第十五話 力と技
アルマさんとの別れを済ませセントラルの冒険者ギルドへ向かっていく。
セントラルの街並みはノービスの街と比べてはるかに栄えていたが、冒険者ギルドの規模はその比ではないようだ。
冒険者ギルドの中へと入っていくと中では100人くらいの冒険者がくつろいでいた。
奥にあるカウンターには5人の受付のお姉さんが列をなした冒険者の対応を忙しそうにしている。
俺はと言うと購入したセントラルのダンジョンについての資料を眺めている。
セントラルには5つのダンジョンがある。
『
トラップだけではなく宝箱の数も多く、中身も有用なものが多いため斥候職がいるパーティーに人気のダンジョンだ。
『
『
経験値効率は高いが油断するとモンスターの津波に飲み込まれるリスクのある難易度の高いダンジョンでもある。
俺の能力値を上げるのに適したダンジョンだろう。
『
『陽炎』『巨人』『蟻地獄』に比べて難易度は高めの上級者向けのダンジョンらしい。
『
攻略完了している階層は100を超えているらしいがどこまで続いているのか見当もつかないらしい。
いつか俺が踏破したいと思っている。
資料を読み終わったところで冒険者ギルドを後にする。
早くダンジョンへ行きたい気持ちもあるがまずはガンテツさんから紹介されたコローさんに会うのを先にした。
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ガンテツさんから教わっていた場所に来るとそこはかなり大きな道場だった。
この世界にも道場があるんだと少し驚きつつも中へ入っていく。
「だーれじゃ?」
道場の奥には柔道着の様な服装の一人の老人が座っており、それに相対するように彼の弟子と思われる人たちが立っている。
「ノービスの街のガンテツさんからの紹介でコローさんを訪ねてきました」
「ワシが
虎狼さんがこちらを寝踏みするかのようにジロリと眺めてくる。
「少し試してやろう」
虎狼さんが木刀をこちらに投げてよこしてくる。
「時間無制限3本先取と行こうかな。 良いかな?」
虎狼さんの意図をくみ取り無言でうなずくと木刀を構える。
それを見た虎狼さんは木刀を手に持ち無造作にこちらへと近づいてくる。
「遠慮はいらん」
再び無言でうなずくと、虎狼さんとの距離を一気に縮める。
とりあえず様子見を兼ねて1割程度の力で木刀を振りぬく。
しかし、余裕を持って躱されてしまう。
2割......3割......徐々にギアを上げていくがまるで当たる気配がない。
一気に全力に近い速さまでギアを上げて放たれた一振りが虎狼さんを捉えたかと思ったが木刀は空を切り、逆にこちらの首筋に虎狼さんの木刀がゆっくりとあてがわれる。
「まずは1本」
俺の木刀はまるで当たる気がしなかったが、虎狼さんのあんなゆっくりとした木刀の動きを躱す事ができなかった。
お互いに再び対峙した状態で、再びこちらから距離を詰めていく。
虎狼さんの動きに注意を払いながらも全力の打ち込みを繰り返すがまったく当たらない。
気が付くと目の前には道場の天井が見えている。
何をされたのかも分からないまま、気が付いたら仰向けに倒れていたのだ。
「2本目じゃな」
後がなくなった俺は『鬼神』のスキルを発動し更に速度を上げていく。
縦横無尽に道場内を駆け巡りながら何度となく木刀を虎狼さんに打ち込むがまったく当たる気がしない。
速度では圧倒的にこちらが勝っているはずなのにまったく攻撃が当たらないという現実に戸惑いながらもひたすらに木刀を打ち込み続ける。
しばらくすると虎狼さんはその場に立ち止まり木刀をつかってこちらの打撃をそらせていく。
下への一振りは横に流され、左への一振りは上に弾かれて空を切る。
まるで磁石の同極同士が弾かれるかのようにこちらの打撃が逸らされてしまう。
「参りました」
あまりの力の差に素直に負けを認める。
「力も速さもその若さにしては十分な物を持ってるが『技術』が付いてきていない。 それ故に自身の強さを十分に活かせていないのじゃろう」
虎狼さんが少し考え込むようなそぶりを見せる。
「うちの道場にしばらく通うといい。 学べるものもあるじゃろうしな」
「はい」
俺はお礼の気持ちを込めて虎狼さんに一礼をする。
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Side 虎狼
ある日一通の電報がワシの元に届いた。
昔に冒険者としてパーティーを組んでいたガンテツからのもので、面白い男を見つけたので剣を託したという内容だった。
ガンテツは冒険者を引退後はノービスの街で鍛冶師をしているが、ノービスの街に置いておくには惜しいほどの腕を持つ男だ。
セントラルの街にもガンテツを超える鍛冶師はそう多くはないだろう。
そんなガンテツがその生涯を賭して成し遂げようとしている剣を託そうと思った男ならば一度会ってみたいと思った。
それから数日が経ったある日、彼がワシの前に現れた。
「だーれじゃ?」
確認の意味を込めて問いかける。
「ノービスの街のガンテツさんからの紹介でコローさんを訪ねてきました」
「ワシが
少年はまだ天命を授かってそう経っていないように見えるが、その身に宿す『気』は常人のそれではない。
短期間でどうやってここまで力を伸ばしたのか興味をそそられる......少し試してみるか。
「少し試してやろう」
少年に木刀を渡し、ワシもまた木刀を手に取る。
「時間無制限3本先取と行こうかな。 良いかな?」
こちらの意図を察したのか少年が無言でうなずく。
あえて隙を晒しながら少年に近づいていくが警戒しているのか少年はその場から動かない。
「遠慮はいらん」
少年は無言でうなずき、そして一気に距離を詰めてくる。
なかなかの速さだがまだ加減しているようだ。
剣筋を事前に予測しそれをギリギリで回避する。
少年の剣が速さを増していくがその単純な剣筋は読みやすく容易に回避可能だ。
徐々に速さは増していくが剣を振りぬく動作の中に無駄が多すぎるためどれほど早くてもワシに触れる事は無いじゃろう。
少年の一瞬の隙を突き木刀を首筋にゆっくりと当てる。
「まずは1本」
再び距離を取ると、少年が怒涛の勢いで木刀を振り回す。
少年の剣の軌道を避けつつも隙だらけの足に足払いをする。
少年の身体が宙を舞い仰向けに倒れる。
「2本目じゃな」
再び距離を取ってお互いに向かい合う。
少年の身体から発せられる『気』が急速に強くなる。
先ほどよりも更に速い速度でこちらへと詰めてくる。
だが動きはより単調で無駄が多くなっているため先ほどよりも簡単に躱す事ができる。
しばらく木刀の回避に専念していたがどうやらそれすらも必要なさそうだ。
ワシの木刀を少年の木刀の軌道に垂直でぶつかるように振るう。
完璧なタイミングで衝突したワシの木刀の打撃が少年の木刀の軌道を歪める。
次々に振るわれる少年の木刀の軌道に合わせて木刀を振るっていく。
これは『護身剣』と呼ばれる剣の技術の中の一つだ。
「参りました」
少年が負けを認める。
「力も速さもその若さにしては十分な物を持ってるが『技術』が付いてきていない。 それ故に自身の強さを十分に活かせていないのじゃろう」
ガンテツが期待する気持ちが分かる気がする。
面白い少年だ。
「うちの道場にしばらく通うといい。 学べるものもあるじゃろうしな」
「はい」
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