11「また会った時は」

「いやー。

 仮にも、能力者同士の戦いとは思えない戦いっぷりだったわ」

「ふざけんな……死ね、このニートロイデア……」

「はは、逃げられたな」

「あーー、瞬月しづきさんになんて言おう……」

「まあ、また会うことになるだろうよ。

 その時に持ち越しだな」


 頭の頂点にあった太陽は、赤く地上を照らしている。

 完全に、帯雷体としての生成能力のことを忘れていた俺と、多分だが「自分の行った行為を正しいと認識させる」能力持ちの正のバトルは、バトルと言って良いのかすら疑問に思うレベルの子供じみた喧嘩だった。


 その喧嘩が終わったのは遠くで聴き慣れたサイレンが聞こえたからだ。

 特務機関が近くに来ているということである。

 そちらの方を見てみると、煙が上がっていた、知らない内にロイデアが出現していたらしい。


『特務機関はまずい。

 お前と喧嘩している暇なんてない!!じゃあな!!』

『は、ちょっと待てよ!?』

『また度会った時は、息の根を止めてやるから捕まるなよ!!』


 何処にそんな体力が残っていたのか、かがりただしはサイレンを聞いた途端銃を拾って何処かに行ってしまった。

 その逃げ方は、一応でも正義の執行人を名乗っていたとは思えない程度にはザコの悪役っぽかったのはここだけの話である。

 そんな奴を追いかける体力すら残っていなかった自分は、小さくなる背中に向かって叫ぶことしかできなかった。


『お前こそな!!』


 そして、体力とアドレナリンが切れて動けなくなった僕はカゲスワンプマンにまたしても俵担ぎされて適当なビルの屋上に避難している今に至る。

 例の機械は、死んだ時の死体にあったのでご臨終してしまった。


「まさか、こんな直ぐに死ぬなんて思わなかったがな」

「……よくよく考えてお前中々のチートロイデアだな」

「そうだな、否定はしない」


 あの時落ちた雷は互いに違う役目を持って、地上に降り注いだ。


 1つは、蘇生生成のための雷。

 そして、もう1つは殺す為の雷。


『私の能力は、全く同じ個体の生成である。

 という存在が2人居ても良いというのであれば今度からは雷は1つにしようか?』

『……2ツデオネガイシマス』


 雷の用途を聞いた時、彼はニコッと笑顔でそう言った。

 僕は、頰がピクッピクッと動くのを我慢して片言でそう言い切った。


「あいつのことは今はいいや。

 なあ、釣りってなんなんだ?」


 彼は、その言葉を聞いた途端豹変した。

 流石に何もないというのはあり得ないだろう。

「……釣りというのは、特定のロイデアを最果てより誘導して帯雷体になる行為のことだ」

「……はあ!?ロイデアの襲来は、予測不可能の自然現象だろ!?」

「大部分はな。

 前のロイデアは車の事故の時のエネルギーで出現したんだろうし、さっきのロイデアも私の放った雷のエネルギーで出現したんだろう」

「おい」

「あるらしいんだよ。

 特定のロイデアの流れを誘導できる装置を作って、それを高額で売りつけている会社がな」


 衝撃の事実に開いた口が塞がらない。

 確かに、現代の技術を持ってすれば雨すら人工的に発生させられるが……ロイデアまで、そういったことが可能なのは驚く他ない。


「まあ、ロイデアの総数に比べれば1%にも満たないがな……まあ、いい気はしない」


 柵の上に立った彼は、遠くを見ながら呟いている。

 その顔はこちらからでは見えない。


「というより、助けてくれてもよかったじゃないか」

「何を言っている。

 お前のために、手を出さないでやったんだぞ」


 こちらに向き直した彼は、逆光で見えにくいならがも呆れた顔で僕を見下ろす。


「1対2なんて正義が許す訳ないだろ?

 正義のロイデアの意識がどうなっているか分からない以上、可能性は排除するに越したことない」

「……面倒だったからっていう訳じゃないんだな?」

「さあ、自分で考えろ契約者」


 怪しいなあ……。


「しかし、どうやって帰ろうか」

「日が落ちたら、抱えて帰ってやるよ」

「はいよ」


 旧式の体に入れていた財布と例の機械とスマホは、見事お陀仏になってしまい絶賛一文無しなのである。

 ちなみに、普通に体以外のことを忘れていたそう。

 詫び?で抱えて帰ってくれるらしいので、訴えてくる空腹を我慢してもう少し町が眠るまで待たなくてはいけない。

 地面に大の字になって、目を瞑る。


「あー、お腹すいた……」

「それはご苦労さん」

「……は?」


 目を開けると、よっとにこやかに笑う瞬月さんがいた。





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