第十七話 修行①
お互いに木刀を構えた状態で向かい合う。
「まずはワシに打ち込んでみなさい」
無言でうなずいた後に間合いを詰めて木刀を振り下ろす......動作をしたところでコロウさんの木刀が俺の木刀を持つ手を打ち抜く。
「もう一回」
言われるがままに木刀を今度は横から薙ぎはらうような感じで振ろうとするも、コロウさんの木刀で阻まれる。
「何が悪いか分かったかな?」
「いいえ」
「レベルを上げ能力値が上がるにつれて速さは何倍にも何十倍にも何百倍にもなる。 速度が音を置き去りにするほどになると自身が閃光にでもなったかのように勘違いする事がある。 だがそんな音よりも速いものでもなお致命的な遅さがある」
コロウさんは説明しながらもゆっくりと間合いを詰め木刀を振り上げる。
「ここまでは刹那の様な時間に行われたお主の動作だが、振り下ろす直前に
まったく気にしていなかった事ゆえに目から鱗が落ちる思いだ。
だが、それが分かってもどうすればそれを無くせるのかと考えると何も思い浮かばない。
「剣を振り下ろし再び構えなおす動作の中にはさらに大きな隙ができておる。 これらの時間を限りなくゼロにする事こそが速さを活かすという事じゃ」
コロウさんは「ふぅ」と一息ついた後に再び語りだす。
「澱みなく動き続ける事で刹那の隙さえも残さない究極の剣技を『清流剣』と呼ぶ。 我が流派の3つの奥義の一つじゃ。 まずはこれを極めると良い」
「どうすれば清流剣を習得できるのでしょうか」
「清流剣には12の基本の型とそれをもとに発展させた144の型が存在する。 まずは基本の12の型を極め、次に残りの144の型を極め、そして独自の型を生み出すのじゃ。 基本の型を極めれば容易に隙をつかれる事は減るだろう。 この街のダンジョンには技を試す相手はいくらでもいる。 基本の型を極めるのにそれほど時間はかからないだろう」
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翌日の朝、コロウさんから教わった基本の12の型を練習するため
蟻の巣はもう少し蟻が増えたら行くとして、今度は近場にある別の虫の巣を捜し歩いていると目の前に巨大な蚊柱のようなものが見えてくる。
「なんかきもいわね」
ハンナが率直な感想を述べるが俺も同意見だ。
あの中には無数の非行型のモンスターが詰まっているのだろう。
色々な種類のモンスターが混在する場所は特殊個体が増えやすいという話を冒険者ギルドで聞いたことがある。
前方から何かが飛んでくる気配がしたためそれに合わせて剣を振るう。
蜻蛉型のモンスターが真っ二つになって地に落ちる。
剣の勢いを殺さないように軌道を変え次の一振りを放つ。
今度は蚊型のモンスターが真っ二つになって地に落ちる。
剣を振るうたびに徐々に勢いを増していくが徐々に統制が効かなくなり態勢を崩してしまう。
その隙に大量のモンスターが群がってくるのを手で振り払いながら再び剣を構える。
硬化のスキルで硬くなった俺の身体には虫の攻撃は通らない。
再び剣を構えて、モンスターに向かって剣を振り続ける。
『清流剣』の型を覚えた事で動きに無駄がなくなったが完全に使いこなすには時間がかかりそうだ。
延々と剣を振り続けていくが、モンスターはまったく減る気配がない。
俺の能力値だけが永遠と上がり続けていく。
スキルについても動体視力や遠視の能力を向上させる『超視覚』や飛行を補助する『滑空』を取得した。
それなりの収穫もあったのでさて帰るかと思っていると前方に奇妙な球体がある事に気づく。
興味を引かれてそちらの方に進んでいくとこのモンスターの群れの中でスヤスヤと寝息を立てている少女がいる。
少女の周りにはモンスターのような何かが少女を護るように周りのモンスターを排除している。
「
ハンナが珍しいわねという顔をしながらつぶやく
