最終回「阻む障壁」

思わず、ガバッと上半身を起こす。

軽い動作で、瞬月さんは避けて変わらず笑っている。


「ななな、なんでいるんですか!?」

「参謀長が、一文無しになって帰れなくなっているから迎えにいってやれって」

「そんなこともわかるんですね……」


ラプラスの悪魔ってすげぇ。

しかし、折角任してくれた任務がこんな結果になってしまい顔が見れずに下を向いてしまう。


「あの……僕……」

「命に支障はないな?」

「え、ああ、はい。

そういうのはないです」

「なら良い。

正義の帯雷体も良い奴って訳じゃないっぽいが……想定よりは遥にまともな奴みたいだしな」


頭を撫でながら、瞬月さんは優しい声で慰める。


「確かに、死人は出さないに越したことはない。

だけど、この世界はそんなに甘く出来ていない」


膝を曲げて、目線を合わせて父親がワシャワシャするように先程より強めに頭を撫でる。


「次があるんだろ?

その時に、懲らしめてやれ」


『また度会った時は、息の根を止めてやるから捕まるなよ!!』


正の捨て台詞を思い出して、少し気が緩んだ。


「……そうですね」

「だろ?」

「はい!帰りましょう瞬月さん!!」

「だな」


チラッと、柵の上を見たがいつの間にかカゲは居なくなっていた。


(散歩にでも行ってるのかな?)


事務所に着いたときも居なかったし、そのうち帰ってくるかな?


瞬月さんの能力でビルの下まで下ろしてもらうと、そこからは歩いて帰ることとなり、2人歩きながら今日あったことや、あいつ…篝正の事を話しながら駅に向かって歩いていくのだった。

後、勝浦さんが言っていたように瞬月さんのテレポーテーションは……なんというか、身体をバラバラに分解して再構築している感じがしてすこか気分が悪くなった。

……

………

「グレート・フィルターという考え方がある」


影を持たない、彼は楽しそうに先輩と話す自身の契約者を柵の上から見下ろしながら誰かに伝えるわけでもなく虚空に向かって話しかける。


「元々は、宇宙関連の…フェルミのパラドックス関連の話ではあるが。

少し前の話だが、このグレート・フィルターとロイデアを関連付けた知的生命体がいた」


風が吹いても、月が雲に隠れても陽炎である彼には誰も干渉できない。


「技術の壁、生命の壁、めったに越えられない壁が世界には存在して…だからこそ、宇宙人を地球人は見たことがないのだと。

その壁を越えられなければ、その文明に訪れるのは滅亡に他ならないと」


「ロビン・ハーンソンは、急激に進歩していく技術と増加していくロイデアの被害に直面した時に、こんな言葉を残したそうだ」


『Whatever the reason or theory, if we cannot understand and control them, we will never get over the hump.』

ー理由や理論がどうであれ、彼らロイデアを理解し制御出来なければ、我々は壁を越えることは出来ないだろうー


ロイデアは、その誕生と仕組みにはまだまだ未解明なことも多いが、出現条件については『エネルギー反応が、突発的であれ継続的であれ生産されている所は出現確率が格段に上がる』と結論が出ている。


故に、科学の進歩にはロイデアの存在が付き纏う。


制御しなければ、対処しなければ、この先人類は宇宙を越える力を手にしたとしても変わりに地球を手放さざるおえないだろう。

それも、宇宙にロイデアが居ないという前提条件の話であるが。


「せいぜい足掻けよ、契約者」


君1人の力で何かが変わるということは決してないだろうが、急速に進化していく君たち人類のことだ、君が死ぬまでこの薄氷が割れないとも限らない。


「さて、戻るとするか」


これ以上は、文句を言われそうだ。


柵から一歩踏み出し、重力に従ってスワンプマンカゲは街中に消えていく。


ここは、この世界とは少し違う21世紀の極東の島国日本にっぽん

残された神秘が蔓延っていて。

その神秘に生活が脅かされている人がいる。

讃えられなくても、隠れなければいけなくても、そんな神秘の力を借り今日も暗躍をしている人が彼らに以外にもきっといるだろう。


これは、そんな日常の話である。


『Don't forget.They are not gods.』

ー忘れるな。あれらは神でもなんでもないことをー

-哲学者アイディン・エイド

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最果てからの来訪者と善人ではない僕らの正義論 朝方の桐 @AM_Paulownia

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