10「青天の霹靂」
「なんっ」
「正義の味方は、名前を名乗ってから悪を成敗するのがルールだろ?
そもそも、名前を名乗らないのは自分の身分を隠したい悪人がすることじゃないか。
ボクは、正義の執行人だからね、そんなことする必要なんてないだろう?」
名前を名乗ったことに驚いていると、畳み掛けるように話を続ける。
「はは、いやー驚く位相性ピッタリだな。
……釣りやがったなあの餓鬼。これだからぷかぷか野郎は気に食わないんだよ」
「……釣り?」
空から真横に降りて来た
そんな彼が、意味ありげな単語を口にしたので思わず目の前の正義野郎には彼の姿を見えていない事も忘れて聞き返してしまった。
「……」
ピタリと、先程まで自分が優勢ですという顔をしていた正は見るからに身体を硬直させてスッとこちらを目を細めて見ていた。
「お前も、利用者か?
そうか、それなら君は悪い奴だな」
「は?」
目線を正から離したのはほんの数秒ではあったが、彼は先程までの頭のイカれている雰囲気から一転、殺意なんて生まれてこのかた受けたことなんて無い自分でも分かる程度には、隠す気のない殺意を銃弾と共に僕に寄越していた。
いつかの軽トラよろしく、本能的に理解する死の訪れと、スローモーションになる世界の先の銃を構えて真顔でこちらを見る彼を見つめる。
「悪い奴は死ね」
「さっさと生き返れ、まぬけ。
そもそも、銃持ち相手に視線を離すなアホ」
二つの真逆の言葉が死にゆく世界に響いた。
指パッチンをひと摘み。
そうすれば、ゴロゴロ、ガッッシャーーンと雷が2つ雲1つない空から地上に降り落ちた。
「うわっ!!!」
至近距離に2つも雷が落ちた正は、思わず腕で目元を覆った。
自然の閃光弾によってチカチカする視界を根性でなんとか耐えて辺りを見渡す。
何が起きた?
そもそも、先程も雷が落ちていたが……一度ならまだしもこの短時間に雨でも無いのにこんなに雷が落ちるのは流石におかしい。
「うらああああ!!!」
「ぐっ!?」
安定しない視界の先から出て来たのは、先程葬った筈の悪人であった。
銃を持っている方の手を蹴られ、予想していなかった反撃に銃を落としてしまう。
そのまま銃を蹴られ、ザッと銃が遠くに追いやられる。
「なん……で生きている!!」
銃弾は確実に当っていた!!
なのになんで生きているんだ!!
「うわー丸焦げだー!!」
いやーと情けない声を上げながら、悪人の男は先程いたはずの場所を見て落ち込んでいる。
その言葉に、何故か生きている悪人と真逆の正面を見ると雷が直撃したのか炭化した何かが地面に転がっている。
確かにそれは、焦げたタンパク質の匂いが微かにするが理解が追いつかない。
『正義のロイデアは、知的生命体に対しては強力な作用を発揮しますが戦闘能力は皆無に等しいです。
弊社は用途をお伺いするようなことはしませんが、戦闘は避けることをお勧めします』
脳裏によぎるのは、『釣り装置』を販売している販売人が言っていた言葉だった。
銃は遠くに追うやられ、手元には武器は何一つない。
「歯を食いしばれよ、クソ野郎」
それは、ただの右ストレートでしかなかった。
特に特筆すべきことがあるわけでもない、ただのパンチであった。
……だからこそ、痛かったのかもしれないが。
「ぐっ……人を殴るのってどうかと思うんだけど!!」
「人殺したお前に言われたくないわバーーーカ!!!」
どうして、どうして誰もわかってくれない。
悪い奴が居なくなれば世界は、今より少し綺麗になるはずなのに。
悪い奴を消さないと、連鎖して悪い奴が生まれてくるだけなのに。
誰かが、
酷いねと言うばかりで、遺憾を示すだけで何もしないお前らがなんで邪魔をするんだ!!
「うる……さい!!お前も口だけ人間の癖にボクを否定するなぁぁぁぁぁ!!」
ぶっと、殴られた拍子に切れた口内から血を吐き出して相手に右ストレートをお見舞いしてやる。
帯雷体という能力持ちとは思えない程度には原始的で泥臭く、喧嘩慣れしていないのが良く分かる2人青年の殴っては殴り返すの報復戦は暫く続いたのであった。
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