第十六話 蟻地獄

 セントラルにあるダンジョンの一つである蟻地獄ありじごくのダンジョンに来ている。


 コロウさんにまったく手も足も出なかった理由はわからないが、だからと言って悩んでわかる事でもないとあきらめる事にしたのだ。


 しばらくの間はコロウさんの所に通って手ほどきを受ける予定となっているので、その中でわかるだろうと思う。


 蟻地獄ありじごくのダンジョンはノービスのダンジョンのように階層が上がるたびにモンスターの強さが変わるというものではなく、広大なフィールドの中に虫たちの縄張りがあり、そこに1歩足を踏み入れると膨大な数の虫に襲われるそうだ。


 肩に乗ったハンナはやる気無さそうに果物を齧っている。


 黄金の果実のような美味しいドロップアイテムが無いのでモチベーションがあがらないのだろう。


 俺はアイテム袋から光り輝く瓶を取り出す。


「なにそれ?」


「このダンジョンの中には最高級の蜂蜜である『エンジェルハニー』を落とすモンスターがいるらしい。果物との相性がよくてこの蜂蜜で漬けた黄金の桃は絶品らしいな」


「ジーク何をしているの! 気合をいれるわよ!」


 相変わらず単純な性格である。


 冒険者ギルで購入したマップである程度のモンスターの巣の位置はわかっているが、この広いダンジョンの中の全ての巣の位置をギルドが把握しているわけではない。


 また、巣の位置や巣の中のモンスターの種類はそれなりの高い頻度で変わるためマップの情報が必ずしも正しいとは限らない。


 ノービスのダンジョンのように事前に相手の情報が全て揃っているうえでの戦いるというわけではない。


 常にイレギュラーが発生する事を考慮に入れたうえで狩りを行う必要がある。


 最初の巣に足を踏み入れると流砂のように砂が中央に向かって流れていき自然と中央へと引き込まれていく。


 といっても流砂は見た事がないのでこれが流砂なのかはわからない。


 なんとなくこの現象を見てそんな言葉が頭の中に閃いただけだ。


 前世ではサハラ砂漠どころか鳥取砂丘にも行った事が無いので仕方がないだろう。


 そんなバカげたことを考えていられるくらいにはまだ余裕がある状況だ。


 俺は流れに身を任せるように中央へと進んでいく。


 しばらく進んでいくと砂の中から大量の蟻が現れる。


 これでは蟻地獄ならぬ地獄蟻である。


 蟻のモンスターの頭を剣で叩き割る。


 上がった能力値の感覚的にランク3程度の強さだと思う。


 今の俺の能力値ならランク3のモンスターはどれだけいても相手にもならない。


 剣を振り回しながら蟻のモンスターをどんどんと狩っていく。


 蟻は無尽蔵に砂の中から湧き出て来るし倒した蟻は砂の中に沈んでいくため効率よく狩りを進める事ができる。


 倒した蟻が砂に沈んでしまうため、素材である魔石の回収はできないので金銭的な儲けは全くない。


 流砂の中央まで行けば巣の主の様なモンスターがいるかもしれない。


 そういったモンスターの素材は通常のモンスターの素材よりも桁違いに高く売れるのでそれに期待したい。


 黙々と蟻を狩り続けている段々と湧き出てくる蟻の大きさが大きくなっていく。


 見た目も何となく強そうなのは働き蟻と兵隊蟻の違いだろうか。


 強くなったとはいえ俺の敵ではない事に変わりはない。


 しばらく兵隊蟻を狩っていると新しくスキルを取得していることに気づく。


 兵隊蟻の持つスキルだろうか。


「ステータスオープン」


 ############

 ステータス


 名前:ジーク

 年齢:12歳

 レベル:1

 職業:簒奪者


(能力値)

 筋力:67595

 体力:65324

 頑強:72453

 敏捷:55698

 魔法:22947


(スキル)

 アクティブ:(Runk3)再生_Lv4、鬼神_Lv6、(Runk2)スラッシュ_Lv1、発勁_Lv3、共感Lv1、(Runk1)硬化_Lv6

 パッシブ:(Runk-)簒奪

(加護)

