5夜 『食欲』
あれから...終夜が俺に死体を見せてきてから5日ほどたった。俺は終夜の命令通り琴宮の『護衛』をし続けている。しかし、あの日以降、神声教会の奴らを、あの特徴的な白い服を着た人間を見ないし、ましてや襲われたことなんて一回もない。
もちろん変装をしていて隠れながら命を狙っているというのなら元も子もないが...
琴宮は学校の生活になれてきて、もう友達ができたのか、いつも楽しそうに笑っている。
その笑みからは巨大な組織に命を狙われているなんて少しも思わさせない。
俺も実際、全部終夜が俺をからかうためについた嘘なんじゃないかと度々思ったが、その都度見せられた死体と自身の能力 が思い出される。
終夜はあの日からほとんど俺の前に姿を見せることはなくなった。姿を見るのは琴宮を家に送っていき家に着いた時に玄関で見る程度だった。
俺はというと相変わらずクラスにとけ込んでおらず、琴宮の『護衛』では琴宮と常に同じクラスにいるか一緒に登校したり下校したりするくらいだった。登校と下校のことについてどこからかもれたのかクラスの男子たちから初めすごい目で見られていたが、今ではそうでもない。しかし一応 能力である「人払い」は使おうと思っている。
一日が終わりそして一日が始まる そんな車輪や歯車のように同じような日々は繰り返される。
そして今日の授業は終わり今日も琴宮を家に送っていく。
「寒いですね、夕立くん。今年はつい前まで暑かったのに今はもうこんなに寒い。」
「...そうだな。」
確かに寒い、これから11月になりことさら寒くなるのだろう。
「なんか、この寒さ懐かしい感じがするんだよなぁ。」
寒さだけではない、最近あらゆる感覚が懐かしくそして新しく感じる。矛盾するようだが、たしかにそう感じれるのだ。
「どういうことですか?」
「いや、なんていうのか...説明しずらいな...」
そんな会話をしながら坂を上り琴宮亭に着く。
鍵を開け中に入れば昨日、一昨日と同じように部屋の中なのに黒いコートを着た終夜が出迎える。
「おかえり心葉、夕立くんもお疲れ様。今日は寒かっただろう、一応 紅茶を用意した。心葉手を洗ったら飲みなさい。夕立くんもどうかな。」
微笑をその顔に浮かべ終夜は話す。
今日は寒かったし、門限まで時間がある。せっかくだから寄っていこうと思い琴宮亭に入り 上がる。
リビングにて
「美味しいですね。琴宮の方が美味しいですが。」
終夜が淹れた紅茶は美味しかった。琴宮の入れたものとはまた違った良さがある。
「一言余計だが美味しいならまぁいい。」
終夜も自身で淹れた紅茶をすすり、満足そうに微笑む。
終夜の隣に座って紅茶を飲んでる琴宮を視界に入れつつ終夜に向かって話す。
「終夜さん、少し外で話いいですか?」
琴宮亭 庭にて
「それでなんだい、夕立くん?」
「2つほど話したいことがありまして。
まず、俺から数日たちました。あなたは俺に琴宮の護衛を任せた。でも、襲われるどころか、教会の奴らの影も見えない。本当に教会は琴宮を狙っているんですか?それとあなたはこの数日何してたんですか?」
終夜はタバコの箱を出しつつ一呼吸おいて話し始める。
「まず、2つ目の質問に答えよう。今まで私は君たちが学校に通っている間この街にいる教会の偵察隊や工作員をできるだけ殺した。軽く20人ほどだ。」
この人はこの短期間でそんなにも殺したのか、自身も殺人鬼だったが終夜のその行動に唖然とする。
「そして、1つ目の質問の答えだが、私も君に話そうと思っていたんだ。」
終夜はタバコに火をつけ煙を1回吸って吐き話を続ける。
「琴宮心葉が魔術協会に関わりのある人物であり『器』だったとしてもこの短期間で20人もの協会の連中が集まってたとは考えにくい。私も最初この街の組織の人間の多さに驚いた。しかし今日、奴らの持ち物や機材を調べてわかったことなんだが...」
灰皿にタバコを押し付け火を消す。そして一呼吸おき言葉をためながら吐く。
「どうやらこの街にいる教会の連中は元々この街にいる殺人鬼、より詳しく言うと『異端』 吸血鬼や人狼、鬼人を殺しているそんな狂人を探しているようなんだが…君 なにか心当たりはあるか?」
満面の笑みを浮かべながら終夜はこちらを向き俺に問う。
「それは...俺ですね...」
「だよねぇー、君だよねぇー...全く、このくそやろう。」
ふざけた口調で笑いながら言っているが目は笑っていないのがよく分かる。
首筋から汗が出る、寒いせいかすぐに冷え、その冷たさは首から背中へと流れ体が震える。
