第2話"星"

そう言って、私はハルの元を後にした。

私は今、そういうモノの軌跡をなぞる場所にいる。

"旅"という行為自体を知っていても、それを行う他人や自分の、ずっと深くの目的や意味がわからないヒトが多いと思う。

何故ならそれを探ることさえ目的や意味なのだから、そんな遍く星々のようにある"意味"や"目的"を納得の行く一つの"意義"なんて物に全て固定するのは、きっと困難を極める。

だからこそ、その遍く"ゼロ"を"イチ"にするために今こう歩んでいこうとする。

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           星

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ヒトは古来より、地球という揺り籠に庇護され愛されてきた。

だが、ついに母なる星は墜落し、たちまち人は凍った酸素で血反吐を吐いた。

私は諦め、静観して、そのまま終わりを受け入れようとした。

だけれど、彼は、ニア、君は違ったね。

そうだ

[ニア、君は私と違い勇敢で果てしなく偉大だ]

[ガガーリン、それは買いかぶり過ぎだよ]

そう言う、彼はニール・アストロニーア、私の友人であり仲間であり、そして...

[全ての人と、私と君の為に"ゼロ"を作り出す、私にしかできないんだ、それをやるためなら私は]

あの時の私には聞くに耐えなかったんだ。

だから

[私は君が大切だ、限りなく何よりね、だから君のやりたいことは否定したくない、だけど言わせてもらうぞ...!]

[ガガーリン...私は...]

それ以上言うな、それだけだった。

[君がそれで人生を投げ出す必要はないんだぞ!?君はあんなにも頑張ったんだ!なのに...]

これは私の願いでしかない、この星の青さもこの男の強さも弱さも、私しか知らないのだ、だからこれだけは聞きたくなかった。

[これは私の我儘なんだ...そうさ、これが私のやりたいことなのさ、ユーリイ]

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   星が秒読みを始めて、もう幾つだろう。

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[この子が、私達の"ゼロ"、始まりではなく、始めるための宝モノ...]

"私達"の、いや

そうだね、ニア

[じゃあ...頼むよユーリイ]

私はニアの目を見て話す

最期だろうから、私は"私達"の答えを探しに行く。

[いつなんどきでも、一緒に居たのにな、最後まで一緒に居れなくて心底寂しいが...私は行くよ]

"ゼロ"、いつか会えたら嬉しいな、私達とこの星の、きっと最後の子なのだから。

[さよなら"私の青い星"、そしてまたいつか]

そうだ

[あぁ、必ずまた会おう、いつかの..."水星のアトラス"]

私達は、きっと巡り会える。

世界が一巡したって出会えるはずさ。

だからこそ、これは{古い英雄たちの希望}だ。

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       摩天楼A区画終点

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しばらく歩いていると小さな駅のような場所にたどり着いた。

ベンチの側によると壁に何か引っかかっている。

それはパッケージングされたレコーダーだった。

【A1】と青い字で書かれたパッケージの機器を手に取ると直ぐに音声が再生された。

ーー[本当に寒くて、美しい星だ。]ーー

ーー[きっと歩み出す君のために。]ーー

その二言を残しプツンとレコーダーの電源は切れた。

優しく美しい女性の声だった。

[そうか、彼女は"イチ"を見つけれた人なんだな]

[きっと私も歩み出そう、父さんや貴女の為に]

思えば懐かしく感じるような声だった。

私は"ゼロ"、だけれど、無ではない。

だから歩み出す、足跡だって残らないこの星で、軌跡をなぞる旅をする。

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         そして...

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[そうか、もうこんなところまで来たんだな]

どこでも見上げれば星があった場所を抜け出して、今はこうして、コンクリートのジャングルへと踏み出した。

草すら生えないこの土地を、人は【A区画付属居住群】と名付けたようだ。

立体的な液体固形物の迷路を正しく引かれた標識を頼りに進むと、整頓され絨毯の敷かれた数人のコロニーに辿り着いた。

体の半分以上を機械化し必死に生きてきた人達だ。

パネルやケーブルを作ったり作業している人達が多かったので、私は足早に歩いていると、長屋のような場所に座る長身の男性が話しかけてきた。

[こんばんわ、お嬢さん、なにかここに入用かい?]

[いや、特にはない]

[そうかいそうかい、まぁ急がずにゆっくりしていきな、こんな世界じゃ急いだって仕方ないぜ]

そう言い私に毛布を渡した。

また他にも3人ほど同居人が居るが、その人たちも毛布にくるまり寝転んだり、本を繰り返し読んだりしていた。

[私は"ゼロ"、あなたは?]

[俺はジョン、そしてコイツラは白髪のがマックス、茶髪のガキがレックス、金髪のがエックスだ]

それぞれ呼ばれれば手を上げるなり振り向くなりなにかしらアクションをした。

それを私は少し可愛らしく思った。

[そうか、よろしく頼む]

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       少し話していると

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[そうかそうか、やはり君はゼロなのだね!]

心底楽しいそうに彼は言う。

[どういうことだ?]

[ずっと昔に、ガガーリンはここに立ち寄って話をしてきたのさ]

ー[私はニアと共にゼロを見届ける事もできたが、それではつまらないからな、私は少し先に行く]ー

そうか、それが彼女の"イチ"であり"答え"でもあったのだろう。

[君はこれから歩みだすのかい?]

[あぁ、もちろんさ]

[そうか、君は母に似て強い子なのだね]

心底楽しそうに彼は話す。

[ひと目見て懐かしさを感じたよ、銀の髪に青い目、そして優しさ]

[二人の子なのだね、やはり]

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        遠い思い出だ

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多くの通信機や演算を得意とする私は、ブルーマーキュリー計画に参加し、ガガーリンとアストロニーアの帰還を出迎えた。

青い目の彼女と彼はやり遂げたのだ、"月にたどり着く"という大偉業を。

世界が反転し、この世の終わりが訪れる揺り籠で、初めて他の星へと降り立ったのだ。

だが、二人の顔は芳しいものとは言えなかった。

それもそうだろう、人間には限界があるのだ。

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         だからこそ

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[あぁ、そうだな、そうなのだろう]

そうだ、だから

[応援しているよ、君の旅路を、祈りとともに]

["頑張れ"]

そうか

[あぁ、ありがとう、また会おう、"ジョン"]

ジョンは懐かしむように、立ち上がり手を振った。

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       歩み出せる気がした

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背中にありもしない温かみを感じた。

私はきっと歩めるんだろう。

さぁ、行こう、行ける限りどこまでも、きっとどんな出会いもどんな事象も、イチを作り出すための数多のゼロなのだから。

だから、私は"ゼロ"、この旅路を通じて遍く"ゼロ"を"イチ"にするために、今こそ歩みだす人間だ。

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    それは、愛を形にする物語だった

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                    つづく

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