 木妖精の加護(微弱)

   回復力上昇(微弱)

   呪い耐性(微弱)

   毒耐性(微弱)

   木属性付与

(呪い)

 経験値取得率0%、転職不可

 ############


『共感』というスキルが増えている。


 このスキルはどうやら近くにいる相手と思考の一部を共有できるようだ。


 ソロでの戦闘にはあまり役には立たなさそうなので検証は後回しでいいだろう。


 あとでどんな感じかハンナで試してみよう。


 さらに流砂の中央へと進んでいくと巨大な蟻が巣の中央にいた。


 女王蟻だろうか。


 砂の中から鎧を着こんだ蟻が大量に湧き出てきた。


 見た目は兵隊蟻よりもずっと強そうだ。


 女王蟻の護衛だろうか。


 女王蟻へと近づいていくとそれを妨げるように護衛の蟻が威嚇なのかギジギジと耳障りの音を発してくる。


 それを無視して進み、遮るように進み出てきた護衛の蟻を倒していく。


 護衛の蟻が倒されていくとどこからともなく働き蟻や兵隊蟻も湧き出てくる。


 女王のピンチに慌てて出てきたのだろうか。


 ここで女王を殺してしまっても良いが、この狩場は能力値上げにちょうどいいのでキープしておきたい。


 女王蟻を生かしておけばまたすぐに蟻は増えるのではないだろうか。


 護衛の蟻を全て仕留め、手近な蟻を一通り片付けた後に流砂の外側へと走り去る。


 蟻の方も無理にこちらを追ってくることはないようだ。


「なんであのでかいのを倒さなかったの?」


(女王蟻を残しておけばすぐに蟻を増やしてくれると思ってね)


 共感を使ってハンナに話しかける。


「なんでなの?」


 どうやら共感はハンナには届かないようだ。


 もしかしたら、お互いに共感のスキルを持っている必要があるのかもしれない。


 せっかく新しいスキルを手に入れたが使い道はなさそうだ。


「女王蟻を残しておけばすぐに蟻を増やしてくれると思ってね」


「ふーん。 でも蟻は蜂蜜を落とさないでしょ?」


「蟻が増えるまでにはしばらくはかかるだろうからそれまでには蜂の巣も見つかるんじゃないかな」


「うーん」


「セントラルの有名なスイーツのお店を教えてもらったんだ。 もう少し狩りをしたらそのお店でおやつにしようか。 イチゴのショートケーキが美味しいらしいよ」


「食べたい!」


 肩の上でハンナがショートケーキを想像しながら涎を流している。


「そのためにもそろそろお金を稼がないとね」


「買い占めるわよ!」


「それは他の人に迷惑だからやめてあげてね」


 ・


 ・


 ・


 毎日ダンジョンでの狩りが終わったら可能な限り道場に来るようにと言われたので、ダンジョンからの帰りにコロウさんの道場に立ち寄る。


 前回の手合わせでなぜ一度も当てる事ができなかったのかの答えがわかるかもしれないという思いがあったためかいつもよりも早めに狩りを切り上げてしまった。


「ずいぶんと早かったのう」


 道場へ行くとそこには俺の帰りを待つようにコロウさんが出迎えてくれた。


「自分に足りないものを学べると思ったので」


「若いのにずいぶんと殊勝な心がけだのう」


 コロウさんが何かに納得したのかウンウンとうなずいている。


 ハンナもそれにつられたのかウンウンとうなずいている。


 こっちは何も考えていないだけだろう。


「昨日の今日だというのに身に纏う気が目に見えて強くなっとるのう。 だが使いこなせなければ意味はないのう」


「『気』ですか」


「そのうち見えるようになるだろう。 だがその前にやるべき事が山のようにある。 まずはお主の致命的な欠点を治さんといかんな」


「致命的な欠点ですか?」


「そうだ。 お主には戦闘においての致命的な欠点がある......と言ってもお主だけのものではないがな。 誰もが持つその欠点をどうやって無くすかが重要じゃ」


「誰もが......ですか」








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