「まったく、今のところは雑魚しかいないが、教会もじきに異変に気づき対策をとってくるだろうが、偵察隊をそのまま放っておくわけにもいかない。私は今まで通りにやるから君も心葉を学校にいる時に頼む。」
不機嫌になりながらも終夜は冷静に話す。この何日か少ししか話していないが終夜はふざけたりおちゃらけたりする時 逆に焦ったりしそうな時でも常に冷静に物事を整理し考えている。
「それともうひとつ。」
「3つあったのか、それでなんだい?」
「うちの学校あと2週間したら学園祭が土日にあるんですが、琴宮は参加させるんですか?」
琴宮はもうすぐ学園祭があることを知った時目を輝かせて楽しみにしていたが、狙われている以上は参加させない方がいいのかもしれない。
「別にいいんじゃないか、心葉が出たいというのなら。」
「でも、学園祭なら人がたくさん来ますよ。終夜さんはその分琴宮を守るのがむずがしくなるかもしれないですし...」
予想外の答えが帰ってきたので驚き聞き返す。
そうすると終夜ため息混じりに切り返す。
「大丈夫さ。私は終夜新月、どんなものが心葉に近づこうと依頼通りに守り通す。それより君は自身の心配をした方がいい。まだ素性は割れていないようだけれど君も狙われているんだからな。」
今までは自身は狩る側だった。それがいつの間に変わり自身が狩られる側になってしまった。その事実は実感はないがなにか重いものに押さえつけられるような不安感が湧いてくる。
そんな俺の様子を見て終夜は口を歪ませ笑う。
「心葉を君が学園祭中護衛してくれるなら、私は君たち2人を守ろう。安心していい。」
そういうと終夜は俺の髪をわしゃわしゃと掻き回し家の中に戻って行った。
???にて(日本ではないどこか)
暗い暗い部屋の中には丸い机、 即ち円卓があった。
その円卓はどれほど前から存在するのかは分からないが。
円卓の周りには13脚の椅子が等間隔に並べられている。
椅子は金箔で装飾されていたようだがところどころ剥がれ落ちていてそれぞれに数字が刻まれている、13脚のうち人が座っているのは5脚のみ。
部屋に誰かが入ってきた。光は一瞬部屋に差し込むが再び部屋は閉められ光は消えた。部屋に入ってきた張本人が部屋ののかにあるランプをつけて照らした。
「集まったのおまえたち5人だけか。」
入ってきた人物はもう既に60を超えたであろう老人
白髪と白い髭を携えた低い背の男だ。
「5人も集まれば妥当だろう。俺たちはあんたらのこときらいだからな。」
ⅩIと刻まれた椅子に腰をかけ円卓に足を置いているまだ青年ともいえない年頃の少年が声変わり中なのか少し高い声で老人に吐き捨てる。
「書類は全員に読ませていますし、集合もかけました。しかし我々も多忙ゆえ今日はここにいる5人しか来られなかったのです。どうかご容赦を。」
Iと刻まれた椅子に座っている青年が冷静に老人にこの状態について話す。
「まぁ5人来ただけよしとしよう。それで例の件…この中の誰が行く?」
老人は5人をそれぞれ見つめつつ『I』に対して問う。
「そうですね。私が直々に行きたいのですが、あいにくスペインに行かなくてはならないので...あなたはどう思いますか?」
『I』はⅡと刻まれ椅子に座る男に対して聞く。
男は不思議な雰囲気を纏っていた20代のような若々しさがあると思えば長年修羅場を超えてきた壮年のような落ち着きもあった。
『Ⅱ』は考える間もなくすぐに『I』の質問に答えた。
「最近新しく能力を与えられた彼がいいんじゃないか。」
『Ⅱ』はⅨと刻まれた椅子に座る筋骨隆々な男を見つめながらいう。
「...俺だったらすぐに行ける。弱い奴らばかりで体がなまっていたんだ。日本だったか?」
「そうです。日本の東京ですよ、君が行きたいならそれでいいんだが、君たちはどうだい?」
『ⅩI』そしてⅢと刻まれた椅子に座る女に向かって問いかける。
「俺は別にいいぞ。面倒だし、こういうことは脳筋に任せた方がいい。」
「私も異議は無い。」
「了解だ、2人とも。 そういうことで彼が行くことになりました。」
『Ⅸ』は椅子から立ち上がり部屋を出ようと老人の前を横切る。
「頼んだぞ。『IX』」
「『異端狩り』はしてくるがターゲットは1人か?」
「そうだしかし、女...琴宮心葉は生け捕りにしてこい。腕の1本や2本は無くてもいいが、殺しはするな。琴宮心葉をまもる者がいるのならそいつらは殺しても構わない。」
それを聞き邪悪な笑みを浮かべ『IX』は部屋を去っていき。
ほかの4人と老人も部屋から出ていく。
部屋には円卓と静寂のみが残された。
夕立の空(ゆうだちのうろ) 音宮日弦 @HYUS
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