「精獣?」
「私たち精霊は生まれた時は意思を持たないエレメントという状態で生まれるけど、長い時間をかけて妖精になるわ。 でも妖精となる前にモンスターや動物に取り込まれる事が稀にあってそうした場合は精獣になるの」
「妖精と精獣ってどう違うの?」
「知らないわよ」
珍しく饒舌なハンナだったがそれ以上は知らないようだ
少女の周りにいる精獣は全部で4体。
それぞれが龍と鳥と虎と亀の形をしている。
精獣たちがこちらに気づいたのか、こちらを警戒しているようだ。
「うーん......どちらさまですか?」
少女もこちらに気づいたのか眠そうな顔をしながらこちらに声をかけてくる。
「えーっと......ジークと言います」
「アタシはハンナよ!」
何を答えればいいのか少し迷った末にとりあえず自分の名前を名乗る。
「ジークさんとハンナさんですね。 はじめましてわたくしはエリスです」
無数のモンスターに取り囲まれているとは思えないほどに穏やかな雰囲気で挨拶してくる。
周りのモンスターは4体の精獣が休みなく狩り続けているためこちらに近づいてくることは無いとはいえ不思議な感じだ。
まるで周りにいるモンスターを脅威と感じていないかのような
「この子たちはわたくしのお友達で青いのがセイ君、赤いのがスー君、黒いのがゲン君、白いのがハク君。 みんないい子なのよ」
「こんな場所で寝ていて何かあったの?」
流石にハンナも気になったのかエリスさんに問いかける。
「何かと言われましても眠くなったから寝ていただけですの」
「ダンジョンの中ですよ?」
「わたくしはこのダンジョンの中で生活していますの。 モンスターはこの子たちが倒してくれるのでレベルもどんどん上がりますし効率が良いのです」
「ふーん。 レベルをあげて何かしたいことでもあるの?」
「わたくしは『精霊使い』と言う職業なのですが上位の職業に転職するほど契約できる精霊さんの数がふえるのですわ。 わたくしたくさんの精霊さんと契約したいのでレベルをあげていますの」
「ふんふん。 でも弱いモンスターとばかり戦っていてもレベルはあがるの?」
「2倍の強さのモンスターから得られる経験値は5割増すと言われていますの。 つまり強いモンスターを倒すよりも、弱くてもたくさんのモンスターを倒す方が強くなれるのですわ」
「じゃあみんな弱いモンスターを倒そうとするんじゃない?」
「そうでもありませんわ。 強いモンスターから取れる素材はそれだけでも価値がありますが、希少であればさらに価値ははね上がりますの。 このダンジョンで取れるモンスターの素材はいっぱい取れるのでほとんどゴミですわ」
「ふーん」
「わたくしはお金に興味はありませんのでここで生活していますが、多くの冒険者の方はお金の稼げるダンジョンを好んで潜っているみたいですの」
「パーティーを組めば狩りの効率が上がると思いますが?」
「経験値とお金の効率は反比例しますの。 より経験値を稼ごうと考えるとお金は稼げませんので、わたくしと狩りを一緒にしてくれる方はあまりいませんの。 いても弱い方ばかりでして一緒に狩りをしても効率が下がるだけですの」
「ならジークと組むのはどう? ジークはこう見えてもすごく強いのよ! それにとにかくたくさんモンスターを倒すのが趣味みたいな感じだからエリスとも相性がいいんじゃないかな?」
「そうですの?」
「確かに、とにかく早く強くなりたいって思いがあるから数を優先しているところがあるけど......」
「ではわたくしと一緒にパーティーを組むだけの強さがあるのかをテストさせていただきますわ」
復讐のジーク〈全てを奪われた俺が『簒奪』スキルで最強になって復讐する!〉 クロネコ騎士 @samurai_3594
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