世界電球は、果たして本当に人をしあわせにしたのだろうか

  かつてゲーテは、「光強ければ影もまた濃くなる」と書いた。
 光という正のものは、影という負のものを生み出してしまうという意味にも転用される。
 しかし同時に、影があるからこそ、光は光でいられる。

 幸福と不幸も同じ関係にあり、不幸を知らなければ、幸福もまた知ることは出来ないのだと私は考える。
 だから世界電球の光で塗りつぶされてしまった人々は、決して幸福などではなくて、単にプラスマイナスゼロの存在に過ぎないのではないだろうか。

 本作において真の意味で幸せなのは、両方を知ったシャノだと感じた。
 そして恐らく、結末がどうであろうと、ポラリスも。
 変わりたいから、変えようとしたのだから。

 幸か不幸かを決めるには、どちらでもないゼロという基準値を置く必要がある。
 あなたの基準値はどこにあるのだろうか?
 私の基準値は、この作品を読んだ自分と読まなかった自分の間のどこかにある。それだけは確かだ。


 素晴らしい小説をありがとうございました。