第十四話 高速便

 高速便の受付に到着するとそこには1羽の巨大な鳥が鎮座している。


 巨大な鳥の近くにいた青年がこちらへと向かってくる。


「ご予約いただいたジーク様とハンナ様ですね」


「はいそうです」


「そうよ」


「ボクは魔獣使いビーストテイマーのアルマ。 そしてこの子はジャイアントフライドチキンの花子」


「この鳥が高速便ですか?」


「花子はボクをいれて最大で7人まで乗せて飛ぶことができるんだ。 速度もすごく速いからセントラルまで半日もかからないと思うよ」


「そんなに速いのですか?」


「花子のスピードは凄いんだよ。 残念ながらスタミナや力強さはそこまでではないから長距離の輸送や多人数の輸送には向かないけどね」


「あんた林檎食べる?」


 ハンナがジャイアントフライドチキンの花子の鼻先に黄金の林檎を持っていく。


 ハンナごと丸呑みされるのではと心配していたが花子は器用に黄金の林檎をくちばしで受け取り美味しそうに咀嚼する。


「そろそろ出発の時間になったので 二人とも花子に乗ってもらっていいかな」


 花子の体には馬で言うところの鞍や鐙のような役割をする器具が装着されている、俺はその中の一つに腰を掛ける。


「風がかなり強いですがハンナさんが落ちないようにだけお願いしますね。 落ちた場合は途中で拾いに降りるという事ができないので」


「アタシとジークは精霊契約を結んでるから離れる事はないわ」


「それは凄いね。 ボクもいつか『騎獣』のスキルを覚えて道具無しで一緒に空を飛べるようになりたいんだよね!」


「ふーん。 それって大変なの?」


「ボクの今の職業である『魔獣使い』はモンスターと意思疎通をしたりたまに相性のいいモンスターと仲良くなったりできるスキルを覚える事ができるんだけど、『騎獣』のスキルは『魔獣使い』の上位職である『魔獣騎士』なんかの職業に転職しないと覚えられないんだ」


「どうすればそれになれるの?」


「転職の条件を満たす必要があるんだけど『魔獣騎士』になるためにはまだレベルを上げたりスキルを鍛える必要があるんだ。」


「ふーん。 大変そうね」


「そうだね。 魔獣使いは仲良くなったモンスターと一緒に戦えるからレベル上げはしやすい職業なんだけどレベルが上がってもボク自身の能力値は上がりにくいので少し大変かな。 高速便の仕事もあるからあまりダンジョンに籠ってレベル上げと言う事もできないしね」


「アンタも大変なのね」


 ハンナは何かに納得がいったのかウンウンとうなずいているが、きっと何もわかっていないのだろう。


「さて、準備もできたようだし出発するよ」


 アルマの合図とともに花子が翼を大きく羽ばたかせる。


 ものすごい風圧と共に一気に高度が上がっていく。


 森を上から見下ろせるような高さから更に上昇を続け、雲の上まで登っていく。


 ノービスの街を上から見下ろすと意外と街が小さく見える。


 眼下に広がる森を見渡していくと小さな村がいくつも点在している。


 ジークとハンナが住んでいた村もこの広い森のどこかにあるのだろう。


 ・


 ・


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 しばらく空の旅を楽しんでいると少し先にモンスターの群れが現れる。


「ロックバードですね」


 アルマさんもモンスターに気づいたのかボソリとつぶやく


 ロックバードは岩の様な硬い身体を持つ体長1m程度の鳥のモンスターだ。


 ランク3のモンスターで飛行速度はそこまで速くないが硬い身体を活かした特攻が厄介なモンスターだと聞いたことがある。


「大丈夫ですか?」


「花子の速度なら問題ないだろう。 仮に戦いになったとしてもこの程度のモンスターに後れをとる花子じゃないか安心してもらって構わない」


 アルマさんの言葉に無言でうなずく。


 地上戦ならともかく空の上で俺にできる事は何もないのでアルマさんと花子に任せるほかない。


「まっすぐ行くよ!」


 アルマさんが花子に指示を出すとともにアイテム袋からいしゆみを取り出す。


 金属製の巨大で武骨な弩を構えたアルマさんの身体を不思議なオーラが覆っていく。


「遠弓!」


 アルマさんの掛け声と共に放たれた弩の矢は空気抵抗を無視したかのように減速する事なく飛んでいき遠くにいるロックバードを難なく貫く。


 次の矢をセットし構える事にはロックバードとの距離もかなり近くなっていたが慌てることなく再び弩を構える。


 構えた弩に大量の力を込めているのか凄まじいオーラが弩から放たれている。


「乱れ撃ち!」


 再び弩から放たれた一本の矢は無数に分岐して前方のロックバード達を貫いていく。


「凄い」


 自然と俺の口から驚きの声が漏れる。


「残りのロックバードは無視しましょう。 力の差を見せているので彼らも無理にこちらを追ってくることは無いでしょう」


「魔獣使い自身の戦闘能力はそれほど高くないという事でしたが十分ダンジョンでも通じる強さなのではないですか?」


「残念ながらボクの強さはそれほどではありません。 ただ空の上での戦闘ではできる事は限られていますので、その限られたできる事を突き詰めていった結果ですね」


「限られた事ですか」


「『弓』系統のスキルについては『魔獣使い』では覚える事ができないのでオークションでスキルストーンを購入して覚えたんだ。 剣や槍は空の上ではあまり有効ではないしね。 弩はセントラルの職人さんに作ってもらった特注品で、消耗品である矢も含めてかなり出費は大きいですがそれを十分に補ってくれるくらいには頼れる相棒です」


「凄いですね」


「それほどでもないですよ。ボクには花子がいたから早く成長する事ができたけど、それでも銅級になったのは18歳になってからでした。 ジークさんは見たところまだ10代前半くらいのですよね? その若さで銅級になれるなんてすごいと思いますよ」


「ジークは凄いんだから!」


 暇そうに黄金の桃を齧っていたハンナが話に入ってくる。


「そうだね。 ボクがいままで乗せた事があるお客さんの中では最年少だと思うよ」


「そういえばアルマさんがテイムしているモンスターは花子だけなのですか?」


「花子のほかにも5体ほどテイムしているモンスターがいるけど人を雇ってダンジョンでレベリングをしているんだ。 テイムしているモンスターの稼いだ経験値の1割はボクにも還元されるからね。」


「凄いですね。 何もしないでもレベルをあげられるなんて」


「ここまでくるのにだいぶ苦労したけどね。 魔獣使いは頼りになるモンスターをテイムするまでは大変な職業なんだ。 それに主力のモンスターを失うと一気に戦力がダウンしてしまうからね」


「アンタも苦労してるのね」


「そうだね苦労はも多かったけど花子達と仲良くなれたし今は幸せだよ」


 アルマさんの言葉にハンナがウンウンとうなずいている。


 その言葉に何か感じるところがあるのかあるいは何も考えていないのか。


 ・


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 ・


 途中に何度か休憩を挟みつつも空の旅は順調に進んでいった。


 永遠に続くかと思われた広大な森を抜けてさらに進んでいくと巨大な都市が見えてくる。


 目的地である『セントラル』だ。


「どうやら着いたようだね」


 セントラルにある高速便の離着陸場にゆっくりと高度と速度を落としながら向かっていく。


「おつかれ花子」


 ハンナが花子を労いながらお礼代わりに黄金の果実を与えている。


 花子の方も嬉しそうに果実を食べている。


 どうやら旅の中で仲良くなったようだ。



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