生しているのか。いるなら誰? 不思議な謎もたっぷりな作品です。